概要
先天性筋無力症候群14型は、神経から筋肉へ信号を伝える「つなぎ目(神経筋接合部)」のはたらきが生まれつき弱いために、疲れやすさと筋力の低下が現れる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ALG2(9q31.1)遺伝子の変化が原因となります。
よく似た名前の「重症筋無力症」は自分の免疫がつなぎ目を攻撃してしまう病気(自己免疫疾患)ですが、先天性筋無力症候群は免疫とは関係がなく、つなぎ目をつくる部品の設計図(遺伝子)の変化が原因です。そのためステロイドや免疫抑制薬は効きません。一方、原因となる遺伝子が分かれば、よく効く薬を選べることが多い病気でもあります。
先天性筋無力症候群14型では、DPAGT1の型と同じく肢帯型の筋無力症です。幼児期からの近位筋の筋力低下、運動後の疲れやすさ、まぶたの下垂や目の動きの制限は目立たないことが特徴です。コリンエステラーゼ阻害薬が有効です。
原因
ALG2 は、DPAGT1に続いて糖の鎖にマンノースをつなげていく酵素です。
神経から筋肉への信号は、①神経の終末でアセチルコリンという物質をつくり、②すきまへ放出し、③筋肉側の受け皿(アセチルコリン受容体)で受け取り、④速やかに分解して次の信号に備えるという流れで伝わります。先天性筋無力症候群の原因遺伝子は、この流れのいずれかの段階を担っています。
どの段階の異常かによって、効く薬がまったく違います。たとえばアセチルコリンを増やす薬(コリンエステラーゼ阻害薬)は、ある型ではよく効き、別の型ではかえって症状を悪化させます。これが、遺伝子診断が重要な理由です。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 疲れやすさ(易疲労性):朝は動けても夕方に動けなくなる、運動すると力が入らなくなる
- まぶたが下がる(眼瞼下垂)、目の動きの制限:型により目立たないことがあります
- 哺乳の弱さ、泣き声の弱さ、飲み込みにくさ
- 肩や腰まわりの筋力低下:走りにくい、階段が昇りにくい
- 無呼吸発作:型により、発熱や感染をきっかけに突然呼吸が止まることがあります。命に関わるため注意が必要です
- 関節の拘縮、側弯
- 症状には日内変動・日差変動があります
検査・診断
反復神経刺激試験で、繰り返し刺激したときに反応がだんだん小さくなる現象(waning)を確認します。単線維筋電図、血清の抗アセチルコリン受容体抗体・抗MuSK抗体(先天性では陰性)、筋生検(型により管状凝集体)を行います。
確定診断は遺伝学的検査で行い、先天性筋無力症候群14型では ALG2 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。先天性筋無力症候群は35以上の原因遺伝子が知られており、型によって使える薬が正反対になるため、遺伝子診断は治療方針の決定に不可欠です。
治療
この病気は「治療で大きく改善できる」ことが多い病気です。ただし型に合った薬を選ぶことが決定的に重要です。
- コリンエステラーゼ阻害薬(ピリドスチグミン):多くの型で有効です。ただしDOK7型・COLQ型・スローチャネル症候群では悪化させるため使用してはいけません
- β2刺激薬(サルブタモール、エフェドリン):DOK7型・COLQ型などで有効です
- 3,4-ジアミノピリジン:神経終末からの放出を増やす薬で、型により用いられます
- 無呼吸発作への備え:在宅での呼吸モニター、発熱時の対応(薬の増量の指示)をあらかじめ決めておきます
- リハビリテーション、装具、側弯への対応
- ステロイド・免疫抑制薬は効きません。重症筋無力症と誤診されて使用されていた場合は見直します
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる ALG2 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ALG2 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
先天性筋無力症候群(CMS)は神経筋接合部の構成分子の遺伝的異常による疾患群で、障害部位により①シナプス前性(CHAT、SLC5A7、SLC18A3、SYT2)、②シナプス基底膜(COLQ、LAMB2、COL13A1)、③シナプス後性(CHRNE ほかAChRサブユニット、RAPSN、DOK7、MUSK、AGRN)、④糖鎖修飾(GFPT1、DPAGT1、ALG2、ALG14)、⑤その他(PREPL、SCN4A、MYO9A)に分類される。頻度が最も高いのはCHRNE(AChR ε鎖)欠損である。
ALG2(9q31.1)はα-1,3/1,6-マンノース転移酵素で、N型糖鎖の脂質結合前駆体(LLO)の伸長を担う。DPAGT1・ALG14 とともに「糖鎖合成異常によるCMS」というサブグループを形成する。これらの型では眼瞼下垂・眼球運動障害を欠くことが多く、古典的なCMSのイメージと合致しないため見逃されやすい。重症例は先天性糖鎖異常症(CDG-Ii)として筋無力に加え多臓器症状を呈する。血清トランスフェリン等電点電気泳動が異常を示すことがあり、スクリーニングとして有用な場合がある。
治療上の最重要事項は、コリンエステラーゼ阻害薬が禁忌となる型を見分けることである。COLQ(終板アセチルコリンエステラーゼ欠損)、DOK7、およびスローチャネル症候群(AChRの機能獲得型変異)では、アセチルコリンの作用延長が終板の脱分極遷延とカルシウム過負荷による終板ミオパチーを悪化させる。これらではサルブタモールやエフェドリンが第一選択となる。鑑別としては、重症筋無力症(自己免疫性)、乳児ボツリヌス症、脊髄性筋萎縮症、先天性ミオパチー、ミトコンドリアミオパチーが挙がる。
よくある質問
Q. 重症筋無力症とは違うのですか。
A. まったく別の病気です。重症筋無力症は免疫が自分のからだを攻撃する病気で、ステロイドや免疫抑制薬、血漿交換が有効です。一方この病気は生まれつきの体質によるもので、免疫の治療は効きません。治療がまったく異なるため、区別が重要です。
Q. どのくらいの頻度で起こる病気ですか。
A. 人口100万人あたり数人から十数人とされ、まれな病気です。ただし重症筋無力症や筋ジストロフィーと誤診されている例があると考えられており、実際にはもう少し多い可能性があります。
Q. 薬を飲めば普通に生活できますか。
A. 型に合った薬が見つかれば、大きく改善する方が多くいます。症状が完全になくなるとは限りませんが、通学・就労を含めた日常生活が送れるようになる方が少なくありません。
Q. まぶたは下がっていませんが、この病気ですか。
A. この型では、まぶたの下垂や目の動きの制限が目立たないことがよくあります。肩や腰の筋力低下と、運動後の疲れやすさが手がかりになります。
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。無呼吸発作を起こす型では、ごきょうだいを早期に診断できれば命を守ることにつながります。遺伝カウンセリングでご相談ください。
参考文献
- Engel AG, Shen XM, Selcen D, Sine SM. Congenital myasthenic syndromes: pathogenesis, diagnosis, and treatment. Lancet Neurol. 2015;14(4):420-434.
- Finsterer J. Congenital myasthenic syndromes. Orphanet J Rare Dis. 2019;14(1):57.
- Ohno K, Ohkawara B, Shen XM, Selcen D, Engel AG. Clinical and pathologic features of congenital myasthenic syndromes caused by 35 genes. Int J Mol Sci. 2023;24(4):3730.
- Cossins J, Belaya K, Hicks D, et al. Congenital myasthenic syndromes due to mutations in ALG2 and ALG14. Brain. 2013;136(Pt 3):944-956.
