CLN5型神経セロイドリポフスチン症【CLN5】

やさしいまとめ

CLN5型神経セロイドリポフスチン症(CLN5-NCL)は、まれな遺伝性の脳の病気で、主に幼児期から小児期に発症します。
この病気では、運動の不器用さや言葉の遅れ、視力低下、てんかん発作などが少しずつ現れ、進行していきます。
CLN5遺伝子という遺伝子の変化が原因で、細胞の中の「お掃除機能」がうまく働かなくなることがわかっています。
現在のところ根本的な治療法はありませんが、症状を和らげるケアや、研究段階の遺伝子治療が進められています。
このページでは、CLN5型について、遺伝の仕組み・症状・検査・治療の選択肢までを、専門用語をやさしく解説しながらご紹介しています。

遺伝子領域 | Implicated Genomic Region

CLN5

CLN5

CLN5型神経セロイドリポフスチン症(CLN5-NCL)の原因となるCLN5遺伝子は、ヒトの第13染色体のq22.3領域(13q22.3)に位置しています。この遺伝子は、リソソーム(lysosome:細胞内の不要な物質を分解・再利用する「細胞内の清掃工場」)内で働く可溶性糖タンパク質(soluble lysosomal glycoprotein)をコードしています。

もともとは膜に結合したタンパク質と考えられていましたが、現在では、プロテアーゼ(protease:タンパク質を分解する酵素)によって処理され、リソソーム内で機能する可溶性タンパク質になることが明らかになっています。CLN5タンパク質は、他の神経セロイドリポフスチン症関連のタンパク質(CLN1、CLN2、CLN3、CLN6、CLN8など)や、細胞内輸送に関与するタンパク質(sortilin、Rab7など)と相互作用します。

このような機能から、CLN5はリソソームの恒常性(homeostasis)維持や、細胞内でのタンパク質輸送の調整に関わる重要な役割を果たしていると考えられています。

疾患名 | Disorder

神経セロイドリポフスチン症CLN5型(Neuronal Ceroid Lipofuscinosis, CLN5 Type)
別名:フィンランド型遅発性乳児型NCL(Finnish variant late-infantile NCL, vLINCL)

概要 | Overview

CLN5型神経セロイドリポフスチン症(CLN5-NCL)は、まれな遺伝性のリソソーム病(lysosomal storage disorder)で、進行性の神経変性(neurodegeneration)を引き起こします。CLN5は、神経セロイドリポフスチン症(NCL:Neuronal Ceroid Lipofuscinosis)と呼ばれる一連の疾患群のひとつで、NCLはバッテン病(Batten disease)とも総称されます。

この疾患は、主に小児期に発症し、4歳から7歳ごろに最初の症状が現れることが多いですが、もっと早く、あるいは遅く発症することもあります。最初の兆候としては、運動の不器用さや発達の後退(psychomotor regression)が見られます。その後、視力低下(visual impairment)、てんかん(epilepsy)、運動失調(ataxia)、知的機能の低下(cognitive decline)などが徐々に進行します。

進行性で治療が困難な疾患ですが、近年は遺伝子治療などの研究も進められています。

疫学 | Epidemiology

CLN5型は極めてまれな疾患(ultra-rare disease)とされており、正確な発症頻度は不明ですが、特にフィンランドで多く報告されており、他の地域に比べて高い頻度(4.8/100,000出生)が示されています。

世界的な発症率は一般に100,000人あたり1〜3人と推定されており、他のNCLタイプ(CLN1〜CLN14)の中でもCLN5型はまれな部類に入ります。

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病因 | Etiology

この疾患は、CLN5遺伝子の両方のコピーに病的な変異がある場合(常染色体劣性遺伝:autosomal recessive)に発症します。これまでに50種類以上の病原性変異が報告されており、ミスセンス変異(amino acidの置換)、ナンセンス変異(途中で翻訳終了)、フレームシフト変異などが含まれます。最も多いのは、Y392*(旧称Y343*)というナンセンス変異で、フィンランドにおける多数の症例で確認されています。

CLN5タンパク質の役割には以下のようなものがあります:

