概要
ネマリンミオパチー1型は、生まれつき筋肉の力が弱い「先天性ミオパチー」のひとつです。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、TPM3 遺伝子の変化が原因となります。
筋肉を顕微鏡で見ると、「ネマリン小体(ロッド)」と呼ばれる棒状の構造が現れるのが名前の由来です。症状の重さには大きな幅があり、生まれてすぐ呼吸の助けが必要な方から、成人になってから気づかれる方までさまざまです。
原因
TPM3 遺伝子は、筋肉が縮むときに使われる「細いフィラメント」を構成する(あるいはその形成に関わる)たんぱく質の設計図です。
筋肉は、太いフィラメント(ミオシン)と細いフィラメント(アクチン、トロポミオシン、トロポニン等)が滑り合うことで縮みます。この遺伝子に変化があると細いフィラメントの構造や調節が乱れ、筋肉が十分な力を出せなくなります。乱れた成分が集まったものが、ネマリン小体として観察されます。
TPM3 は、細いフィラメントに巻きついて筋肉の収縮のオン・オフを切り替えるトロポミオシン(遅筋型)の設計図です。この型では、遅筋線維が優位に細くなる所見がみられます。
症状
- 生まれたときからの筋緊張の低下(体がやわらかい)
- 顔・のど・体幹の筋力低下:哺乳が難しい、飲み込みにくい、表情が乏しい
- 呼吸の筋力低下:この病気で予後を決める最も重要な症状です(夜間の低換気から始まることがあります)
- 運動発達の遅れ
- 脊柱側弯、関節の拘縮、胸郭の変形
- 高口蓋、下顎が小さいなどの特徴
- 知能は保たれます
- 経過は進行しないか、ごくゆっくりであることが多いとされます
検査・診断
筋力低下の様子、血液検査(CKは正常〜軽度上昇)、筋MRIから疑い、筋生検でネマリン小体(ゴモリトリクローム変法染色で赤紫色の棒状構造)を確認します。原因遺伝子が10以上知られているため、TPM3 遺伝子を含む遺伝学的検査によってネマリンミオパチー1型と確定します。
治療
- 根本的に治す方法は確立していません
- 呼吸機能の定期的な評価と、非侵襲的換気療法(NPPV):予後を大きく左右します
- 嚥下の評価と栄養の管理(必要に応じて経管栄養)
- 理学療法、装具による関節拘縮の予防
- 脊柱側弯に対する定期的な評価と、必要に応じた手術
- 麻酔を受けるときは必ず病名を伝えてください(呼吸抑制が遷延しやすく、術後の呼吸管理に配慮が必要です)
- 感染症(とくに気道感染)の予防と早期治療
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる TPM3 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、TPM3 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
ネマリンミオパチー1型は TPM3 の両アレル変異による先天性ミオパチーである。ネマリンミオパチーは、筋線維内のネマリン小体(Z帯由来のα-アクチニン、アクチン等からなる電子密度の高い構造)を病理学的特徴とし、責任遺伝子として NEB、ACTA1、TPM3、TPM2、TNNT1、CFL2、KBTBD13、KLHL40、KLHL41、LMOD3 など10以上が同定されている。
これらの遺伝子産物の多くは細いフィラメント(thin filament)の構成蛋白または、その長さ・安定性の制御因子である。したがってネマリンミオパチーは「thin filament myopathy」と総称される。ネマリン小体の量と筋力低下の程度は必ずしも相関せず、収縮蛋白の機能異常そのものが病態の本質と考えられている。
TPM3(1q21.3)はα-トロポミオシン(slow型)をコードする。顕性変異と潜性変異の双方が報告され、潜性型は一般に重症である。病理学的には1型線維(遅筋)優位の萎縮とネマリン小体を認め、cap myopathyやcongenital fiber-type disproportion(CFTD)の表現型をとることもある。
予後を規定するのは呼吸筋の障害である。四肢の筋力が保たれていても呼吸機能が低下していることがあり、自覚症状に乏しい夜間低換気の評価(睡眠時の経皮CO2モニタリング等)が重要である。麻酔管理では、呼吸抑制の遷延と術後の換気補助を要する可能性を想定する。
よくある質問
Q. 進行しますか?
A. 多くの型では進行しないか、進行してもごくゆっくりです。ただし、成長に伴って側弯や呼吸の問題が出てくることがあります。
Q. 呼吸の検査はなぜ必要ですか?
A. この病気では呼吸の筋力低下が予後を大きく左右します。夜間の呼吸から弱くなることが多く、自覚しにくいため、定期的に調べておくことが大切です。
Q. 知的な発達に影響しますか?
A. 影響しません。この病気で弱くなるのは筋肉です。
Q. 手術や麻酔のときの注意はありますか?
A. 必ず病名をお伝えください。麻酔後に呼吸が戻りにくいことがあり、術後の呼吸管理に配慮が必要です。
Q. この型に特徴的なことはありますか?
A. 筋肉の収縮のオン・オフを切り替えるたんぱく質の遺伝子です。遅い筋線維が細くなる所見がみられます。
参考文献
- Laing NG, Wilton SD, Akkari PA, et al. A mutation in the alpha tropomyosin gene TPM3 associated with autosomal dominant nemaline myopathy. Nat Genet. 1995;9(1):75-79.
- North KN, Wang CH, Clarke N, et al. Approach to the diagnosis of congenital myopathies. Neuromuscul Disord. 2014;24(2):97-116.
- Sewry CA, Laitila JM, Wallgren-Pettersson C. Nemaline myopathies: a current view. J Muscle Res Cell Motil. 2019;40(2):111-126.
- Wallgren-Pettersson C, Sewry CA, Nowak KJ, Laing NG. Nemaline myopathies. Semin Pediatr Neurol. 2011;18(4):230-238.
