概要
β-ケトチオラーゼ欠損症(ミトコンドリアアセトアセチルCoAチオラーゼ欠損症・α-メチルアセト酢酸尿症)は、たんぱく質の一部(イソロイシン)と、体内で作られるケトン体を処理するはたらきが弱くなる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ACAT1 遺伝子の変化が原因となります。
ふだんは元気ですが、かぜをひいたときや食事がとれないときに、強い「ケトアシドーシス発作」を起こすことがあります。発作をいかに防ぎ、起きたときに早く手当てするかが治療の中心です。
原因
ACAT1 遺伝子は、ミトコンドリアのなかではたらくアセトアセチルCoAチオラーゼ(T2)という酵素の設計図です。この酵素は、イソロイシンの分解と、ケトン体の利用の両方に関わっています。
酵素がはたらかないと、体調をくずしたときにケトン体がたまりすぎ、血液が酸性にかたむいてケトアシドーシスを起こします。
症状
- ふだんは無症状で、発達も正常なことが多い
- 感染症や絶食をきっかけに起こるケトアシドーシス発作(激しい嘔吐、速い呼吸、意識の低下)
- 発作時の血液の酸性化、尿中ケトン体の著明な増加
- 重い発作をくり返すと、発達に影響が残ることがある
検査・診断
発作時の血液ガス検査と尿中ケトン体、尿の有機酸分析(2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸、チグリルグリシンの増加)、血液のアシルカルニチン分析(C5:1、C5-OHの上昇)で疑い、ACAT1 遺伝子の解析によって確定します。
治療
- 発作を防ぐ:長時間の絶食を避け、体調が悪いときは早めに糖分をとる
- シックデイ対応:食事がとれないときはためらわず受診し、ブドウ糖の点滴を受ける
- 発作時はブドウ糖輸液と、必要に応じて重炭酸ナトリウムによる補正
- たんぱく質をやや控えた食事が指示されることがあります
- カルニチンの補充
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる ACAT1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ACAT1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
β-ケトチオラーゼ欠損症は ACAT1(11q22.3)の両アレル変異により生じる。ACAT1がコードするミトコンドリアアセトアセチルCoAチオラーゼ(T2)は、イソロイシン異化経路における 2-メチルアセトアセチルCoA のチオール開裂と、ケトン体代謝におけるアセトアセチルCoAの開裂の双方を触媒する。
生化学的には、尿中有機酸分析における 2-methyl-3-hydroxybutyric acid と tiglylglycine の増加、血中アシルカルニチンにおける C5:1 および C5-OH の上昇が特徴である。ただし発作間欠期には所見が乏しいことがあり、無症状期の検体では見逃されうる。
臨床経過は間欠的で、感染・絶食・高蛋白摂取を契機に重篤なケトアシドーシス(pH < 7.1 に至ることもある)を呈する一方、発作間欠期は完全に無症状である。適切な発作予防と早期介入により、予後は良好であることが多い。
新生児マススクリーニングのアシルカルニチン分析で検出されうるが、感度は完全ではない。日本人症例の報告が比較的多く、特定の変異の集積が知られている。
よくある質問
Q. ふだんは元気ですが、何に気をつければよいですか?
A. かぜをひいたとき、熱が出たとき、食事がとれないときが要注意です。早めに糖分をとり、無理そうなときは受診してください。
Q. 発作が起きたらどうすればよいですか?
A. 嘔吐がとまらない、呼吸が速い、ぐったりしているといった様子があれば、すぐに医療機関を受診してください。ブドウ糖の点滴で回復します。
Q. 食事制限は必要ですか?
A. たんぱく質をやや控えるよう指示されることがありますが、厳しい制限は通常必要ありません。担当の先生の指示に従ってください。
Q. 発達に影響しますか?
A. 発作を起こさずに経過すれば、発達は正常なことが多いとされています。重い発作をくり返すと影響が残ることがあります。
Q. 大人になっても続きますか?
A. 年齢とともに発作は起こりにくくなる傾向がありますが、体調管理は続けることが望ましいとされています。
参考文献
- Fukao T, Yamaguchi S, Kano M, et al. Molecular cloning and sequence of the complementary DNA encoding human mitochondrial acetoacetyl-coenzyme A thiolase and study of the variant enzymes in cultured fibroblasts from patients with 3-ketothiolase deficiency. J Clin Invest. 1990;86(6):2086-2092.
- Fukao T, Mitchell G, Sass JO, et al. Ketone body metabolism and its defects. J Inherit Metab Dis. 2014;37(4):541-551.
- Grünert SC, Sass JO. β-ketothiolase deficiency: one disease – two pathways. Orphanet J Rare Dis. 2020;15(1):106.
- OMIM #203750 Alpha-methylacetoacetic aciduria
