概要
アントレー・ビクスラー症候群(性器異常・ステロイド合成障害を伴う)は、頭の骨のつなぎ目が早く閉じてしまう「頭蓋縫合早期癒合症」や肘の骨の癒合などの骨格の異常と、副腎や性腺でつくられるホルモン(ステロイド)の合成障害をあわせもつ病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、POR遺伝子の変化が原因となります。
POR 遺伝子の変化による病気は「P450オキシドレダクターゼ欠損症」とも呼ばれ、先天性副腎過形成症のひとつに数えられます。女の子では外性器が男性化し、男の子では外性器の発育が不十分になることがあります。さらに、妊娠中にお母さまの声が低くなる、にきびやひげが増えるといった男性化がみられることがあるのも、この病気ならではの特徴です。
同じ「アントレー・ビクスラー症候群」という名前でも、FGFR2 遺伝子の変化による型は、性器の異常やホルモンの異常を伴わず、遺伝の仕方も異なります(多くは新生突然変異による顕性遺伝)。また POR 遺伝子の変化でも、骨の異常がほとんどなく、ホルモンの異常だけがみられる軽い型があります。このページでは、骨とホルモンの両方に異常がみられる型について説明します。
原因
POR(P450オキシドレダクターゼ)は、「シトクロムP450」と呼ばれる酵素の仲間に電子を受け渡し、そのはたらきを支える補助役の酵素です。
副腎や性腺では、コレステロールを材料にしてコルチゾール(体がストレスに立ち向かうためのホルモン)や性ホルモンがつくられます。その途中ではたらく21-水酸化酵素、17α-水酸化酵素、アロマターゼなどは、いずれも POR の助けを必要とします。POR がうまくはたらかないと、これらの酵素が同時に弱まり、コルチゾールや性ホルモンが十分につくられなくなります。
骨の異常については、POR が体内でコレステロールをつくる酵素も支えているため、その不足が胎児期の骨の形づくりに影響すると考えられています。妊娠中にある種の抗真菌薬を大量に使った場合に、よく似た骨の異常が起こることが知られており、この考え方を裏付けています。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 頭蓋縫合早期癒合症:頭の形の変形、額の突出、顔の中央部の平坦さ、目の突出がみられます
- 後鼻孔の狭窄・閉鎖:鼻の奥が狭くふさがっていることがあり、生まれた直後の呼吸困難の大きな原因となります
- 肘の骨の癒合(上腕骨と橈骨がくっつく)、関節の動きの制限、太ももの骨の弯曲、細長い指
- 性器の異常:女の子では陰核の肥大などの男性化、男の子では小さな陰茎や尿道下裂など
- 副腎のはたらきの低下:コルチゾールが不足し、感染症などで体調を崩したときに急に具合が悪くなる(副腎クリーゼ)おそれがあります
- 思春期の遅れ:性ホルモンの不足によります。女の子では卵巣に嚢腫ができることがあります
- 妊娠中のお母さまの男性化:出産後には多くが改善します
- 症状の重さには大きな幅があり、骨の異常が目立つ方から、ホルモンの異常が中心の方までさまざまです
検査・診断
妊娠中の超音波検査で、頭の形の変化、骨の弯曲、関節の異常から疑われることがあります。また、母体血清マーカー検査でエストリオールという値が非常に低いことや、お母さまの男性化がきっかけになることもあります。出生後は、外性器の異常と骨格の特徴から疑われ、尿中ステロイドプロファイル(尿に出るホルモンの代謝物を詳しく分析する検査)で特徴的なパターンがみられます。新生児マススクリーニングで、17-OHP というホルモンの値が高いことから見つかる場合もあります。
確定診断は遺伝学的検査で行い、POR 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。FGFR2 遺伝子による型とは遺伝の仕方も治療の方針も異なるため、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。ただし、呼吸の確保とホルモンの補充を適切に行うことで、生活の質を保つことが期待できます。小児科、内分泌科、形成外科・脳神経外科、耳鼻咽喉科、整形外科、泌尿器科などが連携して支えます。
- 呼吸の確保:後鼻孔の閉鎖に対する処置を行い、必要に応じて気管切開を検討します
- 副腎ホルモンの補充:コルチゾールを薬(ヒドロコルチゾン)で補い、発熱や手術などのときには量を増やす対応を事前に決めておきます
- 頭蓋縫合早期癒合症の手術:頭の骨の形を整え、脳の成長の場所を確保します
- 整形外科的な治療:関節の動きの制限や骨の弯曲に対するリハビリテーションや手術
- 性器の評価と治療:専門チームとご家族で十分に話し合いながら、時期と方法を慎重に検討します
- 思春期以降の性ホルモン補充
- 遺伝カウンセリングとご家族への心理的支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる POR 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、POR 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
POR(cytochrome P450 oxidoreductase)は、ミクロソームに存在するすべてのⅡ型シトクロムP450酵素へNADPHから電子を供給する唯一のフラビンたんぱくである。CYP17A1、CYP21A2、CYP19A1 のほか、コレステロール合成系の CYP51A1 にも電子を供給する。欠損すると17α-水酸化酵素/17,20-リアーゼ欠損と21-水酸化酵素欠損が部分的に合わさった病態となり、プレグネノロン・プロゲステロン代謝物の蓄積、17-OHP の軽度上昇、出生後の副腎アンドロゲン低値を示す。
