ヌーナン症候群7型、あるいはBRAF遺伝子の変化によるヌーナン症候群という診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師から「ヌーナン症候群の中でも、BRAFという遺伝子に原因があるタイプです」と説明を受け、初めて聞く病名やアルファベットの羅列に、戸惑いや不安を感じていらっしゃるかもしれません。特に、「CFC症候群という別の病気と似ている部分があります」といった説明を受けた場合は、情報が複雑で混乱されているかもしれません。
ヌーナン症候群は、体の形作られ方や成長に関わる遺伝子の変化によって起こる生まれつきの体質です。
その中でも今回解説する7型、つまりBRAF遺伝子に変異があるタイプは、ヌーナン症候群全体の中では比較的稀なタイプであり、全体の数パーセント程度と言われています。
このタイプの大きな特徴は、典型的なヌーナン症候群の症状に加えて、皮膚や髪の毛に特徴が出やすいことや、心臓顔面皮膚症候群、略してCFC症候群と呼ばれる別の疾患と兄弟のような密接な関係にあることです。
そのため、症状の現れ方には個人差が大きく、非常に軽い症状の方から、丁寧なケアが必要な方まで様々です。
まず最初にお伝えしたいのは、診断名が何であれ、お子さんはお子さんであることに変わりはないということです。
お子さんの成長を支えるための医療やサポート体制は整っています。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そしてBRAF遺伝子変異にはどのような特徴があるのかを理解しましょう。
ヌーナン症候群とは
ヌーナン症候群は、特徴的なお顔立ち、低身長、生まれつきの心臓の病気、胸郭の変形などを主な特徴とする疾患です。
およそ1000人から2500人に1人くらいの割合で生まれると言われており、小児科領域では比較的よく知られた疾患の一つです。
この病気は、細胞の中にある情報の通り道であるRAS/MAPK経路というシステムに関わる遺伝子の変化によって引き起こされます。
7型(BRAF遺伝子変異)の特徴
ヌーナン症候群の原因遺伝子はこれまでにいくつも見つかっており、それによって1型、2型といった番号が振られています。
その中でBRAF遺伝子に変異があるものを7型と呼びます。
7型の特徴として、以下のような傾向が挙げられます。
顔立ちは典型的なヌーナン症候群の特徴を持っている。
心臓の病気として、肺動脈弁狭窄症や肥大型心筋症が見られる。
皮膚にほくろが多かったり、湿疹ができやすかったりする。
髪の毛が細く縮れていたり(縮毛)、量が少なかったりすることがある。
知的な発達に関しては、正常範囲の方から中等度の遅れがある方まで幅が広い。
CFC症候群との関係(スペクトラム)
ここが7型を理解する上で少し難しく、しかし重要なポイントです。
実は、BRAF遺伝子の変異は、ヌーナン症候群だけでなく、心臓顔面皮膚症候群、すなわちCFC症候群の原因にもなります。
ヌーナン症候群とCFC症候群は、症状が非常に似ており、明確に線を引くことが難しい場合があります。
一般的には、皮膚や髪の毛の症状が強く、知的な遅れやてんかんなどの神経症状が目立つ場合にCFC症候群と診断され、それらがマイルドでヌーナン症候群の顔貌の特徴が強い場合にヌーナン症候群7型と診断される傾向があります。
しかし、これらは全く別の病気というよりは、RASオパチーという大きなグループの中での連続したスペクトラム、つまり虹の色の移り変わりのような関係にあると考えられています。
そのため、医師によっては「CFC症候群に近いヌーナン症候群」といった表現をすることもあります。
RASオパチーというグループ
この病気は、医学的にはRASオパチー、別名ラスオパチーという大きなグループに含まれます。
これは、細胞の増殖や成長をコントロールするRAS/MAPK経路に異常がある病気の総称です。
ヌーナン症候群、CFC症候群、コステロ症候群などは、すべてこのRASオパチーの仲間であり、共通した特徴を持っています。
BRAF遺伝子の変化は、この経路の信号伝達に影響を与えることで、体の様々な部分の発達に関与します。
主な症状
7型の症状は、全身の様々な場所に現れます。
BRAF遺伝子変異を持つ患者さんによく見られる特徴について、頭のてっぺんから足の先まで詳しく見ていきましょう。
1. お顔立ちの特徴(顔貌)
ヌーナン症候群に共通する、愛らしく特徴的なお顔立ちが見られます。
両目の間隔が広く離れている眼間開離や、まぶたが下がっている眼瞼下垂が見られることがあります。
目は少し下がり気味で、アーモンドのような形をしていることが多いです。
耳の位置が少し低く、後ろに傾いていたり、耳のふちが厚かったりすることがあります。
