概要
ファンコニ貧血 相補群Qは、DNAの傷を修復するしくみがうまくはたらかないために、骨髄のはたらきが少しずつ低下し(骨髄不全)、さまざまな体の形の異常を伴い、がんを発症しやすくなる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ERCC4 遺伝子の変化が原因となります。
ファンコニ貧血には20以上の「相補群」(原因遺伝子のグループ)が知られており、いずれの群でも同じ経路(ファンコニ貧血経路)の障害によって起こります。血液の状態を定期的に見ながら、必要な時期に造血幹細胞移植を検討することが治療の柱です。
原因
ERCC4 遺伝子は、「ファンコニ貧血経路」と呼ばれるDNA修復のしくみを担うたんぱく質の設計図です。この経路は、DNAの2本の鎖が互いに結びついてしまう傷(DNA鎖間架橋)を取り除く役目をしています。
この経路がはたらかないと、細胞分裂のたびにDNAの傷が残り、細胞が死んでいきます。とくに盛んに分裂する骨髄の細胞が失われやすく、また傷が積み重なることでがんが発生しやすくなります。
ERCC4(XPF)は、DNAの傷んだ部分をハサミのように切り取る酵素です。この遺伝子の変化は、ファンコニ貧血のほか色素性乾皮症F群や、コケイン症候群との合併型も引き起こします。
症状
- 骨髄不全(貧血、出血しやすい、感染しやすい):多くは5〜10歳ごろから
- 身体的な特徴:低身長、カフェオレ斑(茶色いあざ)、親指や橈骨の異常、小頭症、腎臓の形の異常、難聴、外性器の異常など(約4分の1では身体的な特徴を伴いません)
- がんを発症しやすい:急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、頭頸部・食道・外陰部の扁平上皮がん
- 内分泌の異常(低身長、糖尿病、甲状腺機能低下)
- 妊よう性の低下
検査・診断
血液検査で血球の減少を確認し、染色体脆弱性試験(DEBまたはMMCを加えて染色体の切断が増えるかを見る検査)を行います。これがこの病気の診断の基本です。どの相補群かを知るには遺伝学的検査が必要で、ERCC4 遺伝子の解析によってファンコニ貧血 相補群Qと確定します。
治療
- 造血幹細胞移植:骨髄不全と白血病に対する唯一の根治的治療です
- 移植の前処置は減量する必要があります(DNAの傷に弱いため、通常量の放射線・アルキル化薬は重い副作用を起こします)
- アンドロゲン(男性ホルモン)製剤による造血の刺激
- 輸血、感染症の予防と治療
- 生涯にわたるがんのサーベイランス(とくに移植後は頭頸部・食道の扁平上皮がんのリスクが高まります)
- 内分泌の評価と補充
- 診断・治療にあたる医師に、必ずこの病気であることを伝えてください(検査や治療の内容が変わります)
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる ERCC4 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ERCC4 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
ファンコニ貧血 相補群Qは ERCC4 の両アレル変異による。ファンコニ貧血(FA)は、DNA鎖間架橋(interstrand crosslink, ICL)修復を担うFA経路の障害により生じる染色体不安定性症候群である。
FA経路は、(1) 8つのコア複合体構成因子(FANCA/B/C/E/F/G/L/M)+関連因子、(2) その標的である FANCD2-FANCI(ID2)複合体のモノユビキチン化、(3) 下流のヌクレアーゼと相同組換え修復因子(BRCA1/2、PALB2、RAD51 など)、という階層で構成される。FANCLがE3ユビキチンリガーゼ、UBE2T(FANCT)がE2酵素としてこのユビキチン化を触媒する。
ERCC4(16p13.12、XPF)はERCC1と複合体を形成する構造特異的エンドヌクレアーゼで、ヌクレオチド除去修復(NER)とICL修復の双方で5’側の切断を担う。同一遺伝子の変異が、変異の位置と重症度に応じて色素性乾皮症F群(XP-F)、XP-Cockayne症候群複合型、ファンコニ貧血相補群Q、XFE早老症候群という異なる疾患を生じる。FA-Q患者では日光過敏を伴うことがあり、他のFA群との臨床的差異となる。
臨床的に決定的なのは、アルキル化薬・放射線への著しい感受性である。診断が確定していない状態で通常量の化学療法や移植前処置を行うと致死的となりうるため、若年の骨髄不全や、頭頸部扁平上皮がんの若年発症例では本症を必ず鑑別する。造血幹細胞移植は骨髄不全を是正するが固形がんリスクはむしろ上昇するため、生涯にわたるサーベイランスを要する。
よくある質問
Q. いつごろ血液の異常が出ますか?
A. 多くは5〜10歳ごろから、貧血や血小板の減少という形で現れます。定期的な血液検査で経過をみます。
Q. 体の特徴がありませんが、この病気ですか?
A. 約4分の1の方では、身体的な特徴を伴いません。染色体脆弱性試験という検査で診断します。
Q. がんになりやすいと聞きました。
A. 白血病のほか、頭頸部や食道などの扁平上皮がんのリスクが高くなります。生涯にわたる定期的な検診が大切です。
Q. 治療や検査で気をつけることはありますか?
A. この病気であることを必ず医師にお伝えください。DNAの傷に弱いため、抗がん剤や放射線の量を調整する必要があります。
Q. 日光に弱いと言われました。
A. この群では、色素性乾皮症と同じ遺伝子が原因のため、日光過敏を伴うことがあります。紫外線対策もあわせて行ってください。
参考文献
- Bogliolo M, Schuster B, Stoepker C, et al. Mutations in ERCC4, encoding the DNA-repair endonuclease XPF, cause Fanconi anemia. Am J Hum Genet. 2013;92(5):800-806.
- Mehta PA, Ebens C. Fanconi Anemia. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle.
- Niraj J, Färkkilä A, D’Andrea AD. The Fanconi Anemia Pathway in Cancer. Annu Rev Cancer Biol. 2019;3:457-478.
- Fiesco-Roa MO, Giri N, McReynolds LJ, et al. Genotype-phenotype associations in Fanconi anemia: A literature review. Blood Rev. 2019;37:100589.
