概要
アデノシンデアミナーゼ欠損症(ADA欠損症)は、体を守る免疫のはたらきが生まれつき大きく損なわれる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ADA 遺伝子の変化が原因となります。
重症複合免疫不全症(SCID)の代表的な原因のひとつで、生後まもなくから重い感染症をくり返します。早く見つけて治療を始めることが、命を守るうえで決定的に大切です。
原因
ADA 遺伝子は、アデノシンデアミナーゼという酵素の設計図です。この酵素は、細胞のなかで使い終わった核酸(DNAやRNAの材料)を分解する過程ではたらいています。
酵素がはたらかないと、デオキシアデノシンという物質が体にたまります。この物質はリンパ球にとって毒性が強く、免疫の中心となるT細胞・B細胞・NK細胞が育たなくなります。
症状
- 生後数か月からの重い感染症(肺炎、下痢、カンジダ症など)のくり返し
- 体重が増えない、成長が止まる
- リンパ節や扁桃が小さい、胸腺が写らない
- 肋骨や骨盤の骨の変形
- 難聴、発達の遅れ、行動の問題(免疫以外の症状)
- 一部には、学童期以降にゆっくり発症する型(遅発型)もある
検査・診断
血液検査でリンパ球が著しく少ないこと、赤血球中のADA酵素活性が低いこと、デオキシアデノシン代謝物(dAXP)の増加で診断します。ADA 遺伝子の解析によって確定します。新生児マススクリーニング(TREC測定)で早期に見つかることがあります。
治療
- 造血幹細胞移植(HLAの合う提供者がいる場合の第一選択)
- 酵素補充療法(ペグ化ADAの定期的な注射)
- 遺伝子治療(患者さん自身の細胞に正常な遺伝子を導入する。欧州で承認されています)
- 感染を防ぐための抗菌薬・抗真菌薬の予防投与、免疫グロブリンの補充
- 診断がつくまでは生ワクチンを避ける
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる ADA 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ADA 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
ADA欠損症は ADA(20q13.12)の両アレル変異により生じ、重症複合免疫不全症(SCID)の約10〜15%を占める。ADAはプリンサルベージ経路の酵素で、アデノシンおよびデオキシアデノシンをそれぞれイノシン・デオキシイノシンへ脱アミノ化する。
欠損によりdATPが細胞内に蓄積し、リボヌクレオチドレダクターゼを阻害してDNA合成を障害する。リンパ球は特に感受性が高く、T細胞・B細胞・NK細胞のいずれもが減少する T-B-NK- 型SCIDを呈する。
ADAは全身の細胞に発現するため、免疫系以外にも感音難聴、神経発達障害、肺胞蛋白症、肝障害、骨異形成といった非免疫学的症状を伴う点が、他のSCIDとの相違点である。
治療は同種造血幹細胞移植、ペグ化ADAによる酵素補充療法(ADAGEN/REVCOVI)、および自家造血幹細胞を用いた遺伝子治療(Strimvelis:欧州で2016年承認)。TRECを指標とする新生児スクリーニングにより発症前診断が可能となり、予後が大きく改善している。
よくある質問
Q. どれくらい急いで治療が必要ですか?
A. きわめて急を要します。重症型では、治療をしなければ乳児期に命にかかわります。診断がついたらすぐに専門施設へご紹介します。
Q. 移植以外の治療はありますか?
A. 酵素を定期的に注射する酵素補充療法や、遺伝子治療があります。どの治療を選ぶかは、提供者の有無や全身の状態によります。
Q. 予防接種は受けられますか?
A. 診断がつくまで、および治療で免疫が回復するまでは、生ワクチン(BCG、ロタ、麻疹風疹など)は避ける必要があります。必ず担当の先生にご確認ください。
Q. 免疫以外にも症状が出ると聞きました。
A. はい。この酵素は全身の細胞ではたらいているため、難聴や発達の遅れ、骨の変形などを伴うことがあります。
Q. 次の子も同じ病気になりますか?
A. 常染色体潜性(劣性)遺伝です。ご両親がどちらもキャリア(保因者)の場合、妊娠のたびに4分の1の確率です。出生前に調べることもできます。
参考文献
- Giblett ER, Anderson JE, Cohen F, et al. Adenosine-deaminase deficiency in two patients with severely impaired cellular immunity. Lancet. 1972;2(7786):1067-1069.
- Hershfield M, Tarrant T. Adenosine Deaminase Deficiency. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle.
- Aiuti A, Roncarolo MG, Naldini L. Gene therapy for ADA-SCID, the first marketing approval of an ex vivo gene therapy in Europe. EMBO Mol Med. 2017;9(6):737-740.
- Kohn DB, Hershfield MS, Puck JM, et al. Consensus approach for the management of severe combined immune deficiency caused by adenosine deaminase deficiency. J Allergy Clin Immunol. 2019;143(3):852-863.
- OMIM #102700 Adenosine deaminase deficiency
