概要
原発性コエンザイムQ10欠乏症1型は、細胞のなかでエネルギーをつくるときに欠かせない物質「コエンザイムQ10(ユビキノン)」を自分でつくれなくなる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、COQ2(4q21.23)遺伝子の変化が原因となります。
この病気には、他の多くの遺伝性疾患と大きく違う点があります。それは「不足しているものを補うことで、症状が改善する場合がある」ということです。コエンザイムQ10を高用量で補充する治療により、とくに腎臓の症状は改善が期待できます。そのため、早く診断をつけることに大きな意味があります。
原発性コエンザイムQ10欠乏症1型では、乳児期に、ステロイドが効かないネフローゼ症候群(大量のたんぱく尿)で発症することが多い型です。脳症、けいれん、網膜の変性、難聴、心筋症を伴うことがあります。早い段階でコエンザイムQ10を補充すると、腎臓の症状が改善する例が報告されています。
原因
COQ2 は、コエンザイムQ10をつくる工程で「頭」と「尾」の部分をつなぐ酵素です。
コエンザイムQ10は、ミトコンドリアのなかで電子を運ぶ「バケツリレーの手渡し役」です。これがないと、電子伝達系の複合体Iや複合体IIから複合体IIIへ電子を渡せず、エネルギーがつくれません。また強力な抗酸化物質としても、ピリミジン(DNAの材料)の合成にも関わっています。
コエンザイムQ10は食事からも少し取り込まれますが、体内で使われるもののほとんどは自分の細胞でつくられています。そのため、つくる工程の遺伝子に変化があると不足します。これを「原発性」と呼び、他の病気に伴って二次的に低下する「続発性」と区別します。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
症状の出方は、原因となる遺伝子によって大きく異なります。おもに次の5つの形が知られています。
- 脳筋症型:けいれん、発達の遅れ、筋力低下、運動時の疲れやすさ
- 重症乳児多臓器型:新生児期からの強い乳酸アシドーシス、心筋症、呼吸障害
- 小脳失調型:歩行のふらつき、小脳の萎縮。学童期以降に多くみられます
- 腎症型:ステロイドが効かないネフローゼ症候群(大量のたんぱく尿、むくみ)。治療への反応がもっとも期待できる症状です
- 難聴・網膜変性:型により伴います
検査・診断
血液・髄液の乳酸、尿たんぱく、心エコー、頭部MRI、聴力検査、眼科的評価を行います。筋肉や皮膚の細胞でコエンザイムQ10の量を測定すると、低下が確認できることがあります(ただし血液中の濃度は食事や薬の影響を受けるため、低くても診断の決め手にはなりません)。
確定診断は遺伝学的検査で行い、原発性コエンザイムQ10欠乏症1型では COQ2 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。治療可能な病気であるため、原因不明のネフローゼ症候群・小脳失調・乳児期の脳症では早い段階で遺伝学的検査を検討する価値があります。
治療
高用量のコエンザイムQ10の内服が治療の中心です。ただしすべての症状に等しく効くわけではありません。
- コエンザイムQ10(ユビキノン/ユビキノール)の高用量内服:医師の管理のもとで行います。市販のサプリメントとは用量も品質も異なります
- 腎臓の症状はもっとも反応しやすく、早期に始めれば末期腎不全への進行を遅らせられる可能性があります
- 脳や神経の症状は、改善が限られます。コエンザイムQ10は脂に溶ける大きな分子で、脳へ届きにくいためです
- けいれん、心不全、腎不全、難聴に対する対症療法
- リハビリテーションと発達支援
- ステロイドや免疫抑制薬は、この病気のネフローゼ症候群には効きません。不要な免疫抑制を避けるためにも、診断をつけることが重要です
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる COQ2 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、COQ2 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
コエンザイムQ10(ユビキノン)は、ベンゾキノン環に10個のイソプレン単位からなる側鎖が結合した脂溶性分子で、内膜における複合体I・IIから複合体IIIへの電子伝達、ジヒドロオロト酸脱水素酵素(ピリミジン de novo 合成)、電子伝達フラビンたんぱく質脱水素酵素(脂肪酸β酸化)、そして脂質過酸化の抑制に関与する。生合成にはCOQ1〜COQ11の少なくとも11種類の遺伝子産物が「complex Q」と呼ばれる複合体を形成して関与する。
COQ2(4q21.23)はパラヒドロキシベンゾエート-ポリプレニル転移酵素で、4-ヒドロキシ安息香酸にデカプレニル側鎖を付加する。臨床像は乳児期発症の多臓器型(腎・脳・心)が中心で、糸球体足細胞はミトコンドリア密度が高くCoQ10依存性が強いため、巣状分節性糸球体硬化症を呈しやすい。腎症状はCoQ10補充に反応しやすい一方、中枢神経症状の改善は乏しい(CoQ10の血液脳関門透過性が低いため)。なお本遺伝子のヘテロ接合バリアントと多系統萎縮症との関連が報告されているが、本疾患とは別の議論である。
原発性CoQ10欠乏症は「治療可能なミトコンドリア病」の代表であり、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群(SRNS)の遺伝子診断パネルには必ずCOQ2・COQ6・COQ8B(ADCK4)・PDSS2を含めるべきである。鑑別としては、続発性CoQ10欠乏(ETFDHによる多発カルボキシラーゼ欠損様病態、ミトコンドリアDNA異常、加齢やスタチン使用)が挙がり、続発性でも補充が有効な場合がある点は臨床的に重要である。
よくある質問
Q. 市販のコエンザイムQ10で代用できますか。
A. できません。治療で用いる量は、市販のサプリメントに含まれる量をはるかに超えます。また吸収されやすい製剤の選択や、血中濃度をみながらの調整が必要です。必ず主治医の管理のもとで行ってください。
Q. どのくらいで効果が分かりますか。
A. 腎臓の症状(たんぱく尿)では、数週間から数か月で変化がみられることがあります。神経の症状は、改善よりも進行を遅らせることが目標になります。効果の判定には時間がかかるため、定期的な評価を続けます。
Q. 食事で増やすことはできますか。
A. 食事から摂れるコエンザイムQ10はごくわずかで、体内で使われる量のほとんどは自分でつくったものです。食事だけで不足を補うことはできません。
Q. 腎臓の症状にステロイドが効きません。
A. この病気によるネフローゼ症候群は、ステロイドや免疫抑制薬では改善しません。コエンザイムQ10の補充が有効なことがあるため、早期の診断が重要です。
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。この病気は早期治療で経過が変わりうるため、ごきょうだいの検査についても遺伝カウンセリングでご相談ください。
参考文献
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- Desbats MA, Lunardi G, Doimo M, Trevisson E, Salviati L. Genetic bases and clinical manifestations of coenzyme Q10 (CoQ10) deficiency. J Inherit Metab Dis. 2015;38(1):145-156.
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- Quinzii C, Naini A, Salviati L, et al. A mutation in para-hydroxybenzoate-polyprenyl transferase (COQ2) causes primary coenzyme Q10 deficiency. Am J Hum Genet. 2006;78(2):345-349.
