高ホスファターゼ血症・知的障害症候群2型

Hyperphosphatasia with Mental Retardation Syndrome 2, PIGO

概要

高ホスファターゼ血症・知的障害症候群2型は、知的発達の遅れやけいれんとともに、血液検査でアルカリホスファターゼ(ALP)という酵素が高くなることを特徴とする病気です。「マブリー症候群」とも呼ばれます。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、PIGO(9p13.3)遺伝子の変化が原因となります。

ALPが高いことは、この病気を見つける大切な手がかりです。発達の遅れの原因を調べる過程で偶然ALPの高値が見つかり、そこからこの病気にたどりつくことがあります。ALPの高値は骨の病気を意味するのではなく、酵素が細胞にとどまれずに血液へ流れ出しているために起こります。

高ホスファターゼ血症・知的障害症候群2型では、知的発達の遅れ、けいれん、筋緊張の低下がみられ、1型と同じく指先の骨が短いことと特徴的な顔つきを伴います。肛門の形の異常(鎖肛など)を伴う報告があります。血液検査ではアルカリホスファターゼ(ALP)が高くなります。

原因

PIGO は、係留ロープ(GPIアンカー)の先端にたんぱく質を結びつけるための「留め金」(エタノールアミンリン酸)を取りつける酵素です。

細胞の表面には、たくさんのたんぱく質が並んでいます。そのうち150種類ほどは「GPIアンカー」という係留ロープで細胞膜につなぎとめられています。ALPもそのひとつです。

この係留ロープをつくる工程には30以上の遺伝子が関わっており、どこかがうまくいかないと、たんぱく質が細胞の表面にとどまれなくなります。ALPは血液中に流れ出すため検査値が高くなり、一方で脳の発達に必要なほかのGPIアンカー型たんぱく質がはたらけなくなるため、発達の遅れやけいれんが起こります

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。

症状

  • 知的発達の遅れ:程度には幅があります
  • 筋緊張の低下:乳児期に「体がやわらかい」と気づかれます
  • てんかん:乳児期から始まることが多く、治りにくいことがあります
  • 血液検査でALPが高い:診断の重要な手がかりです
  • 手足の指先の骨が短い(末節骨の低形成)、爪が小さい
  • 特徴的な顔つき:両目の間が広い、鼻の付け根が広く低い、上唇が短い、口が大きい
  • 難聴、視力の問題
  • 型により、ヒルシュスプルング病・肛門の形の異常・小脳の萎縮を伴います

検査・診断

血清ALPの持続的な高値が最初の手がかりです。(骨の病気や肝臓の病気によるALP上昇との区別が必要です。この病気では骨と肝臓の検査に異常がありません。)手のX線検査で末節骨の低形成を確認します。顆粒球の表面にあるGPIアンカー型たんぱく質(CD16・CD24)をフローサイトメトリーで測定すると低下がみられ、スクリーニングとして有用です。

確定診断は遺伝学的検査で行い、高ホスファターゼ血症・知的障害症候群2型では PIGO 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。

治療

病気そのものを治す治療は確立していません。症状に応じた支援と管理が中心になります。

  • てんかんの治療:抗てんかん薬。GPIアンカー欠損症では、ビタミンB6(ピリドキシン)が有効だった報告があります。難治の場合は主治医にご相談ください
  • 発達支援・療育、理学療法、作業療法、言語療法
  • ALPが高いこと自体に対する治療は不要です
  • 難聴・視力の定期評価
  • ヒルシュスプルング病や肛門の形の異常に対する外科的治療
  • 就学支援、家族への情報提供と社会資源の活用

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる PIGO 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、PIGO 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

キャリアスクリーニングテスト(228種類)

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます

検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。

専門的な解説

GPIアンカー欠損症(inherited GPI deficiency, IGD)は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーの生合成・移行・リモデリングに関わる遺伝子の両アレル性変異により生じる。ヒトでは150種類以上のたんぱく質がGPIアンカー型であり、組織非特異型アルカリホスファターゼ(ALPL産物)もそのひとつである。GPIアンカーの成熟が不完全だとALPは膜に保持されず血中へ遊離するため、高ALP血症は骨代謝亢進ではなく「係留の失敗」を反映する

PIGO(9p13.3)はGPIアンカーの第3マンノースにエタノールアミンリン酸(EtNP-3)を付加する酵素で、この修飾がなければたんぱく質はGPIアンカーへ移行できない。PIGVと同様に高ALP血症を伴うが、ALPの上昇は「GPIアンカーに繋がれない組織非特異型ALPが血中に遊離する」ことによる——すなわち骨代謝の亢進を意味しないため、ALP高値をみて骨疾患と誤らないことが重要である。肛門直腸奇形の合併報告がある。

IGDは大きく、①高ALP血症を伴う群(マブリー症候群型:PIGVPIGOPIGWPGAP2PGAP3と、②ALPが正常〜低値の群(PIGAPIGTPIGN など)に分けられる。高ALP血症を示すのは、EtNP-2の除去(PGAP5)やGPI移行の直前段階が保たれている場合に限られるためである。鑑別としては、低ホスファターゼ症(ALP低値で正反対)、Coffin-Siris症候群、Kabuki症候群など「特異的顔貌+指趾の低形成+知的障害」を示す症候群が挙がる。体細胞変異によるPIGA 欠損は発作性夜間ヘモグロビン尿症を生じるが、生殖細胞系列の本症とは別の病態である。

よくある質問

Q. ALPが高いと言われましたが、骨は大丈夫ですか。

A. この病気のALP高値は、骨の異常を意味しません。本来は細胞の表面につながれているはずの酵素が、血液中に流れ出しているために高く出ています。ALPの数値そのものを下げる治療は必要ありません。

Q. どのくらいの頻度で起こる病気ですか。

A. 非常にまれな病気です。ただしGPIアンカー欠損症全体では、原因不明の発達の遅れとてんかんの1〜2%を占めるという報告があり、見落とされている例があると考えられています。

Q. けいれんの治療で気をつけることはありますか。

A. GPIアンカーの病気では、ビタミンB6(ピリドキシン)が有効だったという報告があります。難治性のてんかんの場合、主治医と相談のうえ試みる価値があるかもしれません。

Q. ALPが高いのは骨の病気ですか。

A. いいえ。この病気では、酵素が細胞にとどまれず血液中に流れ出すためにALPが高くなります。骨の異常を意味するものではありません。

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。正確な見通しは遺伝カウンセリングでご確認ください。

参考文献

  • Kinoshita T. Biosynthesis and biology of mammalian GPI-anchored proteins. Open Biol. 2020;10(3):190290.
  • Bellai-Dussault K, Nguyen TTM, Baratang NV, Jimenez-Cruz DA, Campeau PM. Clinical variability in inherited glycosylphosphatidylinositol deficiency disorders. Clin Genet. 2019;95(1):112-121.
  • Knaus A, Pantel JT, Pendziwiat M, et al. Characterization of glycosylphosphatidylinositol biosynthesis defects by clinical features, flow cytometry, and automated image analysis. Genome Med. 2018;10(1):3.
  • Krawitz PM, Murakami Y, Hecht J, et al. Mutations in PIGO, a member of the GPI-anchor-synthesis pathway, cause hyperphosphatasia with mental retardation. Am J Hum Genet. 2012;91(1):146-151.
医師監修 監修日:2026年9月8日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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