
離乳食は、多くの親にとって最初の大きな育児の壁です。ダウン症のある赤ちゃんの場合、「うまく飲み込めているだろうか」「進みが遅い気がする」と、不安がさらに大きくなりがちです。私も外来で、離乳食の悩みを打ち明けられることが少なくありません。けれども、正しい知識と少しの工夫があれば、離乳食の時間は不安なものではなくなります。
この記事では、ダウン症のある乳幼児の離乳食を、開始のサインから進め方、誤嚥を防ぐ工夫までまとめます。ダウン症のある赤ちゃんは筋肉の緊張がやわらかい「低緊張」の傾向があり、舌や口の動きがゆっくり育ちます。だからこそ、一般の目安に追い立てられず、その子のペースで進めることが何より大切です。あせらず、安全に、楽しく食べる力を育てるための一冊としてお使いください。
💡 この記事でわかること
- ダウン症の赤ちゃんの離乳食はいつから始めるか
- 離乳食を始めるサインと、低緊張との関係
- あせらず進めてよい理由(舌の動き・咀嚼の発達)
- ゴックン期からの進め方と、かたさ・形態の目安
- 誤嚥・窒息を防ぐ姿勢と食具の工夫、体重管理
ダウン症の赤ちゃんの離乳食はいつから?
結論から言うと、開始の目安は一般の赤ちゃんと同じ生後5〜6か月ごろです。ただし、月齢だけでなく、発達のサインを見て判断することが大切です。
離乳食は「◯か月になったから始める」ものではなく、「食べる準備が整ったから始める」もの。ダウン症のある赤ちゃんは発達がゆっくりな傾向があるため、月齢の目安より少し遅れて準備が整うこともあります。首すわりが安定していない段階で無理に始めると、誤嚥の危険が高まります。あせらず、赤ちゃんの様子をよく観察してください。周りの子より少し遅く始めることになっても、それは決して発達の遅れではなく、その子に合った安全なスタートを選んでいるだけです。厚生労働省の授乳・離乳の支援ガイドも、一般的な進め方の参考になります。
離乳食を始めるサインと低緊張の関係
離乳食を始めてよいかは、いくつかのサインで見極められます。月齢だけで決めず、赤ちゃんの体の準備を確かめましょう。
- 首がしっかりすわっている:飲み込みの安全に欠かせない土台です。
- 支えると座れる:安定した姿勢で食べられることが前提になります。
- 食べ物に興味を示す:大人の食事をじっと見る、口を動かすなどの様子です。
- スプーンを舌で押し出さない:押し出す反射が減ってきたら準備のサインです。
ダウン症のある赤ちゃんは低緊張の傾向があり、首すわりや支え座りがゆっくりになりがちです。これらのサインが月齢の目安より遅れて現れても、心配しすぎる必要はありません。準備が整うのを待つこと自体が、安全な離乳食の第一歩です。

あせらず進めてよい理由——舌の動きと咀嚼の発達
ダウン症のある赤ちゃんの離乳食は、一般よりゆっくり進んで当たり前です。その背景には、口や舌の発達の特徴があります。
低緊張の影響で、舌や唇、あごの動きがゆっくり育ちます。食べ物を舌で押しつぶす、左右に送る、といった動きの習得にも時間がかかります。また、舌が前に出やすい傾向があり、うまく飲み込むまでに練習が必要です。噛む力は、乳歯が生えそろう3歳ごろにかけて少しずつ育っていきます。ですから、離乳食の完了時期が一般の目安より遅くなっても、まったく問題ありません。大切なのは進む速さではなく、むせずに安全に食べられているかという一点です。周りと比べて焦る気持ちが湧いたときは、「この子のペースが正解」と思い出してください。
離乳食は、栄養をとるためだけの時間ではありません。スプーンを口で迎える、味わう、家族と食卓を囲む——そのすべてが、感覚やコミュニケーションを育てる大切な学びの場です。うまく食べられた日も、そうでない日も、「食べるって楽しいね」という空気を伝えることが、食への意欲を育てます。親が神経質になりすぎると、その緊張は赤ちゃんにも伝わってしまいます。肩の力を抜いて、笑顔で向き合うこと。それが遠回りのようでいて、いちばんの近道です。
ゴックン期からの進め方とかたさの目安
離乳食は、飲み込む・つぶす・噛むという段階を、ゆっくり順に進めます。それぞれの時期の形態を表で確認しておきましょう。あくまで目安で、赤ちゃんの様子に合わせて調整します。
| 段階 | 形態の目安 | 意識したい動き |
|---|---|---|
| ゴックン期 | なめらかにすりつぶした状態 | 飲み込む(嚥下) |
| モグモグ期 | 舌でつぶせるかたさ | 舌でつぶす |
| カミカミ期 | 歯ぐきでつぶせるかたさ | すりつぶす・噛む |
