概要
常染色体潜性知的障害15型は、知的な発達がゆっくりで、ことばや学習、日常生活の技能の習得に支援が必要になる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、MAN1B1 遺伝子の変化が原因となります。
知的障害の原因は非常に多岐にわたりますが、常染色体潜性の型は、ご両親に血縁関係がある家系や、きょうだいに同じ症状がある場合に疑われます。身体的な特徴を伴わない「非症候性」と、特徴的な顔つきや合併症を伴う「症候性」に分けられます。
原因
MAN1B1 遺伝子は、脳の神経細胞が育ち、互いにつながり合うために必要なたんぱく質の設計図です。
MAN1B1 は、正しく折りたためなかったたんぱく質を見分けて分解へ回すためのしるしを付ける酵素です。細胞の品質管理に関わっています。
症状
- 知的な発達の遅れ(軽度から重度まで幅があります)
- ことばの発達の遅れ
- 運動発達の遅れ
- 肥満、特徴的な顔つき(額の突出、厚い唇)、筋緊張の低下
- 行動面の特性(多動、自閉的な傾向など)を伴うことがある
- てんかんを伴うことがある
- ※進行性に悪化する病気ではありません
検査・診断
発達の評価と、頭部MRI・脳波などの検査を行います。まず染色体検査やマイクロアレイ検査を行い、原因が特定できない場合に網羅的な遺伝学的検査(エクソーム解析など)へ進むのが一般的です。MAN1B1 遺伝子の解析によって常染色体潜性知的障害15型と確定します。
治療
- 根本的に治す方法は確立していません
- 早期からの療育(理学療法・作業療法・言語療法)
- 教育面での支援(個別支援計画、特別支援教育)
- てんかんがある場合は抗てんかん薬
- 行動面の特性に対する支援
- 定期的な発達の評価と、成長に応じた支援の見直し
- ご家族への支援と、次のお子さまについての遺伝カウンセリング
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる MAN1B1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、MAN1B1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
常染色体潜性知的障害15型は MAN1B1 の両アレル変異による。常染色体潜性知的障害(autosomal recessive intellectual disability, ARID/MRT)は、近親婚率の高い集団での連鎖解析とホモ接合性マッピングによって多数の原因遺伝子が同定されてきた歴史を持つ。現在100を超える遺伝子座が登録されている。
MAN1B1(9q34.3)はER α-1,2-マンノシダーゼIで、小胞体関連分解(ERAD)における不良蛋白の選別を担う。先天性糖鎖異常症(CDG type II)に分類されるが、多臓器症状に乏しく、知的障害・肥満・特徴的顔貌を主徴とする。「知的障害+肥満+特徴的顔貌」の組み合わせでは、等電点電気泳動によるトランスフェリンの糖鎖解析を考慮する。
ARID全般の臨床的留意点として、(1) 血族婚の家系歴が診断の重要な手がかりとなること、(2) 非症候性ARIDでは表現型から原因遺伝子を推定できないため、網羅的解析(エクソーム/ゲノム解析)が第一選択となること、(3) 再発率が1/4と高く、遺伝カウンセリングの意義が大きいことが挙げられる。
原因遺伝子の同定は、治療可能な代謝異常症の除外、合併症のサーベイランス、そして次子への出生前診断・着床前診断の選択肢につながる。
よくある質問
Q. 進行して悪くなりますか?
A. 進行性の病気ではありません。発達はゆっくりですが、支援を続けることでできることを増やしていけます。
Q. 次の子も同じ病気になりますか?
A. 常染色体潜性(劣性)遺伝です。ご両親がどちらもキャリア(保因者)の場合、妊娠のたびに4分の1の確率です。
Q. 療育はいつから始めるとよいですか?
A. できるだけ早くです。早期からの療育が、その後の発達に有効とされています。
Q. なぜ遺伝子を調べるのですか?
A. 原因が分かることで、伴いやすい合併症への備えができ、次のお子さまについて考えるうえでも役立ちます。また、治療できる病気との区別にもなります。
Q. 血液検査で分かることがありますか?
A. この型は糖鎖の異常による病気のため、血液中のトランスフェリンという蛋白の糖鎖を調べる検査が診断の手がかりになります。
参考文献
- Rafiq MA, Kuss AW, Puettmann L, et al. Mutations in the alpha 1,2-mannosidase gene, MAN1B1, cause autosomal-recessive intellectual disability. Am J Hum Genet. 2011;89(1):176-182.
- Musante L, Ropers HH. Genetics of recessive cognitive disorders. Trends Genet. 2014;30(1):32-39.
- Vissers LE, Gilissen C, Veltman JA. Genetic studies in intellectual disability and related disorders. Nat Rev Genet. 2016;17(1):9-18.
- Ilyas M, Mir A, Efthymiou S, Houlden H. The genetics of intellectual disability: advancing technology and gene editing. F1000Res. 2020;9:F1000 Faculty Rev-22.
