概要
先天性魚鱗癬 常染色体潜性4A型(Ichthyosis, congenital, autosomal recessive 4A・ARCI4A)は、生まれたときから全身の皮膚が乾燥し、うろこ状の厚い角質(鱗屑)でおおわれる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ABCA12 遺伝子の変化が原因となります。
多くの赤ちゃんは、全身が透明な膜につつまれた「コロジオン児」の状態で生まれます。その膜が数週間かけてはがれたあとに、板のような鱗屑が現れます。皮膚のうるおいを保つ手入れを続ければ、成長や発達そのものに大きな影響が出ることは多くありません。
原因
ABCA12 遺伝子は、皮膚のいちばん外側にある角層で、脂質(あぶら)を細胞の外へ運び出すはたらきを担うたんぱく質の設計図です。父由来・母由来の両方の遺伝子に変化があると、このはたらきが弱まります。
脂質が正しく運ばれないと、角層の中で「あぶらの層」が作られず、皮膚のバリアが保てなくなります。その結果、水分が逃げやすくなり、角質が厚く固まって鱗屑になります。
症状
- 全身の皮膚が乾燥し、大きな板状の鱗屑でおおわれる
- 皮膚が赤みをおびる(紅皮症)
- まぶたや唇が外側にめくれる(眼瞼外反・口唇外反)
- 手のひら・足の裏の角質が厚くなる
- 汗をかきにくく、体温が上がりやすい
- 皮膚から水分が失われやすく、脱水を起こしやすい
- 皮膚のバリアが弱いため、感染を起こしやすい
検査・診断
皮膚の見た目と生まれてからの経過をもとに診断を進め、皮膚の一部を採って調べる皮膚生検や、ABCA12 遺伝子の解析によって確定します。魚鱗癬にはいくつもの型があり、見た目だけでは区別が難しいため、遺伝子を調べることがはっきりした診断につながります。
治療
現在のところ、原因そのものを取り除く治療は確立していません。皮膚のうるおいを保ち、厚くなった角質をやわらげる手入れを続けることが中心になります。
- 保湿剤(白色ワセリン、尿素製剤など)を毎日たっぷり塗る
- 角質をやわらげる外用薬(サリチル酸、乳酸など)を使う
- 症状が重い場合は、レチノイド(ビタミンA誘導体)の内服を検討する
- 新生児期は保育器で体温と水分を保ち、感染を防ぐ
- 眼瞼外反による角膜の乾燥について、眼科で治療を受ける
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる ABCA12 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ABCA12 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
ARCI4Aは、常染色体潜性先天性魚鱗癬(autosomal recessive congenital ichthyosis, ARCI)のうち ABCA12(2q35)を責任遺伝子とする一群で、臨床型としては葉状魚鱗癬(lamellar ichthyosis)および先天性魚鱗癬様紅皮症(congenital ichthyosiform erythroderma)の表現型をとる。
ABCA12はATP結合カセットトランスポーターAサブファミリーに属し、顆粒層のケラチノサイトにおいて層板顆粒(lamellar granule)へのグルコシルセラミドの輸送を担う。機能喪失により角層細胞間脂質ラメラの形成が障害され、透過バリア機能が破綻する。
同じABCA12の変異でも、機能が完全に失われる変異(ナンセンス変異・フレームシフト変異など)では道化師様魚鱗癬(ARCI4B)を、ATP結合カセットドメインのミスセンス変異など残存機能がある場合にはARCI4Aの表現型をとることが知られており、遺伝子型と表現型の相関が報告されている。
鑑別として、TGM1(ARCI1)、ALOX12B・ALOXE3(ARCI2・3)、NIPAL4、CYP4F22、CERS3 などによるARCIのほか、症候性魚鱗癬(シェーグレン・ラルソン症候群、ネザートン症候群など)を考慮する。確定診断には遺伝学的検査が有用である。
よくある質問
Q. この病気は遺伝しますか?
A. 常染色体潜性(劣性)遺伝という形式で受け継がれます。ご両親がどちらも症状のないキャリア(保因者)である場合、お子さまが発症する確率は4分の1です。ご両親自身に症状が出ることはありません。
Q. 検査で調べることはできますか?
A. できます。原因となる ABCA12 遺伝子を調べる検査があり、エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)で変化を検出できます。またキャリアスクリーニングテストで、ご夫婦がキャリアかどうかを事前に調べられます。
Q. 上の子がこの病気です。次の子も同じになりますか?
A. 妊娠のたびに4分の1の確率です。前のお子さまが発症したかどうかで、次の確率が変わることはありません。ご心配な場合は、遺伝カウンセリングをご利用ください。
Q. 成長や知能に影響はありますか?
A. この型では、知能の発達や寿命に直接影響することは多くありません。皮膚の手入れを続けながら、日常生活を送ることができます。
Q. 完治する治療はありますか?
A. 現時点で原因を取り除く治療は確立していません。保湿と角質をやわらげる手入れを続けることで、症状をやわらげ、生活の質を保つことができます。
参考文献
- Akiyama M, Sugiyama-Nakagiri Y, Sakai K, et al. Mutations in lipid transporter ABCA12 in harlequin ichthyosis and functional recovery by corrective gene transfer. J Clin Invest. 2005;115(7):1777-1784.
- Lefèvre C, Audebert S, Jobard F, et al. Mutations in the transporter ABCA12 are associated with lamellar ichthyosis type 2. Hum Mol Genet. 2003;12(18):2369-2378.
- Akiyama M. ABCA12 mutations and autosomal recessive congenital ichthyosis: a review of genotype/phenotype correlations and of pathogenetic concepts. Hum Mutat. 2010;31(10):1090-1096.
- Richard G, Ringpfeil F. Ichthyoses. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle.
- OMIM #601277 Ichthyosis, congenital, autosomal recessive 4A