出生後のアンドロゲンが低いにもかかわらず46,XX 児が胎内で男性化するという一見矛盾した所見は、テストステロンを経ずにジヒドロテストステロンを合成する「バックドア経路」の胎児期の活性化で説明される。また胎盤のアロマターゼ活性の低下により胎児由来のアンドロゲン前駆物質がエストロゲンへ変換されにくくなり、母体の男性化と母体血清非抱合型エストリオールの低値をきたす。骨格異常は CYP51A1 を介したステロール合成障害の関与が想定されており、高用量フルコナゾール胎内曝露による表現型模写の存在がこれを支持する。
変化の種類と残存酵素活性によって表現型の幅は広く、骨格異常を伴わずステロイド合成障害のみを示す例も多い。頻度の高い変化には民族差があり、日本人では p.Arg457His が、欧州系では p.Ala287Pro が多いと報告されている。鑑別としては、FGFR2 関連のアントレー・ビクスラー症候群(性器異常・ステロイド合成障害を伴わない、主に顕性)、21-水酸化酵素欠損症(CYP21A2)、アロマターゼ欠損症(CYP19A1)、他の症候群性頭蓋縫合早期癒合症、フルコナゾール胎芽病が挙がる。次子再発率は潜性の POR 欠損症で25%、新生突然変異による FGFR2 関連型ではごくわずかと大きく異なるため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。よく似た症状を示す FGFR2 遺伝子による型は、多くが偶発的に起こる(新生突然変異による)もので、その場合の再発率はごくわずかです。再発率が大きく異なるため、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 超音波検査での頭の形や骨の異常、母体血清マーカー検査でのエストリオールの低値、お母さまの男性化などから疑われることがあります。ただし、症状が軽い場合は妊娠中に気づかれないこともあります。前のお子さまで診断がついている場合は、妊娠早期からの検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 妊娠中に私の声が低くなったのは、赤ちゃんの病気と関係がありますか。
A. この病気では、赤ちゃんのホルモン合成の異常の影響で、お母さまに男性化がみられることがあります。ただし、妊娠中の声の変化やにきびにはほかの原因も多く、それだけでこの病気と判断することはできません。気になる変化があれば、妊婦健診の担当医にご相談ください。この病気が原因の場合、多くは出産後に改善します。
Q. 生まれたあと、どのような生活になりますか。
A. 生まれてすぐの時期は、鼻の奥が狭いことによる呼吸の問題と、副腎のはたらきの低下に特に注意が必要です。これらに適切に対応できれば、成長していくお子さまも多くいらっしゃいます。頭の骨や関節の手術、ホルモンの補充など、長く通院が必要になりますが、症状の重さには個人差が大きいため、主治医とよく相談しながら見通しを立てていきます。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Flück CE, Tajima T, Pandey AV, et al. Mutant P450 oxidoreductase causes disordered steroidogenesis with and without Antley-Bixler syndrome. Nat Genet. 2004;36(3):228-230.
- Arlt W, Walker EA, Draper N, et al. Congenital adrenal hyperplasia caused by mutant P450 oxidoreductase and human androgen synthesis: analytical study. Lancet. 2004;363(9427):2128-2135.
- Huang N, Pandey AV, Agrawal V, et al. Diversity and function of mutations in P450 oxidoreductase in patients with Antley-Bixler syndrome and disordered steroidogenesis. Am J Hum Genet. 2005;76(5):729-749.
- Fukami M, Nishimura G, Homma K, et al. Cytochrome P450 oxidoreductase deficiency: identification and characterization of biallelic mutations and genotype-phenotype correlations in 35 Japanese patients. J Clin Endocrinol Metab. 2009;94(5):1723-1731.
- OMIM #201750 Antley-Bixler syndrome with genital anomalies and disordered steroidogenesis. Online Mendelian Inheritance in Man.
