概要
ミトコンドリア複合体IV欠損症 核型12は、細胞のなかでエネルギーをつくる装置「ミトコンドリア」のうち、電子伝達系の最後の段階にあたる「複合体IV(チトクロムc酸化酵素)」がうまくはたらかなくなる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、PET100(19p13.2)遺伝子の変化が原因となります。
複合体IVは、受け取った電子を最終的に酸素へ渡す装置です。ここで酸素は水に変わり、同時に細胞のエネルギー(ATP)をつくる力が生まれます。この装置が動かないと、脳・心臓・筋肉・肝臓・腎臓など、エネルギーを大量に使う臓器から症状が出ます。
ミトコンドリア複合体IV欠損症 核型12では、新生児期から乳児期に、強い乳酸アシドーシス、筋緊張の低下、発達の遅れ、けいれんで発症します。頭部MRIではリー脳症の所見がみられます。レバノン系の集団に創始者変異が報告されています。
原因
PET100 は、複合体IVを組み立てるときに部品どうしをつなぎ合わせる足場となる小さなたんぱく質です。
複合体IVは14個の部品からできています。そのうち中心となる3つはミトコンドリア自身のDNAから、残りは細胞の核のDNAからつくられます。さらに、これらを正しく組み立てるための「アセンブリ因子」が30種類以上必要です。複合体IV欠損症の多くは、部品そのものではなくアセンブリ因子の異常によって起こります。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 筋緊張の低下、哺乳の不良、体重が増えない
- 発達の遅れ、いったん獲得した能力が失われる(退行)
- 血液・髄液で乳酸が高くなる(型により正常のこともあります)
- けいれん、眼球運動の異常、呼吸のリズムの乱れ
- リー脳症:基底核や脳幹が左右対称に侵されます
- 肥大型心筋症
- 腎尿細管の障害(ファンコニ症候群):型によりみられます
- 肝機能の障害、白質脳症、失調やジストニア(型により異なります)
発熱や下痢、絶食などをきっかけに急に悪化すること(代謝クリーゼ)があります。感染症の予防と、体調をくずしたときの早めの受診が大切です。
検査・診断
血液・髄液の乳酸、頭部MRI、心エコー、腎機能・尿検査で評価します。筋生検のCOX染色で活性の低下を確認できることがあります。確定診断は遺伝学的検査で行い、ミトコンドリア複合体IV欠損症 核型12では PET100 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。
複合体IVの活性が低いことが分かっても、原因となる遺伝子は30種類以上あります。そのため、網羅的な遺伝子解析(パネル検査やエクソーム解析)が診断への近道になります。
治療
現時点で、原因そのものを治す治療は確立していません。症状をやわらげ、急な悪化を防ぐことが治療の中心になります。
- 代謝クリーゼの予防:長時間の絶食を避け、発熱時は早めに受診します
- ビタミン・補酵素の補充(リボフラビン、チアミン、補酵素Q10、L-カルニチンなど)
- けいれん、心不全、栄養、呼吸に対する対症療法とリハビリテーション
- 尿細管障害に対する電解質・重炭酸・リンの補充
- バルプロ酸やアミノグリコシド系抗菌薬など、ミトコンドリアに負担をかける薬に注意が必要です。受診時は必ず病名をお伝えください
- 重症例では緩和ケアを含めた多職種での支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる PET100 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、PET100 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
複合体IV(チトクロムc酸化酵素、COX)はヘムa・a3と2つの銅中心(CuA、CuB)を有する14サブユニットの酵素複合体で、チトクロムcから受け取った電子を酸素へ渡し(4e⁻ + O₂ + 4H⁺ → 2H₂O)、同時にプロトンを膜間腔へ汲み出す。触媒中心を構成するCOX1・COX2・COX3はmtDNAコードで、残りの11サブユニットとヘムa合成(COX10、COX15)、銅輸送(SCO1、SCO2、COX17、COA6)、サブユニット膜挿入(COX20、COX14、COA3)、モジュール集合(PET100、PET117、SURF1)を担う多数の因子が核コードである。
PET100(19p13.2)は膜内在性の小型アセンブリ因子で、核コードのCOXサブユニット(COX5A、COX6C など)をCOX1を含む初期中間体へ導入するモジュールシャペロンとして機能する。本遺伝子は当初「非コード領域」と誤って注釈されていた小型ORFであり、ミトコンドリアプロテオームの再解析によって同定された。レバノン系集団のc.3G>C創始者変異による症例集積があり、同集団のリー脳症では優先して検討する。生化学的には複合体IV活性の単独低下を示す。
複合体IV単独欠損の最頻原因はSURF1(リー脳症)であり、次いでSCO2(肥大型心筋症)、COX15(心筋症・リー脳症)、COX10(尿細管障害)が知られる。核コードの型では、遺伝子ごとに「どの臓器が主に侵されるか」の傾向がある程度定まっており、臨床像から候補を絞ることが可能である。鑑別としては、mtDNAのMT-CO1/2/3変異、ミトコンドリアtRNA変異(MELAS、MERRF)、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症、治療反応性のあるビオチン・チアミン反応性基底核症(SLC19A3)が挙がる。
よくある質問
Q. どのくらいの頻度で起こる病気ですか。
A. 複合体IV欠損症は、ミトコンドリア病のなかでも頻度の高い型のひとつですが、個々の遺伝子による型はいずれも非常にまれです。
Q. 乳酸が正常でもこの病気のことがありますか。
A. あります。ミトコンドリア病では乳酸が高いことが多いのですが、正常な症例も少なくありません。乳酸が正常であることを理由に、この病気を否定することはできません。
Q. 体調をくずしたとき、どうすればよいですか。
A. 発熱や下痢で食事がとれないときは、早めに受診してください。点滴でブドウ糖と水分を補うことで、急な悪化を防げることがあります。かかりつけ医に病名と注意点を書いた情報提供書を用意しておくと安心です。
Q. リー脳症と言われました。
A. 脳の深い部分が左右対称に侵される状態をリー脳症と呼び、原因遺伝子は75種類以上あります。この型は、そのなかで複合体IVの組み立ての異常によるものです。
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。なおミトコンドリアDNAの変化による病気はお母さまから受け継がれますが、この型は核の遺伝子の変化によるもので、遺伝の仕方が異なります。
参考文献
- Rak M, Bénit P, Chrétien D, et al. Mitochondrial cytochrome c oxidase deficiency. Clin Sci (Lond). 2016;130(6):393-407.
- Timón-Gómez A, Nývltová E, Abriata LA, et al. Mitochondrial cytochrome c oxidase biogenesis: recent developments. Semin Cell Dev Biol. 2018;76:163-178.
- Lake NJ, Compton AG, Rahman S, Thorburn DR. Leigh syndrome: one disorder, more than 75 monogenic causes. Ann Neurol. 2016;79(2):190-203.
- Lim SC, Smith KR, Stroud DA, et al. A founder mutation in PET100 causes isolated complex IV deficiency in Lebanese individuals with Leigh syndrome. Am J Hum Genet. 2014;94(2):209-222.