| パクパク期 | 歯ぐきで噛めるかたさ | 前歯でかじる |
次の段階へ急いで進めないことがコツです。ひとつの形態にじっくり慣れてから、少しずつ次へ。うまくいかないときは、無理せず前の段階に戻っても大丈夫です。行きつ戻りつしながら、その子の口の育ちに寄り添いましょう。食べる力の発達は、言語聴覚療法(ST)とも深く関わります。療育での支えについてはダウン症のある子どもの療育と生活もご覧ください。
誤嚥・窒息を防ぐ姿勢と食具の工夫
離乳食で最も気をつけたいのが、誤嚥と窒息です。低緊張のある赤ちゃんは、飲み込みが安定するまで特に注意が必要になります。
まず大切なのが食べるときの姿勢です。体が後ろに倒れていると、食べ物が気管に入りやすくなります。あごが軽く引けるよう、体を少し起こして、足の裏が安定する姿勢を整えましょう。椅子やクッションで体幹を支えると安定します。次に食具の工夫です。スプーンは平たく浅いものを選び、一口の量は少なめから。口の奥に入れすぎず、下唇にそっと乗せて、赤ちゃんが自分で上唇で取り込むのを待ちます。この「自分で取り込む」動きが、口の機能を育てる大切な練習になります。急がず、飲み込んだのを確認してから次の一口へ。テレビを消し、食事に集中できる静かな環境を整えることも、むせの予防につながります。もし食事中に激しくむせたり、顔色が変わったりしたときは、すぐに食事を中断し、落ち着いて背中をさすってください。心配な症状が続くときは、早めにかかりつけの小児科に相談しましょう。
食べることは、成長とともに少しずつ上達していきます。Xでは、幼いお子さんの食事の様子を綴る親御さんの投稿も多く見かけます。@chunnnnn_mamaさんは、ダウン症のあるお子さんが外食でエビフライのしっぽまで食べていた、と楽しそうに投稿していました。時間はかかっても、しっかり食べる力が育っていく——そんな日常の一コマに、私も励まされます。

飲み込みやすくする調理の工夫
同じ食材でも、調理のひと工夫で格段に食べやすくなります。低緊張で飲み込みがゆっくりな赤ちゃんには、この工夫が大きな助けになります。
ポイントは、食べ物を口の中でまとまりやすくすることです。ぱさつくものや、口の中でばらけるものは、うまく飲み込めずむせの原因になります。おかゆやマッシュしたいも類など、自然にまとまる食材から始めると安心です。慣れてきても、水分の多いものと固形が混ざった状態(例えば具だくさんの汁物)は、意外と飲み込みにくいことがあります。
- とろみをつける:片栗粉やベビーフードのとろみ剤で、飲み込みをなめらかにします。
- なめらかにつぶす:繊維の多い野菜は、しっかりつぶすか裏ごしします。
- ひと口大にまとめる:ばらけやすいものは、あんかけなどでまとめます。
丸のみしやすい豆やミニトマト、弾力の強いものは、月齢が進んでも窒息の危険があります。小さく切る、加熱してやわらかくするなど、最後まで油断せず備えてください。
体重管理と、困ったときの相談先
離乳食が進む時期には、栄養と体重のバランスにも目を向けたいところです。ダウン症のある子は、成長とともに肥満になりやすい傾向があるためです。
とはいえ、乳幼児期はまず「食べる力を育てること」が優先です。極端な制限は必要ありません。バランスのよい食事を基本に、成長曲線を見ながら、かかりつけ医と相談して進めましょう。おやつを与えるときも、甘いものに偏らず、食事の一部と考えると自然に量を整えられます。よく体を動かす習慣も、この時期から少しずつ育てておくと将来の健康につながります。心疾患などの合併症がある場合は、疲れやすさから哺乳や食事に時間がかかることもあります。哺乳や食事の量・とり方について、主治医の指示を確認してください。合併症についてはダウン症に起こりやすい合併症と治療法で解説しています。
離乳食が思うように進まないときは、ひとりで抱え込まないでください。言語聴覚士(ST)や管理栄養士、かかりつけの小児科が心強い相談先になります。Xで@shu_song71576さんは、「発語はなくても、ちゃんと自分の意思と感情を伝えてくれる」とお子さんの様子を綴っていました。食べることも同じで、言葉にならなくても、赤ちゃんは「おいしい」「もういらない」を全身で伝えてくれます。そのサインを受け止めながら進めることが、楽しい食事の時間につながります。制度面の支えはダウン症児の支援制度〜教育・医療〜もあわせてどうぞ。
よくある質問(FAQ)
ダウン症の赤ちゃんの離乳食について、外来でよくいただく質問にお答えします。日々の食事の参考にしてください。
ダウン症の赤ちゃんの離乳食はいつから始めますか?