  • タンパク質のS-脱パルミトイル化(S-depalmitoylation):タンパク質の膜局在や輸送に重要
  • BMP合成(BMP:Bis(monoacylglycero)phosphate):リソソーム内の脂質代謝を調整
  • リソソーム酵素の輸送と再利用
  • 細胞小器官(ミトコンドリアなど)間の情報伝達(organelle crosstalk)

これらの機能障害が、結果として神経細胞の死と脳機能の低下につながります。

症状 | Symptoms

CLN5型の症状は年齢とともに進行し、主に以下のような神経症状が見られます:

  • 運動症状:運動失調(歩行時のふらつき、不器用さ)、筋力低下
  • 認知機能の変化:言語の遅れ、学習や理解力の低下、認知症的変化
  • 視覚障害:網膜変性により視力が徐々に低下、失明に至ることも
  • てんかん発作:全般性発作、ミオクローヌス(筋肉のピクつき)など
  • 行動の変化:不安定な情緒、過敏、社交的回避
  • 睡眠障害:入眠困難、中途覚醒などがあり、てんかんを悪化させることも

ほとんどの患者さんは小学校入学前後に初発症状を示し、10代半ばまでに歩行が困難になり、視力を完全に失うこともあります。

検査・診断 | Testing & Diagnosis

正確な診断には、複数の検査と評価が必要です:

  1. 臨床的観察:発達の遅れや退行、視力低下、難治性てんかんなどがみられる場合に疑います。
  2. 脳MRI(磁気共鳴画像)
    • 大脳や小脳の萎縮(atrophy)が確認されることがあります。
    • 白質の異常信号も見られることがあります。
  3. 皮膚や結膜の生検(biopsy)
    • 電子顕微鏡で観察すると、リソソーム内に自家蛍光性の色素顆粒(lipopigments)が確認され、特徴的な形(指紋様、曲線状、顆粒状)を呈します。
  4. 遺伝子検査
    • 次世代シーケンシング(NGS:Next-Generation Sequencing)などで、CLN5遺伝子の病的変異を確認します。
  5. 補助的な検査
    • 血液や皮膚細胞からの酵素活性測定や、iPS細胞を用いた機能評価が研究レベルで行われています。

治療法と管理 | Treatment & Management

現時点で、CLN5病に対する根本的な治療法は存在しません。そのため、現在の治療は対症療法と生活の質の向上を目的としたものになります。

対症療法

  • てんかん管理:
    • バルプロ酸(valproic acid)、ベンゾジアゼピン系薬剤(benzodiazepines)、レベチラセタム(levetiracetam)が推奨されます。
    • フェニトイン(phenytoin)やビガバトリン(vigabatrin)は症状を悪化させる可能性があるため、注意が必要です。
  • 運動障害の治療:
    • バクロフェン(baclofen)、トリヘキシフェニジル(trihexyphenidyl)、ボツリヌス毒素(botulinum toxin)などが用いられます。
  • 栄養・呼吸管理:
    • 嚥下障害が進行した場合は胃瘻(PEG)が検討され、呼吸理学療法が行われることもあります。

進行抑制を目指した治療研究

  • 遺伝子治療(Gene Therapy)
    • AAV9(アデノ随伴ウイルス9型)ベクターを用いた髄腔内投与によるCLN5遺伝子導入が、CLN5欠損羊モデルで良好な効果を示しました。
    • 症状が出る前の早期投与で最も効果が高く、ヒトへの応用に向けた臨床試験の準備が進められています。
  • 基質蓄積抑制療法(Substrate Reduction Therapy)
    • ミグルスタット(Miglustat)という薬剤が、リソソームに蓄積する脂質を減らす可能性があり、CLN3型を対象とした試験が進行中です。CLN5型への応用は検討段階です。
  • 酵素補充療法(ERT:Enzyme Replacement Therapy)

CLN2型ではセリルポナーゼアルファ(cerliponase alfa)が承認されていますが、CLN5型への応用にはさらなる研究が必要です。

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予後 | Prognosis

CLN5型は進行性かつ致死的な神経疾患です。発症年齢は4〜7歳が一般的で、13歳から30歳前後で死亡するケースが多いです。ただし、稀に症状の進行が遅い例も報告されています。

