チロシン血症III型

Tyrosinemia Type III, HPD

概要

チロシン血症III型は、アミノ酸のひとつであるチロシンを分解できず、血液中にたまってしまう病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、HPD 遺伝子の変化が原因となります。

チロシン血症のなかでもっともまれな型です。肝臓・腎臓・眼・皮膚の症状はなく、神経の症状(発達の遅れ、けいれん、運動失調)が報告されていますが、無症状のまま経過する方もいます。

原因

HPD 遺伝子は、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼという酵素の設計図です。この酵素は、チロシンを分解する経路の2番目の段階を担当しています。

酵素がはたらかないとチロシンが血液中にたまります。ただし、I型で作られるような毒性の強い物質(スクシニルアセトン)は作られないため、肝臓や腎臓は障害されません。

症状

  • 無症状で経過する方がいます(新生児マススクリーニングで偶然見つかることがあります)
  • 報告されている症状:軽度〜中等度の知的障害、けいれん、間欠的な運動失調
  • 肝臓・腎臓の障害はありません
  • 眼と皮膚の症状もありません(II型との違いです)

検査・診断

血液中のチロシンの高値(通常はII型より低く、300〜1,300 μmol/L程度)と、尿中の4-ヒドロキシフェニル乳酸・4-ヒドロキシフェニルピルビン酸の増加で診断します。スクシニルアセトンは検出されませんHPD 遺伝子の解析によって確定します。

治療

  • チロシンとフェニルアラニンを制限した食事療法が行われます
  • ただし治療が神経学的な予後を改善するかについては、まだ十分に確立していません
  • 定期的な血中チロシン濃度の確認と、発達の評価
  • 栄養士による食事の管理

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる HPD 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、HPD 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

キャリアスクリーニングテスト(228種類)

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます

検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。

専門的な解説

チロシン血症III型は HPD(12q24.31)の両アレル変異による、チロシン代謝異常症のなかで最もまれな型である。4-hydroxyphenylpyruvate dioxygenase(HPD)はチロシン異化経路の第2段階を触媒する。

本酵素は、チロシン血症I型の治療薬ニチシノン(NTBC)の標的分子でもある。すなわちニチシノン投与によって薬理学的にIII型と同じ生化学的状態が作られる。この事実は、HPD欠損自体は肝腎毒性を持たないことを示している。

臨床像は不均一で、無症状例から知的障害・間欠性失調を呈する例まで幅がある。血中チロシン濃度と神経症状の相関は明確でなく、食事療法の神経学的アウトカムに対する有効性のエビデンスは限定的である。

一過性高チロシン血症(新生児期の未熟性による)との鑑別が必要で、こちらは生後数か月で自然に正常化する。

よくある質問

Q. 症状がありませんが、治療は必要ですか?

A. この病気では無症状のまま経過する方がいます。食事療法を行うかどうかは、血中の値や発達の様子をみて担当の先生が判断します。

Q. I型やII型とどう違うのですか?

A. I型は肝臓と腎臓、II型は眼と皮膚に症状が出ます。III型ではそれらの症状はなく、神経の症状が報告されています。

Q. 新生児マススクリーニングで見つかりました。

A. チロシンが高いことで見つかることがあります。一過性のこともあるため、まず再検査で確認します。

Q. 食事療法で発達はよくなりますか?

A. はっきりした結論はまだ出ていません。定期的に発達の様子をみながら方針を決めていきます。

Q. 次の子も同じ病気になりますか?

A. 常染色体潜性(劣性)遺伝です。ご両親がどちらもキャリア(保因者)の場合、妊娠のたびに4分の1の確率です。

参考文献

  • Ruetschi U, Cerone R, Perez-Cerda C, et al. Mutations in the 4-hydroxyphenylpyruvate dioxygenase gene (HPD) in patients with tyrosinemia type III. Hum Genet. 2000;106(6):654-662.
  • Ellaway CJ, Holme E, Standing S, et al. Outcome of tyrosinaemia type III. J Inherit Metab Dis. 2001;24(8):824-832.
  • Lindstedt S, Holme E, Lock EA, et al. Treatment of hereditary tyrosinaemia type I by inhibition of 4-hydroxyphenylpyruvate dioxygenase. Lancet. 1992;340(8823):813-817.
  • OMIM #276710 Tyrosinemia, type III
医師監修 監修日:2026年9月8日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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