概要
先天性筋ジストロフィー・ジストログリカノパチー(脳・眼奇形を伴う)A型11は、筋肉の細胞膜を支えるたんぱく質「α-ジストログリカン」に糖の鎖を取りつける工程がうまくいかないために、生まれたときから筋力が弱く、脳と目の形の異常を伴う病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、B3GALNT2(1q42.3)遺伝子の変化が原因となります。
この糖鎖をつくる工程には18種類以上の遺伝子が関わっており、どの段階でつまずくかによって症状の重さが変わります。重いほうから順に、脳と目の異常を伴う「A型」、知的障害を伴う「B型」、成人期に足腰の筋力低下で気づかれる「C型(肢帯型)」に分けられます。先天性筋ジストロフィー・ジストログリカノパチー(脳・眼奇形を伴う)A型11はこのうち最も重いA型にあたります。
先天性筋ジストロフィー・ジストログリカノパチー(脳・眼奇形を伴う)A型11では、脳の形の異常と発達の遅れを伴います。報告例のなかには、筋力低下が比較的軽く、知的発達の遅れが中心となる例もあります。
原因
B3GALNT2 は、α-ジストログリカンに糖鎖をつくる工程のうち、N-アセチルガラクトサミンをつなぐ酵素(コアM3をつくる3番目の段階)のはたらきをします。
α-ジストログリカンは、筋肉の細胞と、その外側を包む「土台(基底膜)」をつなぎ留める留め具です。この留め具の先に正しい糖鎖がつくと、基底膜のラミニンというたんぱく質としっかり結合できます。糖鎖が不完全だと留め具が外れ、筋肉の収縮のたびに細胞膜が壊れていきます。また同じしくみは、胎児期の脳で神経細胞が正しい位置へ移動するときにも使われるため、脳の表面が敷石のようにでこぼこになる「敷石様滑脳症」が起こります。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 生まれたときからの強い筋力低下(フロッピーインファント)、哺乳の弱さ
- 運動発達の遅れ:お座りまではできても歩行に至らないことが多い
- 脳の形の異常:敷石様滑脳症、小脳・脳幹の低形成、水頭症、脳瘤
- 目の異常:強い近視、小眼球、白内障、緑内障、網膜の異形成
- てんかん、熱に伴うけいれん
- 知的発達の遅れ(程度には幅があります)
- 関節の拘縮、脊柱の変形
- 心筋症、呼吸の筋力低下:経過とともに問題になります
- 血液検査でCK(クレアチンキナーゼ)が著しく高くなります
検査・診断
血液検査でCKが高いこと、頭部MRIで敷石様滑脳症・小脳や脳幹の低形成を認めることから疑います。筋生検では、糖鎖のついたα-ジストログリカンが染まらないことを確認します。確定診断は遺伝学的検査で行い、先天性筋ジストロフィー・ジストログリカノパチー(脳・眼奇形を伴う)A型11では B3GALNT2 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。
妊娠中の超音波検査で、水頭症・小脳や脳幹の形の異常・関節の拘縮から疑われることがあります。
治療
病気そのものを治す治療は、現時点では確立していません。合併症を早く見つけて対応し、生活の質を保つことが治療の中心になります。
- 呼吸の管理:定期的な呼吸機能の評価、必要に応じて非侵襲的人工呼吸療法
- 心臓の管理:心エコー・心電図での定期評価、心不全に対する内服
- てんかんに対する抗てんかん薬、水頭症に対するシャント手術
- リハビリテーション、装具、側弯や関節拘縮への整形外科的対応
- 栄養の管理(哺乳・嚥下が難しい場合は経管栄養)
- 眼科での定期的な確認と視覚の支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる B3GALNT2 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、B3GALNT2 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
ジストログリカノパチーは、α-ジストログリカンのO-マンノース型糖鎖(コアM3)の合成障害によって生じる疾患群である。コアM3は、POMT1/POMT2によるO-マンノース付加に始まり、POMGNT2 → B3GALNT2 → POMK(マンノース6位のリン酸化)を経て、FKTN・FKRPがリビトール-5-リン酸を2残基付加し、RXYLT1・B4GAT1がキシロース-グルクロン酸プライマーを形成、最後にLARGE1がマトリグリカンを伸長して完成する。このマトリグリカンがラミニンα2鎖のLGドメインと結合し、筋線維膜と基底膜を機械的に連結する。
B3GALNT2(1q42.3)はコアM3のGlcNAcにβ1,3結合でGalNAcを付加する転移酵素で、POMGNT2の直下流に位置する。表現型はWalker-Warburg症候群からMDDGB11(知的障害を伴う先天性筋ジストロフィー)まで幅がある。血清CK上昇が軽度にとどまり、知的障害とてんかんが前景に立つ症例も報告されており、筋症状が目立たない発達遅滞例でもジストログリカノパチーを鑑別に残す根拠となっている。
臨床的には、重症端のWalker-Warburg症候群(WWS)、中間型の筋眼脳病(MEB)、日本に多い福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)が連続体をなす。鑑別としてはメロシン欠損型先天性筋ジストロフィー(LAMA2)、ミオシリン関連ミオパチー、先天性ミオパチー群、および他の敷石様滑脳症をきたす疾患が挙がる。CK高値を伴う滑脳症をみたら、まずジストログリカノパチーを考える。
よくある質問
Q. どのくらいの頻度で起こる病気ですか。
A. ジストログリカノパチー全体では出生10万人あたり数人とされます。日本では、このうち福山型先天性筋ジストロフィー(FKTN遺伝子)が大部分を占め、日本人のおよそ90人に1人がキャリアと推定されています。
Q. 歩けるようになりますか。
A. A型では、多くの場合お座りまでは獲得しますが、歩行に至らないことが多いとされます。ただし遺伝子と変化の種類によって幅があり、歩行が可能な例もあります。リハビリテーションを続けながら、その方に合った目標を立てていきます。
Q. CKが高いと言われました。何を意味しますか。
A. CK(クレアチンキナーゼ)は筋肉の細胞のなかにある酵素で、筋肉の細胞膜が壊れると血液中に漏れ出します。この病気では数千から数万まで高くなることがあり、診断の重要な手がかりになります。
Q. 筋肉の症状が目立ちません。
A. この型では、筋肉の症状が軽く、発達の遅れやてんかんが中心となることがあります。血液検査でCK(クレアチンキナーゼ)を確認すると手がかりになります。
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。上のお子さまの症状の重さは、次のお子さまの重さを必ずしも予測しません。遺伝カウンセリングでご相談ください。
参考文献
- Godfrey C, Foley AR, Clement E, Muntoni F. Dystroglycanopathies: coming into focus. Curr Opin Genet Dev. 2011;21(3):278-285.
- Endo T. Glycobiology of α-dystroglycan and muscular dystrophy. J Biochem. 2015;157(1):1-12.
- Yoshida-Moriguchi T, Campbell KP. Matriglycan: a novel polysaccharide that links dystroglycan to the basement membrane. Glycobiology. 2015;25(7):702-713.
- Stevens E, Carss KJ, Cirak S, et al. Mutations in B3GALNT2 cause congenital muscular dystrophy and hypoglycosylation of α-dystroglycan. Am J Hum Genet. 2013;92(3):354-365.
