概要
バルデー・ビードル症候群10型は、細胞の表面にあるアンテナ「繊毛(せんもう)」がうまくはたらかないことで、目・腎臓・手足の指・体重・学習など、体のさまざまな部分に症状が現れる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、BBS10(12q21.2)遺伝子の変化が原因となります。
バルデー・ビードル症候群は、原因となる遺伝子が20種類以上知られており、どの遺伝子かによって、症状の出方に少しずつ違いがあります。バルデー・ビードル症候群10型では、BBS1に次いで頻度の高い型で、患者さま全体のおよそ2割を占めます。肥満や糖代謝の異常が目立ちやすいことが知られています。
原因
BBS10 は、BBSomeの部品を正しい形に折りたたむのを助ける「組み立て工」にあたるたんぱく質です。BBSomeそのものの部品ではありません。
繊毛は、細胞が周囲の情報を受け取るためのアンテナです。目の網膜、腎臓の尿細管、脳の神経細胞、脂肪の量を調節する視床下部など、体の多くの場所ではたらいています。そのため繊毛の異常は、ひとつの臓器にとどまらず全身に影響します。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
診断の目安となるおもな症状(主徴)は次の6つです。
- 網膜の変性(杆体錐体ジストロフィー):夜や暗いところで見えにくくなることから始まり、学童期以降に視野が狭くなります。もっとも頻度が高く、生活に影響しやすい症状です
- 多指症:指が6本以上ある状態。小指側に出ることが多く、生後に手術で対応します
- 体幹の肥満:幼児期から体重が増えやすくなります
- 学習の困難、発達の遅れ(程度には大きな幅があります)
- 腎臓の異常:形の異常やはたらきの低下。長期の経過を左右します
- 生殖器の発育の異常(性腺機能低下)
このほか、言葉の遅れ、糖尿病、高血圧、肝臓の線維化、難聴、嗅覚の低下、歯の異常などがみられることがあります。症状は一度に現れるのではなく、成長とともに順に明らかになります。
検査・診断
主徴が4つ以上、あるいは主徴3つ+副症状2つがそろうと臨床的に診断されます。網膜電図(ERG)で網膜の機能を、腹部超音波で腎臓の形を確認します。確定診断は遺伝学的検査で行い、バルデー・ビードル症候群10型では BBS10 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。
乳児期には、多指症と腎臓の形の異常が最初の手がかりになることがあります。網膜の症状は学童期にならないとはっきりしないことが多いため、早期の診断には遺伝学的検査が有用です。
治療
病気そのものを治す治療は、現時点では確立していません。症状ごとの管理と、合併症を早く見つけて対応することが中心になります。
- 視覚:定期的な眼科受診、ロービジョンケア、就学時の環境調整
- 体重・代謝:幼児期からの食事・運動の習慣づくり。糖尿病、脂質異常症、高血圧の定期確認
- 腎臓:超音波と血液・尿検査での定期評価。腎不全に至った場合は透析・移植
- 多指症に対する手術(通常は乳幼児期)
- 発達支援・教育支援、思春期以降の内分泌の評価
- 肥満に対しては、海外で承認された治療薬(MC4R作動薬)があります。国内での使用可否は主治医にご確認ください
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる BBS10 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、BBS10 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
バルデー・ビードル症候群は非運動性一次繊毛の機能障害による代表的な繊毛病(ciliopathy)である。中心となる分子装置がBBSome(BBS1、2、4、5、7、8/TTC8、9、18/BBIP1の8量体)で、繊毛内の膜たんぱく質(ソマトスタチン受容体3、MCHR1、Smoothened、レプチン受容体シグナル関連分子など)の繊毛への出入りを選別する被覆複合体として機能する。ARL6(BBS3)はBBSomeを膜へ動員し、BBS6・BBS10・BBS12はシャペロニン様複合体としてBBSomeの組み立てを担う。
BBS10(12q21.2)はCCT/TRiCシャペロニンファミリーに属する脊椎動物特異的なたんぱく質で、BBS6(MKKS)・BBS12とともにCCTシャペロニンと複合体を形成し、BBSomeサブユニットのフォールディングとBBSome形成を仲介する。c.271dupT(p.Cys91Leufs*5)は欧米で最も頻度の高い創始者変異で、本型はBBS全体の約20%を占める。BBS10変異例では代謝表現型(肥満、耐糖能異常、脂質異常)がより顕著という報告がある。
鑑別診断としては、アルストレム症候群(ALMS1:肥満・網膜変性・難聴を伴うが多指症を欠く)、マッキュージック・カウフマン症候群(MKKS:BBS6と同一遺伝子で、水腫性膣・多指症・心疾患)、ジュベール症候群、メッケル症候群、ネフロン癆関連疾患などの繊毛病群が挙がる。乳児期にはBBSとMKSの臨床的区別が難しく、遺伝学的検査が診断の決め手となる。
よくある質問
Q. どのくらいの頻度で起こる病気ですか。
A. 欧米では10万人から16万人に1人程度とされ、日本を含むアジアではさらにまれと考えられています。一方、近親婚の多い集団では頻度が高くなることが知られています。
Q. 目の症状はいつごろ出ますか。
A. まず暗いところで見えにくくなり、多くは学童期(7〜8歳ごろ)に気づかれます。その後、視野が狭くなり、10代から20代にかけて視力が低下していきます。早い段階から、拡大読書器や就学環境の調整などの支援を始めることが大切です。
Q. 知的な発達はどうなりますか。
A. 学習の困難はよくみられますが、程度には大きな幅があり、知的発達が正常範囲の方も少なくありません。目が見えにくいことが学習の妨げになっている場合もあるため、視覚の支援とあわせて評価することが大切です。
Q. 体重の管理はどうすればよいですか。
A. この型では体重が増えやすく、糖尿病や脂質異常症につながることがあります。幼児期からの食事・運動の習慣づくりが大切です。管理栄養士を含めたチームでの支援をおすすめします。
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。ごく一部の家系では3つ目の変化が症状に影響するという報告もあるため、正確な見通しは遺伝カウンセリングでご確認ください。
参考文献
- Forsythe E, Beales PL. Bardet-Biedl syndrome. Eur J Hum Genet. 2013;21(1):8-13.
- Beales PL, Elcioglu N, Woolf AS, Parker D, Flinter FA. New criteria for improved diagnosis of Bardet-Biedl syndrome: results of a population survey. J Med Genet. 1999;36(6):437-446.
- Nachury MV. The molecular machines that traffic signaling receptors into and out of cilia. Curr Opin Cell Biol. 2018;51:124-131.
- Stoetzel C, Laurier V, Davis EE, et al. BBS10 encodes a vertebrate-specific chaperonin-like protein and is a major BBS locus. Nat Genet. 2006;38(5):521-524.
