概要
常染色体潜性原発性小頭症20型は、生まれつき頭が小さく(小頭症)、脳、とくに大脳皮質が十分に大きくならないために、知的な発達に影響が出る病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、KIF14 遺伝子の変化が原因となります。
「原発性」とは、脳の作られ方そのものに原因があるという意味です。感染症や酸素不足など、あとから加わった原因による小頭症とは区別されます。脳の形は保たれたまま全体が小さいのが特徴で、進行性に悪くなる病気ではありません。
原因
KIF14 遺伝子は、脳が作られる時期に、神経のもとになる細胞(神経前駆細胞)が分裂するときのはたらきに関わるたんぱく質の設計図です。
胎児の脳では、神経前駆細胞が正確に分裂をくり返すことで、必要な数の神経細胞が作られます。この遺伝子に変化があると分裂がうまくいかず、作られる神経細胞の数が少なくなるため、大脳皮質が小さくなります。
KIF14 は、細胞のなかで物を運ぶモーターたんぱく質の一種で、細胞分裂の最後の段階ではたらきます。この型では、小頭症に低身長や腎臓の異常を伴うことがあると報告されています。
症状
- 生まれたときからの小頭症(頭囲が標準より著しく小さい。−3SD以下が目安)
- 知的障害(軽度から重度まで幅がありますが、多くは軽度〜中等度です)
- ことばの発達の遅れ
- 脳の構造そのものは保たれている(脳回の形は正常か、やや単純化する程度)
- けいれん(伴わないことも多い)
- 身長・体重は正常なことが多い
- 顔つきに大きな特徴はなく、進行性の悪化もありません
検査・診断
頭囲の計測(出生時から−3SD以下が目安)と頭部MRIによる評価を行います。感染症(TORCH)、代謝性疾患、染色体異常など、ほかの原因による小頭症を除外することが大切です。原因遺伝子が18以上知られているため、KIF14 遺伝子を含む遺伝学的検査によって常染色体潜性原発性小頭症20型と確定します。
治療
- 根本的に治す方法は確立していません
- 療育・教育面での支援(早期からの介入が有効です)
- 言語療法、作業療法
- けいれんがある場合は抗てんかん薬
- 定期的な発達の評価と、成長の記録
- ご家族への支援と、次のお子さまについての遺伝カウンセリング
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる KIF14 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、KIF14 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
常染色体潜性原発性小頭症20型(MCPH)は KIF14 の両アレル変異により生じる。MCPHは頭囲−3SD以下(多くは−4〜−7SD)の先天性小頭症と非進行性の知的障害を特徴とし、脳の構築は概ね保たれる。
責任遺伝子産物の大半は中心体・紡錘体極・キネトコアに局在する。胎生期の神経前駆細胞では、分裂軸の向きが「対称分裂(前駆細胞を増やす)」と「非対称分裂(神経細胞を作る)」を決める。中心体機能の異常により分裂軸の制御が破綻すると、前駆細胞プールが早期に枯渇し、産生される神経細胞数が減少して大脳皮質が小さくなる。
KIF14(1q32.1)はキネシンスーパーファミリーのモーター蛋白で、citron kinaseと協調して中央体に局在し細胞質分裂を完了させる。表現型の幅は広く、MCPH20(比較的軽症)から、Meckel症候群様の致死的表現型(小頭症・多嚢胞腎・多指症)まで連続する。腎病変を伴う例では繊毛病との境界が議論される。
MCPHはヒトの脳容積の進化を理解する手がかりとしても注目され、ASPMやMCPH1には霊長類系統での正の選択の痕跡が報告されている。臨床的には、頭部MRIで脳の構築が保たれる点が、滑脳症・多小脳回・小頭症を伴う脳形成異常(MCPH以外)との鑑別点である。
よくある質問
Q. 進行して悪くなりますか?
A. 進行性の病気ではありません。生まれつき脳が小さいことによる症状で、時間とともに悪化していくものではありません。
Q. 知的な発達はどのくらいですか?
A. 軽度から重度まで幅がありますが、多くは軽度〜中等度とされています。早くから療育を続けることで、できることを増やしていけます。
Q. けいれんは起こりますか?
A. 起こる方と起こらない方がいます。この病気では、てんかんを伴わないことも少なくありません。
Q. なぜ遺伝子を調べるのですか?
A. 18以上の原因遺伝子が知られており、型によって合併症や経過がわずかに異なります。また、次のお子さまについて考えるうえでも役立ちます。
Q. 腎臓の検査も必要ですか?
A. この型では、腎臓の異常を伴うことが報告されています。定期的に腎臓のはたらきを確認しておくと安心です。
参考文献
- Moawia A, Shaheen R, Rasool S, et al. Mutations of KIF14 cause primary microcephaly by impairing cytokinesis. Ann Neurol. 2017;82(4):562-577.
- Woods CG, Bond J, Enard W. Autosomal recessive primary microcephaly (MCPH): a review of clinical, molecular, and evolutionary findings. Am J Hum Genet. 2005;76(5):717-728.
- Jayaraman D, Bae BI, Walsh CA. The Genetics of Primary Microcephaly. Annu Rev Genomics Hum Genet. 2018;19:177-200.
- Faheem M, Naseer MI, Rasool M, et al. Molecular genetics of human primary microcephaly: an overview. BMC Med Genomics. 2015;8 Suppl 1:S4.