早期の診断と支援体制の構築が、生活の質を保ち、今後期待される治療法へのアクセスを可能にするために重要です。

やさしい言葉の説明|Helpful Terms

遺伝子(Gene)
体の中で「設計図」のような働きをする情報です。遺伝子の異常があると、特定のタンパク質が正しく作られず、病気の原因になることがあります。

常染色体劣性遺伝(Autosomal Recessive Inheritance)
両親からそれぞれ「病気の原因となる遺伝子」を1つずつ受け取ることで発症する遺伝のしかたです。両親は症状のない「保因者(キャリア)」であることが多いです。

CLN5遺伝子(CLN5 Gene)
神経の健康を保つために必要な働きをする遺伝子です。これに異常があると、CLN5型の神経の病気になります。

リソソーム(Lysosome)
細胞の中で「ゴミを分解する袋」のような役割をしている場所です。不要になったものを壊してきれいにする機能があります。

神経セロイドリポフスチン症(Neuronal Ceroid Lipofuscinosis, NCL)
脳や目の神経に「壊れた物質」がたまってしまい、神経が少しずつ壊れていく病気の総称です。CLN5型はこの中の一つのタイプです。

バッテン病(Batten Disease)
NCLの別名で、特に小児期に発症するタイプをまとめて呼ぶときに使われます。ご家族や支援団体ではこの名前で呼ばれることも多いです。

進行性(Progressive)
時間とともに少しずつ症状が進んでいく性質を意味します。最初は軽い症状でも、だんだん悪くなっていく可能性があります。

発達退行(Developmental Regression)
これまでにできていた言葉や動きが、少しずつできなくなっていく状態です。CLN5病では初期にこのような変化が見られます。

視力低下(Vision Loss)
目の神経がだんだん働かなくなり、見えにくくなったり失明したりすることがあります。多くの場合、他の症状より少し遅れて出てきます。

てんかん(Epilepsy)
脳の電気信号の乱れによっておこる発作です。CLN5病では薬に反応しにくい場合もあります。

ミオクローヌス(Myoclonus)
体の一部がピクッと勝手に動くような筋肉のけいれんです。てんかん発作の一種として見られることがあります。

運動失調(Ataxia)
手足を思ったように動かせなかったり、ふらふらして転びやすくなったりする状態です。

MRI(磁気共鳴画像法/Magnetic Resonance Imaging)
体の中を詳しく見るための検査で、特に脳の状態を調べるときによく使われます。CLN5病では脳の「萎縮(すいしゅく)」が見つかることがあります。

生検(Biopsy)
皮ふや目の一部を少しだけ取って、細胞の中を調べる検査です。CLN5病では「色素のたまり方」が診断の手がかりになります。

自家蛍光性色素(Autofluorescent Lipopigment)
病気の細胞にたまる特別な色素で、紫外線をあてると光ります。電子顕微鏡などで確認できます。

次世代シーケンシング(NGS: Next-Generation Sequencing)
多くの遺伝子を一度に調べられる最新の遺伝子検査方法です。CLN5病の確定診断に使われます。

対症療法(Symptomatic Treatment)
病気そのものを治すのではなく、出ている症状を少しでも楽にするための治療です。

遺伝子治療(Gene Therapy)
壊れている遺伝子を正しく働くようにする治療法です。CLN5病では研究段階にあり、動物で効果が出ている例があります。

酵素補充療法(ERT: Enzyme Replacement Therapy)
足りない酵素(こうそ)を体の中に入れて、病気の進行を遅らせる治療法です。CLN5ではまだ実用化されていませんが、他のタイプで使われています。

予後(Prognosis)
病気が今後どう進んでいくか、どのくらい生きられるかの見通しのことです。CLN5病では10代〜30歳ごろまで生きる方が多いと報告されています。

保因者(Carrier)
病気の遺伝子を1つ持っているけれど、自分には症状が出ない人のことです。両親が保因者である場合に、子どもに病気が出る可能性があります。

引用文献|References

キーワード|Keywords

CLN5, 神経セロイドリポフスチン症, バッテン病, リソソーム病, 常染色体劣性, 13q22.3, 自家蛍光性色素, 発達退行, ミオクローヌス, 運動失調, 視力障害, てんかん, 遺伝子治療, AAV9, 酵素補充療法, 神経変性, リソソーム機能障害, 自食作用(オートファジー), BMP合成酵素, Rab7, sortilin, 網膜変性, ミクログリア, 酸化ストレス, 脂質代謝, 発達遅延

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