鼻の根元が低く、鼻先が丸かったり上を向いていたりすることもあります。
これらのお顔立ちは、乳幼児期にはっきりしていますが、成長とともに顔つきが変わり、大人になると目立たなくなっていくのが一般的です。
2. 心臓の症状
7型の患者さんの多くに、生まれつきの心臓の病気や、成長してからわかる心臓の変化が見られます。
肺動脈弁狭窄症
心臓から肺へ血液を送る血管の出口にある弁が狭くなり、血液が通りにくくなる病気です。
ヌーナン症候群で最も多い心疾患であり、7型でもよく見られます。
軽度であれば経過観察で済みますが、狭窄が強い場合は治療が必要になります。
肥大型心筋症
心臓の筋肉、特に左心室の壁が分厚くなってしまう病気です。
7型(BRAF変異)では、肺動脈弁狭窄症に加えて、この肥大型心筋症を合併するリスクもあります。
筋肉が厚くなると心臓の動きに影響が出ることがあるため、定期的なチェックが重要です。
心房中隔欠損症
心臓の部屋を隔てる壁に穴が開いている病気を合併することもあります。
3. 皮膚と髪の毛の特徴
BRAF遺伝子は皮膚や毛髪の形成にも深く関わっているため、7型ではここに特徴が出やすい傾向があります。
髪の毛
髪の毛が細く、乾燥していて、縮れている縮毛が見られることがあります。
また、髪の量が少ない疎毛や、おでこの生え際が高い位置にあることもあります。
眉毛やまつ毛も薄いことがあります。
皮膚
皮膚が乾燥しやすく、二の腕や太ももなどがザラザラする毛孔性角化症が見られることがあります。
また、ほくろ(色素性母斑)や、カフェオレ斑と呼ばれる茶色いあざができやすい傾向があります。
新生児期に手足の甲がむくむリンパ浮腫が見られることもあります。
4. 成長と体格
低身長
ヌーナン症候群の主要な症状の一つです。
生まれた時の身長や体重は正常範囲であることが多いですが、生後数ヶ月から成長のペースが緩やかになり、平均より低くなることがあります。
7型においても低身長は見られますが、適切な時期に成長ホルモン治療を行うことで、身長を伸ばすサポートが可能です。
胸郭の変形
胸の形に特徴が出ることがあります。
胸の真ん中が凹んでいる漏斗胸や、逆に出っ張っている鳩胸が見られることがあります。
また、乳首の間隔が離れていることも特徴の一つです。
5. 知的発達と神経系
発達に関しては個人差が非常に大きいです。
7型のお子さんの中には、知的な発達が正常範囲内で、通常の学校生活を送っている方もいれば、言葉や運動の発達に遅れがあり、支援を必要とする方もいます。
一般的に、BRAF変異を持つ場合、他の典型的なヌーナン症候群(1型など)に比べると、発達の遅れが見られる頻度がやや高い傾向にあると言われています。
また、筋力が弱く、体が柔らかい筋緊張低下が見られることがあり、これが歩き始めなどの運動発達がゆっくりになる原因の一つとなります。
稀に、てんかん発作などの神経症状を伴うこともあります。
6. 哺乳と食事
乳児期に、ミルクを飲む力が弱かったり、よく吐き戻したりする哺乳障害が見られることがあります。
これは筋緊張の弱さや、口の動きの発達に関係しています。
成長とともに改善して食べられるようになることがほとんどですが、一時的にチューブによる栄養補給が必要になることもあります。
原因
なぜ、心臓や皮膚に特徴が現れるのでしょうか。その原因は、細胞の中の信号伝達に関わる遺伝子の変化にあります。
BRAF遺伝子の変異
ヌーナン症候群7型の原因は、第7番染色体にあるBRAF遺伝子の変異です。
この遺伝子は、RAS/MAPK経路という細胞の中の伝達システムにおいて、情報を伝えるリレー走者の一員のような役割を担っています。
BRAFというタンパク質を作り出し、細胞の増殖や分化、生存といった重要なプロセスを調節しています。
何が起きているのか
通常、このBRAFタンパク質は、必要な時だけ「オン」になり、細胞に「成長しなさい」という命令を出します。
しかし、遺伝子に変異があると、このスイッチの調節がうまくいかなくなります。
多くの場合、スイッチが入りやすい状態、あるいは過剰に信号を送る状態になっています。
細胞に対して成長や変化の命令が過剰に送られ続けることで、心臓の弁が分厚くなったり、皮膚の角質が増えたり、顔の形成が変わったりすると考えられています。
遺伝について
この病気は常染色体顕性遺伝という形式をとります。以前は優性遺伝と呼ばれていました。
ご両親のどちらかが7型である場合、お子さんに遺伝する確率は50パーセントです。
しかし、ヌーナン症候群の患者さんの多くは、ご両親はこの病気ではなく、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる突然変異のケースです。
これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。
