Baraitser-Winter症候群2型(BRWS2)は、ACTG1遺伝子の変異によって起こる先天性疾患です。極めて稀な疾患のひとつです。検査結果に「ACTG1」という見慣れない遺伝子名が記載され、この記事にたどり着いた方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、原因のしくみから症状の特徴、診断の流れを整理します。あわせて、日々の支援の考え方も、公的機関や医学文献の情報にもとづいて紹介します。
この記事でわかること
- BRWS2の原因(ACTG1遺伝子の変異)と、体の中で起きていること
- 顔立ち・脳の構造・進行性の難聴など、主な症状の特徴
- 診断に使われる遺伝学的検査(マルチ遺伝子パネル・全エクソーム解析)の流れ
- 治療ではなく「早期支援・多職種連携」による管理の考え方
- NIPT・拡大検査とBRWS2の関係、確認しておきたいポイント
結論|Baraitser-Winter症候群2型(BRWS2)とは
BRWS2は、γ-アクチン(gamma-actin)を作るACTG1遺伝子の変異が原因で起こる疾患です。特徴的な顔立ち、脳の構造異常、そして進行性の難聴を伴うことが知られています。
よく似た疾患にBaraitser-Winter症候群1型(BRWS1)があります。BRWS1の原因はACTB遺伝子、BRWS2の原因はACTG1遺伝子です。臨床症状は大部分が重なりますが、原因遺伝子が異なるため、遺伝学的検査での区別が必要になります。
私自身、遺伝カウンセリングの外来で、検査結果に見慣れない遺伝子名が記載されて戸惑うご家族に出会うことがあります。まず知っていただきたいのは、症状の現れ方には個人差が大きいという事実です。
原因はACTG1遺伝子の変異です|γ-アクチンのしくみ
BRWS2の原因は、第17染色体(17q25.3)にあるACTG1遺伝子のヘテロ接合型変異です。この変異が、細胞の骨格を支えるタンパク質の働きを変えてしまいます。
γ-アクチンの役割
ACTG1遺伝子は、細胞質γ-アクチンというタンパク質の設計図です。γ-アクチンは、ほぼすべての細胞で形や動きを支える骨組みの役割を担っています。とりわけ、内耳の有毛細胞にある不動毛(stereocilia)の維持に欠かせません。
この変異は、タンパク質の働きを失わせるものではありません。むしろ、通常とは異なる働きを新たに持たせてしまう「機能獲得型」の変化だと、専門文献では報告されています。この結果、神経細胞が正しい位置へ移動する過程(ニューロン・マイグレーション)が妨げられます。脳の構造異常につながると考えられています。
常染色体顕性遺伝と新生変異(de novo)
BRWS2は常染色体顕性遺伝の形式をとる疾患です。片方の親からの変異でも発症しうる遺伝形式ですが、実際には多くの症例が新生変異(de novo mutation)によって生じます。つまり、両親のどちらにもBRWS2の症状がなくても、お子さんに新たに変異が生じることがあるということです。両親に原因となる変異がなかったご家族も、決して珍しくありません。遺伝の基本的なしくみは遺伝の基本知識を解説した記事でも整理しています。
ACTG1変異と遺伝性難聴(DFNA20/26)の関係
興味深いことに、ACTG1遺伝子の変異は、BRWS2とは別の疾患も引き起こします。難聴以外の症状を伴わない遺伝性難聴です。常染色体顕性のDFNA20/26として知られる病型で、これも報告されています。同じ遺伝子でも、変異の場所や性質によって症状の範囲が大きく異なる点が、この疾患群の特徴といえるでしょう。詳しい分子メカニズムは、GeneReviews(NCBI)のBaraitser-Winter症候群の項目で解説されています。
主な症状と特徴|顔立ち・脳・難聴のポイント
BRWS2の症状は、顔立ち・脳の構造・聴覚の3領域に大きな特徴が現れます。ただし、現れ方や程度は一人ひとり異なります。
米国国立医学図書館(NCBI)が公開するGeneReviewsの文献データでは、それぞれの症状の頻度が次のように整理されています。数値はこれまでに報告された症例をもとにした目安であり、すべての方に当てはまるわけではありません。
| 症状のカテゴリ | 報告されている頻度の目安 | 具体的な特徴 |
|---|---|---|
| 顔立ちの特徴 | ほぼ全例 | 眼間解離、眼瞼下垂、幅広く上を向いた鼻先など |
| 発達の遅れ・知的障害 | 95%超 | 言語発達の遅れ、学習面の困難 |
| 脳の構造異常 | 約61% | 厚脳回(パキジリア)、皮質下帯状異形成 |
