概要
ミトコンドリア複合体I欠損症 核型12は、細胞のなかでエネルギーをつくる装置「ミトコンドリア」のうち、電子伝達系の入口にあたる「複合体I」がうまくはたらかなくなる病気です。核の遺伝子である NDUFA1(Xq24)の変化が原因で起こります。
複合体Iは、電子伝達系の5つの装置のなかで最も大きく、最も故障の多い装置です。ここが動かないと細胞はエネルギーを十分につくれず、脳・心臓・筋肉・肝臓など、エネルギーを大量に使う臓器から症状が出ます。なかでも脳幹や基底核が対称的に侵される「リー脳症(リー症候群)」という形をとることが多く知られています。
ミトコンドリア複合体I欠損症 核型12では、乳児期に筋緊張の低下、発達の遅れ、リー脳症の所見で気づかれます。X連鎖遺伝のため、症状が強く出るのは主に男の子です。お母さまがキャリアの場合、症状がないか軽度にとどまることが多いものの、X染色体の不活化の偏りによって症状が出る女性もいます。
原因
NDUFA1(MWFE)は、複合体Iの膜に埋まった部分をまとめる小さな部品です。この遺伝子はX染色体の上にあります。
複合体Iは45個もの部品が組み合わさった巨大な装置で、そのうち14個が中心となる「コア」、残りが安定化などを担う「付属部品」です。さらに、組み立てそのものを手伝う「アセンブリ因子」と呼ばれるたんぱく質も必要です。NDUFA1 はこのうち付属サブユニットにあたります。
この遺伝子はX染色体上にあるため、X連鎖遺伝の形式で受け継がれます。
症状
- 発達の遅れ、いったん獲得した能力が失われる(退行)
- 筋緊張の低下(体がやわらかい)、のちに手足のつっぱり
- 哺乳の不良、体重が増えない
- 眼球運動の異常(眼振)、視神経の萎縮
- 呼吸のリズムの乱れ、無呼吸:脳幹が侵されたときにみられます
- けいれん、失調(ふらつき)
- 血液・髄液で乳酸が高くなる
- 肥大型心筋症、肝機能の障害、腎尿細管の障害(型により異なります)
発熱や下痢、絶食などをきっかけに急に悪化すること(代謝クリーゼ)があります。感染症の予防と、体調をくずしたときの早めの受診が大切です。
検査・診断
血液・髄液の乳酸とピルビン酸、頭部MRI(基底核や脳幹の対称性病変、MRスペクトロスコピーでの乳酸ピーク)で疑います。確定診断は遺伝学的検査で行い、ミトコンドリア複合体I欠損症 核型12では NDUFA1 遺伝子に両アレル性(X連鎖のため男性では半接合性)の変化が見つかります。必要に応じて、筋や皮膚の細胞を用いた酵素活性の測定を行います。
治療
現時点で、原因そのものを治す治療は確立していません。症状をやわらげ、急な悪化を防ぐことが治療の中心になります。
- 代謝クリーゼの予防:長時間の絶食を避け、発熱時は早めに受診します
- ビタミン・補酵素の補充(リボフラビン、チアミン、補酵素Q10、L-カルニチンなど)が試みられます
- けいれん、心不全、栄養、呼吸に対する対症療法とリハビリテーション
- バルプロ酸やアミノグリコシド系抗菌薬など、ミトコンドリアに負担をかける薬に注意が必要です。受診時は必ず病名をお伝えください
- 重症例では緩和ケアを含めた多職種での支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる NDUFA1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、NDUFA1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
この疾患はX染色体上の遺伝子が原因で起こるX連鎖遺伝の疾患です。お母さまが症状のないキャリア(保因者)である場合、息子さんの2分の1が発症し、娘さんの2分の1がキャリアになります。キャリアスクリーニングテストでは、お母さまがこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
複合体I(NADH:ユビキノン酸化還元酵素)は45サブユニットからなるL字型のホロ酵素で、7サブユニット(ND1-ND6、ND4L)はミトコンドリアDNA、残る38サブユニットは核DNAにコードされる。N加群でNADHから電子を受け取り、Q加群を経てユビキノンへ渡すとともに、膜アーム(ND加群・P加群)で4個のプロトンを膜間腔へ汲み出す。核ゲノム型複合体I欠損症は、コアサブユニット・付属サブユニット・アセンブリ因子のいずれの異常でも生じ、現在30以上の病型(nuclear type)が登録されている。
NDUFA1(Xq24)は複合体Iの膜部(ND加群)に組み込まれる8 kDaの付属サブユニットMWFEをコードし、複合体Iの本疾患群のなかで数少ないX連鎖形式をとる。半接合の男性で発症し、保因女性の表現型はX染色体不活化の偏り(skewed XCI)に依存する。報告されているG8R・G32Rなどのミスセンス変異は、いずれも膜貫通ヘリックスの近傍に位置し、ND加群の膜内アセンブリを不安定化する。家系内で男児のみが発症する場合は、常染色体潜性ではなくX連鎖形式を念頭に置く必要がある。
鑑別としては、ミトコンドリアDNA上のND遺伝子変異によるリー脳症・MELAS・LHON、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症、複合体IV欠損症、ビオチン・チアミン反応性基底核症(SLC19A3)などが挙がる。ビオチン・チアミン反応性基底核症は治療反応性があるため、リー脳症様の画像所見をみたら必ず除外する。
よくある質問
Q. どのくらいの頻度で起こる病気ですか。
A. 複合体I欠損症は、ミトコンドリア病のなかでは最も多い型のひとつで、小児のミトコンドリア病のおよそ3分の1を占めるとされます。ただし、そのなかで個々の遺伝子による型はそれぞれ非常にまれです。
Q. 上の子は元気です。次のお子さまへの影響はありますか。
A. X連鎖遺伝のため、お母さまがキャリアの場合、男の子の2分の1が発症する可能性があります。正確な見通しは遺伝カウンセリングでご説明します。
Q. リー脳症とは何ですか。
A. 脳の深い部分(基底核)や脳幹が左右対称に侵される状態をまとめた呼び方で、原因となる遺伝子は75種類以上あります。この病気は、そのなかで複合体Iの異常によって起こるものです。
Q. 女の子でも発症しますか。
A. この型はX連鎖遺伝のため、多くは男の子に症状が出ます。キャリアである女の子は症状がないか軽く済むことが多いのですが、まれに症状が出ることがあります。ご家族の状況に応じて遺伝カウンセリングをおすすめします。
Q. 日常生活で気をつけることはありますか。
A. 長い時間の絶食を避けること、発熱や下痢のときに早めに受診することが大切です。予防接種は主治医と相談のうえ、体調のよいときに受けることが勧められます。
参考文献
- Rodenburg RJ. Mitochondrial complex I-linked disease. Biochim Biophys Acta. 2016;1857(7):938-945.
- Fiedorczuk K, Sazanov LA. Mammalian mitochondrial complex I structure and disease-causing mutations. Trends Cell Biol. 2018;28(10):835-867.
- Lake NJ, Compton AG, Rahman S, Thorburn DR. Leigh syndrome: one disorder, more than 75 monogenic causes. Ann Neurol. 2016;79(2):190-203.
- Fernandez-Moreira D, Ugalde C, Smeets R, et al. X-linked NDUFA1 gene mutations associated with mitochondrial encephalomyopathy. Ann Neurol. 2007;61(1):73-83.
