脊髄性筋萎縮症

Spinal Muscular Atrophy, SMN1

概要

脊髄性筋萎縮症(SMA)は、背骨のなかを通る脊髄で、筋肉に「動け」という命令を送る神経細胞(運動ニューロン)が減っていくために、体の力が弱くなっていく病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、SMN1 遺伝子の変化が原因となります。

以前は有効な治療がありませんでしたが、近年になって複数の治療薬が登場し、経過が大きく変わった病気です。治療は早く始めるほど効果が高いことが分かっており、日本でも新生児スクリーニングの導入が各地で進んでいます。

原因

SMN1 遺伝子は、SMNたんぱく質の設計図です。SMNたんぱく質は、細胞のなかでRNAを組み立てるはたらきに関わり、とくに運動ニューロンが生き続けるために欠かせません。

ヒトには、よく似た SMN2 という遺伝子もあります。SMN2からも少量のSMNたんぱく質が作られるため、SMN2の本数が多い人ほど症状が軽くなるという関係が知られています。この点が、治療方針を考えるうえで重要になります。

症状

  • I型(重症型・ウェルドニッヒホフマン病):生後6か月までに発症。首がすわらない、寝返りができない、哺乳や呼吸が弱い
  • II型(中間型):おすわりはできるが、支えなしで立てない。側弯や関節の拘縮を伴う
  • III型(軽症型・クーゲルベルグ・ウェランダー病):歩けるようになるが、その後に階段や歩行が難しくなる
  • IV型(成人発症型):成人になってから、ゆっくりと筋力が低下する
  • 共通して、体幹や手足の付け根に近い筋肉から弱くなる/舌がぴくぴく動く(線維束攣縮)
  • 知能は保たれます

検査・診断

筋力の低下の様子から疑い、SMN1 遺伝子の欠失(多くは第7エクソンの欠失)を調べることで診断します。あわせて SMN2 のコピー数を測り、重症度の見通しと治療の選択に役立てます。

治療

  • ヌシネルセン(スピンラザ®):SMN2から作られるたんぱく質を増やす薬。髄液のなかへ定期的に注射します
  • オナセムノゲン アベパルボベク(ゾルゲンスマ®):正常な遺伝子を導入する遺伝子治療。原則2歳未満に1回点滴します
  • リスジプラム(エブリスディ®):飲み薬。毎日内服します
  • 呼吸のサポート(人工呼吸器・咳の介助)、栄養の管理(経管栄養)
  • 理学療法、側弯や関節拘縮に対する整形外科的な治療
  • 治療は早く始めるほど効果が高いとされ、発症前の治療開始が最も望ましいと考えられています

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる SMN1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、SMN1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

キャリアスクリーニングテスト(228種類)

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます

検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。

専門的な解説

SMAは SMN1(5q13.2)の両アレル変異(約95%はエクソン7を含むホモ接合性欠失、残りは欠失+点変異の複合ヘテロ)により生じる。保因者頻度は約1/50、発症頻度は約1/10,000出生と、常染色体潜性疾患のなかでも高頻度である。

同一領域に存在する SMN2 は、エクソン7内の c.840C>T により大部分の転写産物でエクソン7がスキップされ、不安定な SMNΔ7 蛋白となる。しかし約10%は全長SMNを産生するため、SMN2コピー数が表現型の主要な修飾因子となる(コピー数が多いほど軽症)。

治療は3剤が国内承認されている。ヌシネルセン(アンチセンスオリゴヌクレオチド、髄腔内投与)とリスジプラム(低分子スプライシング修飾薬、経口)はいずれもSMN2のエクソン7スキッピングを抑制し、オナセムノゲン アベパルボベクはAAV9ベクターによるSMN1遺伝子補充療法である。

NURTURE試験・SPR1NT試験により、発症前投与で運動発達がほぼ正常に保たれることが示され、新生児スクリーニングの意義が確立した。日本でも自治体単位での導入が進んでいる。したがって本症は、保因者スクリーニングおよび早期診断の臨床的意義がきわめて高い疾患である。

よくある質問

Q. 治療法はありますか?

A. はい。現在3種類の治療薬が国内で使えます(髄腔内注射・遺伝子治療・飲み薬)。どれを選ぶかは、発症の時期や年齢、全身の状態によって決まります。

Q. 治療はいつ始めるのがよいですか?

A. できるだけ早くです。症状が出る前に治療を始めた場合、運動の発達がほぼ正常に保たれたという報告があります。

Q. SMN2のコピー数とは何ですか?

A. SMN1 によく似た予備の遺伝子で、この本数が多いほど症状が軽くなる傾向があります。重症度の見通しと治療の選択に使われます。

Q. 知能に影響はありますか?

A. 知能は保たれます。この病気で弱くなるのは筋肉を動かす神経で、考える力には影響しません。

Q. 保因者はどのくらいいますか?

A. およそ50人に1人と、常染色体潜性の病気のなかでも高い頻度です。ご夫婦の両方が保因者の場合、4分の1の確率でお子さまが発症します。

参考文献

  • Lefebvre S, Bürglen L, Reboullet S, et al. Identification and characterization of a spinal muscular atrophy-determining gene. Cell. 1995;80(1):155-165.
  • Prior TW, Leach ME, Finanger E. Spinal Muscular Atrophy. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle.
  • Finkel RS, Mercuri E, Darras BT, et al. Nusinersen versus Sham Control in Infantile-Onset Spinal Muscular Atrophy. N Engl J Med. 2017;377(18):1723-1732.
  • Mendell JR, Al-Zaidy S, Shell R, et al. Single-Dose Gene-Replacement Therapy for Spinal Muscular Atrophy. N Engl J Med. 2017;377(18):1713-1722.
  • De Vivo DC, Bertini E, Swoboda KJ, et al. Nusinersen initiated in infants during the presymptomatic stage of spinal muscular atrophy: Interim efficacy and safety results from the Phase 2 NURTURE study. Neuromuscul Disord. 2019;29(11):842-856.
  • OMIM #253300 Spinal muscular atrophy, type I
医師監修 監修日:2026年9月8日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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