目安は一般と同じ生後5〜6か月ごろですが、月齢よりも発達のサインで判断します。首すわりが安定し、支えると座れるようになってから始めると安全です。
離乳食の進みが遅くて心配です。
低緊張の影響で舌や口の動きがゆっくり育つため、進みが遅くて当たり前です。噛む力は3歳ごろにかけて育ちます。速さより、むせずに安全に食べられているかを大切にしてください。
誤嚥を防ぐにはどうすればいいですか?
体を少し起こし、あごが軽く引ける姿勢を整えます。足の裏が安定するよう椅子やクッションで支え、一口は少なめに。飲み込んだのを確認してから次の一口へ進めてください。
次の段階へはいつ進めればいいですか?
ひとつの形態にじっくり慣れてから進めます。急がず、うまくいかなければ前の段階に戻っても大丈夫です。行きつ戻りつしながら、その子の口の育ちに合わせましょう。
体重が増えすぎないか心配です。
肥満になりやすい傾向はありますが、乳幼児期はまず食べる力を育てることが優先です。極端な制限は不要です。成長曲線を見ながら、かかりつけ医と相談して進めてください。
離乳食がうまくいかないとき、どこに相談できますか?
言語聴覚士、管理栄養士、かかりつけの小児科が相談先になります。療育の場でも食べる力を支えてもらえます。ひとりで抱え込まず相談してください。
まとめ
ダウン症の赤ちゃんの離乳食は、開始も進みも一般よりゆっくりで構いません。低緊張の影響で舌や口の動きがゆっくり育つため、月齢の目安に追い立てられる必要はないのです。首すわりなどのサインを確かめてから始め、安全な姿勢と少なめの一口で、誤嚥を防ぎながら進めていきましょう。
速さを競うものではなく、むせずに、楽しく食べられること。それが何よりの目標です。調理のひと工夫と安全な姿勢を味方につければ、食事の時間はぐっと安心できるものになります。うまくいかないときは、言語聴覚士や栄養士、かかりつけ医を頼ってください。私たちヒロクリニックNIPTは、妊娠中のご相談から、生まれた後の育児の見通しまで、ご家族に寄り添います。妊娠中から見通しを知りたい方は出生前検査で分かるダウン症のリスク・確率・検査もご覧ください。
監修:岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、医学博士。国内でも数少ないラボディレクター資格を持ち。著書『妊娠したら最初に読んで欲しい本』。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、公的機関の情報を参照して作成しています。離乳食の進め方には個人差があり、心疾患などがある場合は主治医の指示を優先してください。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本小児科学会 小児科専門医/日本小児科学会認定 出生前コンサルト小児科医/小児科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本小児科学会 小児科専門医/日本アレルギー学会 所属/小児科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
参考文献
- Luke A, Roizen NJ, Sutton M, Schoeller DA. Energy expenditure and body composition in children with Down's syndrome. J Pediatr. 1994 Jul;125(1):75-81.
- Sgambat K, Clauss S, Moudgil A. Nutritional Status of Children with Down Syndrome. Pediatr Health Med Ther. 2021 May 14;12:201-210.
- Licastro F, Mocchegiani E, Zannotti M, Arena G, Masi M, Fabris N. Zinc affect the metabolism of thyroid hormones in children with Down's syndrome. J Endocrinol Invest. 1992 Nov;15(10):733-7.

