概要
シニア・ローケン症候群8型は、腎臓のはたらきがゆっくり失われる「ネフロン癆」と、目の網膜が変性する病気が同時に起こる疾患です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、WDR19(4p14)遺伝子の変化が原因となります。
腎臓と目という一見つながりのない2つの臓器が同時に侵されるのは、どちらの細胞にも「一次繊毛」という共通のアンテナがあり、それが正しくはたらかなくなるためです。このような病気をまとめて「繊毛病(せんもうびょう)」と呼びます。
シニア・ローケン症候群8型では、腎臓の症状と網膜の変性に加えて、この遺伝子では、胸郭が狭い骨の病気(ジューヌ症候群)や肝臓の線維化を伴う例が報告されており、症状の幅がとくに広いことが特徴です。
原因
WDR19(IFT144)は、繊毛のなかを先端から根元へ向かって荷物を戻す運搬装置(IFT-A複合体)の部品です。
目の網膜にある視細胞は、光を感じる部分(外節)と、それをつくる部分(内節)が細い「連結繊毛」でつながった構造をしています。外節では毎日大量のたんぱく質がつくり替えられるため、この繊毛を通る運搬が止まると視細胞は生きていけません。腎臓の尿細管でも、同じ繊毛が尿の流れを感じ取っています。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
目の症状
- 夜や暗いところで見えにくい(夜盲)、視野が狭くなる
- 眼球のふるえ(眼振):乳児期発症の場合にみられます
- 網膜電図(ERG)の反応の低下または消失
- 型により、生後まもなくからの強い視力障害(レーバー先天黒内障の形)を示します
腎臓の症状
- 多尿・多飲:尿を濃くできないために起こります。いったんおむつが外れたあとの夜尿が最初のサインになることがあります
- 貧血、疲れやすさ、身長の伸びが悪い
- 血液検査でクレアチニンが上昇。たんぱく尿や血尿は目立ちません
- 多くは10代から20代で末期腎不全に至ります
検査・診断
眼科では網膜電図(ERG)、光干渉断層計(OCT)、眼底検査を行います。腎臓では血液・尿検査と腹部超音波検査(皮髄境界の不明瞭化、皮質髄質境界部の嚢胞)を確認します。確定診断は遺伝学的検査で行い、シニア・ローケン症候群8型では WDR19 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。
目の症状だけ、あるいは腎臓の症状だけで見つかることが多く、もう一方の臓器の評価が抜けやすい点に注意が必要です。網膜変性がある方には腎機能の確認を、ネフロン癆がある方には眼科の評価を必ず行ってください。
治療
病気そのものを治す治療は、現時点では確立していません。腎機能の管理と、視覚の支援が中心になります。
- 水分と塩分の管理:尿を濃くできないため脱水になりやすく、注意が必要です
- 貧血に対するエリスロポエチン製剤、成長障害に対する成長ホルモン治療
- 末期腎不全に対する透析療法と腎移植。腎移植後にこの病気が再発することはありません
- ロービジョンケア:拡大読書器、遮光眼鏡、白杖の訓練、就学環境の調整
- 定期的な眼科・腎臓内科の受診
- 視覚障害と腎不全が重なるため、早い段階から福祉制度(身体障害者手帳、指定難病)の利用を検討します
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる WDR19 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、WDR19 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
シニア・ローケン症候群(SLSN)はネフロン癆と網膜ジストロフィーを併せもつ常染色体潜性繊毛病で、ネフロン癆全体の10〜15%を占める。原因遺伝子はNPHP1、NPHP4、IQCB1(NPHP5)、CEP290(NPHP6)、SDCCAG8(NPHP10)、WDR19(IFT144)、TRAF3IP1 などで、いずれもネフロン癆単独やジュベール症候群・バルデー・ビードル症候群とも表現型を共有する。
WDR19(IFT144、4p14)はIFT-A複合体のコアサブユニットで、繊毛内の逆行輸送(retrograde transport)を担う。同一遺伝子からシニア・ローケン症候群8型、ネフロン癆13型、短肋骨胸郭異形成症(ジューヌ症候群)、クラニオエクトダーマル異形成症(Sensenbrenner症候群)という複数の繊毛病表現型が生じる。「腎・網膜・骨・肝」のどの組み合わせが出るかは残存機能に依存し、遺伝子型からの予測は難しいため、診断後は各臓器を系統的に評価する。
臨床的に最も重要なのは「網膜症状の発症時期」による層別化である。IQCB1・CEP290 では乳児期のレーバー先天黒内障として発症し、NPHP1・NPHP4 では学童期以降の網膜色素変性症として現れる。前者では「目の病気」として眼科で長期に経過をみられている間に腎不全が進行しうるため、LCAの遺伝子診断は腎臓のサーベイランス開始の判断材料となる。鑑別としては、バルデー・ビードル症候群、ジュベール症候群関連疾患、アルストレム症候群、ミトコンドリア病(Kearns-Sayre症候群)が挙がる。
よくある質問
Q. どのくらいの頻度で起こる病気ですか。
A. ネフロン癆自体が出生5万人から10万人に1人程度とまれで、そのうち網膜の症状を伴うシニア・ローケン症候群は10〜15%とされています。
Q. 目が見えにくいうえに腎臓も悪くなるのですか。
A. この病気では両方が起こりますが、時期がずれることが多く、同時に急激に悪くなるわけではありません。それぞれに対する支援制度があります。早めに医療ソーシャルワーカーにご相談ください。
Q. 腎移植を受けると目もよくなりますか。
A. 残念ながら、腎移植で目の症状が改善することはありません。腎臓と目は別々に管理していく必要があります。ただし腎移植によって全身状態が改善し、生活の質は大きく向上します。
Q. 胸の形や骨についても検査が必要ですか。
A. この遺伝子では、胸郭が狭いなど骨の症状を伴うことがあります。診断がついた時点で、胸部X線を含めた全身の評価をおすすめします。
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。ごきょうだいは症状が出る前に見つかることがあります。遺伝カウンセリングでご相談ください。
参考文献
- Ronquillo CC, Bernstein PS, Baehr W. Senior-Løken syndrome: a syndromic form of retinal dystrophy associated with nephronophthisis. Vision Res. 2012;75:88-97.
- Wolf MTF, Hildebrandt F. Nephronophthisis. Pediatr Nephrol. 2011;26(2):181-194.
- Hildebrandt F, Benzing T, Katsanis N. Ciliopathies. N Engl J Med. 2011;364(16):1533-1543.
- Bredrup C, Saunier S, Oud MM, et al. Ciliopathies with skeletal anomalies and renal insufficiency due to mutations in the IFT-A gene WDR19. Am J Hum Genet. 2011;89(5):634-643.