| てんかん | 約50% | 皮質形成異常に伴う発作 |
| 胃腸機能の問題 | 約41% | 哺乳・消化にまつわる困難 |
| 心血管系の異常 | 約38% | 先天性心疾患を伴うことがある |
| 感音性・伝音性の難聴 | 約35% | 進行性であることが多い |
特徴的な顔立ち
眼間解離(両眼の間隔が広い)、眼瞼下垂、高くアーチ状の眉が代表的です。幅広く上を向いた鼻先も、よく見られる特徴です。これらは、BRWS1と共通する「Baraitser-Winter顔貌」として知られています。
脳の構造異常(皮質形成異常)
脳のMRI検査では、次のような所見が確認されることがあります。前頭葉から中心部にかけて所見が強く出る傾向が報告されています。
- 厚脳回(Pachygyria):脳の溝が少なく、脳回が太くなっている状態
- 皮質下帯状異形成:本来とは異なる位置にニューロンがとどまってしまう状態
脳の構造異常があっても、発達の伸び方は一人ひとり違います。画像所見だけで将来を判断することはできません。
進行性の感音性難聴
BRWS2では、感音性難聴が高い頻度で見られます。出生時は軽度でも、幼児期から学童期にかけて進行し、補聴器や人工内耳が必要になる例が報告されています。難聴の経過については、Baraitser-Winter症候群の難聴に関する症例報告(PMC)にも詳しい記載があります。
てんかん・発達・全身の特徴
てんかんは約半数に見られ、関節の柔軟性の低さや低身長を伴うこともあります。発達面では、言語発達の遅れや学習面の困難がほぼ全例で報告されています。発達の遅れとNIPTの関係は、NIPTと知的障害の確率を解説した記事もあわせてご覧ください。
診断の流れ|遺伝学的検査でわかること
BRWS1とBRWS2は臨床症状だけで見分けることが難しく、確定には遺伝学的検査が不可欠です。診断は、いくつかの段階を踏んで進められます。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 臨床評価 | 顔立ちの特徴、神経学的評価(MRI)、聴力検査、眼科検査 |
| 2. マルチ遺伝子パネル解析 | ACTBやACTG1を含む、皮質形成異常に関連する遺伝子群を一括で解析 |
| 3. 全エクソーム解析(WES)/全ゲノム解析 | パネル検査で判定できない場合や、新規変異が疑われる場合に実施 |
ACTG1やACTBの変異は、多くがミスセンス変異です。そのため、遺伝子の一部が丸ごと欠けたり重複したりする検査(欠失重複解析)よりも、塩基配列そのものを読むシークエンス解析が重視されます。BRWS2と診断された場合は、前述のACTG1関連難聴の側面も踏まえた聴力フォローが欠かせません。

治療ではなく「早期支援」|聴覚・てんかん・発達のケア
BRWS2そのものを根本から治す治療法は、現時点では確立されていません。そのため、早期の支援と多職種による継続的なフォローが管理の中心になります。
聴覚への早期介入
進行性の難聴が予測されるため、定期的な聴力評価(ABR検査など)を続けます。必要なタイミングで補聴器や人工内耳の導入を検討してください。早期の聴覚確保は、言語発達や認知機能の発達を支える土台になります。
てんかん管理と神経学的フォロー
皮質形成異常がある場合、脳波検査(EEG)による定期的なモニタリングが必要です。抗てんかん薬への反応は症例ごとに異なるため、主治医と相談しながら調整を続けることが大切です。
多職種連携によるケア
遺伝科・耳鼻科・小児神経科・眼科・整形外科・療育の担当者が連携し、定期的な経過観察を行う体制が推奨されています。次のような窓口が、実際の支援先になります。
- 遺伝科:確定診断と、ご家族への遺伝カウンセリング
- 耳鼻科:難聴の進行を見きわめる定期フォロー
- 小児神経科:てんかんと発達の管理
- 療育センター:理学療法・作業療法・言語療法による発達支援
私が診療で大切にしているのは、診断名だけで終わらせず「今日から何を整えるか」を家族と一緒に考えることです。窓口が多いほど不安になりやすいからこそ、まず1つの相談先を決めてください。
経過と将来の見通し|正確に知っておきたいこと
BRWS2の長期経過に関する報告は、まだ数が限られています。断定的な見通しを示すことは、現時点では誠実ではありません。
GeneReviewsによると、40歳を超えて追跡された報告例は6名にとどまり、最も高齢の報告例は62歳です。一部の報告では、成人期に筋力低下や側弯の進行、骨密度の低下がみられた例も記載されています。一方で、これらは限られた症例数にもとづく情報であり、多くの公表データは小児期の症例に偏っている点も踏まえる必要があります。