妊娠中の生活習慣やストレスなどが原因で起こるものではありません。

診断と検査
診断は、特徴的な症状の観察、心臓の詳しい検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。
1. 臨床診断
医師は診察で以下の点を確認します。
特徴的なお顔立ちがあるか。
身長や体重の増え方はどうか。
心雑音がないか。
皮膚や髪の毛に特徴があるか。
2. 画像検査・生理検査
心エコー検査
心臓の構造や動きを詳しく調べます。肺動脈弁狭窄や肥大型心筋症の有無を確認するために不可欠な検査です。
心電図検査
心臓のリズムや負荷の状態を調べます。
3. 遺伝学的検査
確定診断のために行われます。
血液を採取し、DNAを解析してBRAF遺伝子に変異があるかを調べます。
ヌーナン症候群には多くの原因遺伝子があるため、次世代シーケンサーという最新の技術を使って、関連する遺伝子(PTPN11, SOS1, RAF1, BRAFなど)を一度にまとめて網羅的に調べることが一般的になっています。
遺伝子が特定されることで、これが7型(BRAF変異)であることが確定し、将来起こりうる症状の予測や、CFC症候群との鑑別にも役立ちます。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療やサポートを行うことで、健康を維持し、生活の質を高めることができます。
1. 心臓の治療と管理
肺動脈弁狭窄症
軽度であれば経過観察です。
狭窄が強く、心臓に負担がかかっている場合は、カテーテルを使って狭い弁を広げる治療や、外科手術が行われます。
肥大型心筋症
症状がある場合や進行が見られる場合は、心臓の負担を減らすお薬(β遮断薬など)を使用します。
定期的な心エコー検査で経過を見守ることが重要です。
2. 成長ホルモン療法
低身長があり、一定の基準を満たす場合は、成長ホルモンを注射で補充する治療が行われます。
日本では、ヌーナン症候群に対する成長ホルモン治療が保険適用となっています。
これにより、身長の伸びを促し、最終身長を高くする効果が期待できます。
ただし、肥大型心筋症がある場合は、心臓への影響を慎重に見極めながら治療を行う必要があります。主治医とよく相談して決定します。
3. 発達支援と療育
発達の遅れがある場合は、早期から療育を受けることが推奨されます。
理学療法:体のバランス感覚や筋力を養い、歩行などの運動発達を促します。
作業療法:手先の器用さや、食事・着替えなどの日常動作の練習をします。
言語聴覚療法:言葉の遅れや発音の練習、また哺乳や食事の練習をします。
就学時には学校と連携し、必要であれば特別支援学級や通級指導教室の利用など、お子さんの特性に合わせた学習環境を整えることが大切です。
4. 皮膚と髪のケア
乾燥肌や湿疹、角化症に対しては、保湿剤を使った毎日のスキンケアが大切です。
皮膚科を受診し、症状に合った塗り薬を処方してもらうことで、皮膚のトラブルをコントロールできます。
縮毛や薄毛に関しては、髪型を工夫したり、頭皮に優しいシャンプーを使ったりしてケアします。
5. 栄養管理
乳児期に哺乳障害がある場合は、時間をかけて飲ませたり、高カロリーのミルクを使ったり、場合によっては鼻からチューブを通して栄養を補ったりすることもあります。
体重の増えを見ながら、医師や栄養士と相談して進めていきます。
ライフステージごとの見通し
乳幼児期
心臓の検査や、哺乳・体重増加の管理が中心になります。
発達の遅れに気づいた場合は、療育をスタートさせます。
皮膚のトラブルが出始める時期なので、スキンケアを習慣にします。
学童期
学校生活が始まります。
心臓の状態によっては、体育の授業で配慮が必要な場合があります。
学習面でのサポートが必要かを見極め、学校と相談します。
低身長に対する成長ホルモン療法を行うことが多い時期です。
思春期・成人期
最終的な身長が決まる時期です。
二次性徴(体の大人への変化)は少し遅れることがありますが、通常通り訪れます。
大人になっても定期的な心臓の検診は続けます。
職業選択や結婚など、社会生活を送る上での相談も重要になります。
まとめ
ヌーナン症候群7型(BRAF遺伝子変異)についての解説をまとめます。
- 病気の本質: BRAF遺伝子の変異により、RAS/MAPK経路の信号伝達に変化が生じているRASオパチーの一つです。
- 主な特徴: 典型的なヌーナン症候群の特徴に加え、皮膚や髪の毛の症状、心疾患が見られることが多いです。
- 関連疾患: CFC症候群と症状が重なる部分があり、スペクトラム(連続体)として捉えられています。
- 管理の要点: 定期的な心臓のチェック、成長のサポート、皮膚のケア、そして発達に合わせた療育が中心となります。
