概要
セッケル症候群5型は、お母さまのおなかのなかにいるときから体が小さく、生まれたあとも身長が伸びず、頭が著しく小さいことを特徴とする病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、CEP152(15q21.1)遺伝子の変化が原因となります。
セッケル症候群は「小頭性原発性小人症」と呼ばれるグループに属します。「原発性」とは、ホルモンや栄養の問題ではなく、体をつくる細胞そのものが十分に増えないために小さくなるという意味です。原因遺伝子の多くはDNAを正確にコピーし、傷を修復するためのしくみに関わっています。
セッケル症候群5型では、著しい小頭症と低身長、知的障害がみられます。この遺伝子は、低身長を伴わない「常染色体潜性原発性小頭症(MCPH9)」の原因でもあり、同じ遺伝子で2つの病名がつけられています。
原因
CEP152 は、細胞が分裂するときの土台となる「中心小体」を正しく複製するためのたんぱく質です。
胎児期の脳では、神経のもとになる細胞が猛烈な速さで分裂を繰り返して数を増やします。このとき、DNAのコピーミスや傷は避けられません。ミスを見つけて修復するしくみが弱いと、細胞は分裂を止めるか死んでしまい、結果として脳をつくる細胞の数が足りなくなります。これが、著しい小頭症が起こる理由です。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 子宮内発育不全:妊娠中の超音波検査で小さいことが指摘されます
- 著しい低身長:成人身長は多くの場合100〜130cm程度です
- 強い小頭症:頭囲が平均より4標準偏差以上小さくなります
- 特徴的な顔つき:突出した鼻(鳥様顔貌)、後退したあご、大きめの目、額の後退
- 中等度から重度の知的障害:ただし程度には幅があります
- 関節の脱臼しやすさ、側弯、股関節の異常
- 血液の異常:一部の症例で汎血球減少や白血病・骨髄異形成症候群の報告があります
- 停留精巣、皮膚の色素異常
検査・診断
成長曲線での評価(身長・頭囲)、頭部MRI(脳の大きさは小さいものの構造は比較的保たれる「単純小頭症」)、骨のX線検査、発達の評価を行います。確定診断は遺伝学的検査で行い、セッケル症候群5型では CEP152 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。
「小さく生まれて小さいまま」という点が、出生後に成長が止まるタイプの低身長と大きく異なります。成長ホルモンの分泌は正常であることがほとんどです。
治療
病気そのものを治す治療はありません。成長・発達の支援と、合併症の管理が中心になります。
- 発達支援・療育:早期からの介入が生活の質を高めます
- 成長ホルモン治療の効果は限定的とされます。内分泌の専門医と個別にご相談ください
- 栄養の管理(乳幼児期の哺乳困難への対応)
- 整形外科的な管理(股関節、側弯、関節の脱臼)
- 定期的な血液検査:血球減少や血液疾患の早期発見のために推奨されます
- 就学支援、療育手帳など福祉制度の活用
- 不要な放射線被ばくを避ける配慮(DNA修復に関わる遺伝子の異常であるため)
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる CEP152 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、CEP152 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
セッケル症候群は微小頭性原発性小人症(microcephalic primordial dwarfism, MPD)の一型で、常染色体潜性原発性小頭症(MCPH)と連続したスペクトラムをなす。原因遺伝子は①DNA損傷応答(ATR、ATRIP、RBBP8、NSMCE2)、②中心小体・紡錘体(CEP152、CENPJ、CEP63、PLK4、NIN)、③複製・転写(DNA2、TRAIP)に整理でき、いずれも「増殖する神経前駆細胞のゲノム安定性維持」という共通点をもつ。
CEP152(15q21.1)は中心小体の近位端に局在し、PLK4・CEP192・CPAP(CENPJ)と協調して中心小体の複製を制御する。欠損すると神経前駆細胞の紡錘体配向が乱れ、対称分裂と非対称分裂のバランスが崩れて皮質のニューロン産生が減少する。セッケル症候群5型(低身長を伴う)とMCPH9(小頭症のみ)は同一遺伝子のアレル疾患であり、「原発性小頭症」と「小頭性原発性小人症」が連続体であることを示す代表例である。中心小体関連遺伝子(CENPJ、CEP63、PLK4)でも同様の重複がみられる。
鑑別としては、MOPD II型(PCNT:もやもや病様の脳血管異常とインスリン抵抗性糖尿病を伴い、知的発達は比較的良好)、Meier-Gorlin症候群(小耳症・膝蓋骨欠損、知的発達は正常)、ナイミーヘン症候群(NBN:免疫不全と悪性腫瘍のリスク)、コケイン症候群、Silver-Russell症候群、および胎児性アルコール症候群・先天感染などの環境要因が挙がる。MOPD II型は脳血管障害による突然死のリスクがあるため、鑑別としての優先度が高い。
よくある質問
Q. どのくらいの頻度で起こる病気ですか。
A. 世界で数百例が報告されている非常にまれな病気です。近親婚の多い集団で頻度が高くなることが知られています。
Q. 知的な発達はどうなりますか。
A. 中等度から重度の知的障害を伴うことが多いとされますが、程度には大きな幅があります。早期からの療育と、その方に合った教育環境の調整が大切です。
Q. 成長ホルモンは効きますか。
A. 効果は限定的とされています。この病気の低身長は成長ホルモンの不足によるものではなく、細胞が増えにくいこと自体が原因だからです。適応については内分泌の専門医とご相談ください。
Q. 小頭症とセッケル症候群は違う病気ですか。
A. 同じ遺伝子の変化で、身長の制限を伴う場合をセッケル症候群、頭の小ささが中心の場合を小頭症と呼び分けています。実際には連続した病気です。
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。正確な見通しは遺伝カウンセリングでご確認ください。
参考文献
- Verloes A, Drunat S, Gressens P, Passemard S. Primary autosomal recessive microcephalies and Seckel syndrome spectrum disorders. In: GeneReviews. University of Washington, Seattle; 2020.
- Klingseisen A, Jackson AP. Mechanisms and pathways of growth failure in primordial dwarfism. Genes Dev. 2011;25(19):2011-2024.
- O’Driscoll M, Jeggo PA. The role of the DNA damage response pathways in brain development and microcephaly: insight from human disorders. DNA Repair (Amst). 2008;7(7):1039-1050.
- Kalay E, Yigit G, Aslan Y, et al. CEP152 is a genome maintenance protein disrupted in Seckel syndrome. Nat Genet. 2011;43(1):23-26.