症状の重さや経過は、同じBRWS2でも一人ひとり大きく異なります。「必ずこうなる」という決めつけではなく、定期的な多職種フォローを続けながら、その都度の状態に合わせて対応していく姿勢が現実的でしょう。気になる症状の変化があれば、早めに主治医へ相談してください。
NIPT・拡大検査とBRWS2の関係
13・18・21トリソミーなどを対象とする標準的なNIPTでは、ACTG1遺伝子の変異は検出できません。BRWS2は染色体の数の変化ではなく、1つの遺伝子内の点変異が原因だからです。
全エクソーム解析(WES)を含む拡大検査であれば、単一遺伝子疾患の一部を検出できる可能性があります。ただし、対象となる遺伝子の範囲は検査会社やプランごとに異なります。ACTG1が含まれているかどうかは、検査を受ける前に主治医や遺伝カウンセラーへ確認することが欠かせません。
もう1つ知っておきたいのは、BRWS2の多くが新生変異によるという点です。ご両親のどちらにも原因変異がなくても、お子さんに新たに生じることがあります。そのため、家族歴の有無だけで発症の可能性を判断することはできません。NIPTでどのような疾患がわかり、何が対象外なのかについては、NIPTで見つかる可能性のある疾患を整理した記事でも詳しく解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. BRWS1とBRWS2は何が違いますか?
原因となる遺伝子が異なります。BRWS1はACTB遺伝子、BRWS2はACTG1遺伝子の変異が原因です。臨床症状の多くは共通していますが、確定診断には遺伝学的検査による区別が必要です。
Q2. 両親に原因がなくても子どもに発症しますか?
はい、そうしたケースが多く報告されています。BRWS2の多くは新生変異(de novo mutation)によって生じ、家族歴がない場合でも発症しえます。次のお子さんへの遺伝リスクについては、遺伝カウンセリングでの個別評価が大切です。
Q3. 難聴は必ず進行しますか?
すべての方に当てはまるわけではありませんが、進行性の経過をたどる例が多く報告されています。出生時は軽度でも、成長とともに悪化することがあるため、定期的な聴力評価を続けることが勧められます。
Q4. 標準のNIPTでBRWS2はわかりますか?
わかりません。標準的なNIPTは13・18・21トリソミーなど染色体の数の変化を対象とした検査です。BRWS2は1つの遺伝子内の点変異が原因のため、全エクソーム解析を含む拡大検査の対象範囲を個別に確認する必要があります。
Q5. 治療法はありますか?
現時点では、BRWS2そのものを根本から治す治療法はありません。聴覚・てんかん・発達など、症状ごとの早期支援と多職種による継続フォローが管理の中心になります。
Q6. 診断されたら、まず何から始めればよいですか?
まずは遺伝科での確定診断と、ご家族への遺伝カウンセリングから始めてください。あわせて、聴力検査・眼科検査・神経学的評価を受け、必要な専門科と早めにつながることが安心につながります。
Baraitser-Winter症候群2型は、ACTG1遺伝子の変異が脳と内耳の形成に影響を及ぼす、極めて稀な疾患です。診断名を知ることは、不安の入口ではなく、必要な支援につながる出発点です。医療機関・療育の現場・ご家族が正しい理解を積み重ねていくことが、お子さんの可能性を広げる力になります。
より詳しい医学情報は、米国NIH・GARD(Genetic and Rare Diseases Information Center)やMedlinePlus Geneticsでも確認できます。症例報告としては、BRWS2の臨床像を整理した文献(PMC)も参考になります。
監修者
岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック 統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本とアメリカの医師国家試験に合格。臨床研修後2年で医学博士を取得。日本に約20人ほどしかいないラボディレクター資格を保有しています。産婦人科・小児科・臨床遺伝の専門医と連携し、遺伝カウンセリングを重視した出生前診断を提供しています。
※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としています。診断や治療方針については、必ず主治医・臨床遺伝専門医にご相談ください。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
