X連鎖性症候性知的障害 クレース・イェンセン型

X-Linked Syndromic Mental Retardation, Claes-Jensen type, KDM5C

概要

X連鎖性症候性知的障害 クレース・イェンセン型は、知的障害に、低身長・小頭症・足のつっぱり(痙性)などの体の症状をともなう遺伝性の病気です。X連鎖潜性(劣性)遺伝の形式をとり、X染色体の上にある KDM5C(Xp11.22)遺伝子の変化が原因となります。

X染色体を1本しかもたない男の子に症状がはっきり現れます。知的障害の程度は軽度から重度まで幅があり、ことばの遅れが目立つことが多いのが特徴です。妊娠中の超音波検査で見つかることはほとんどなく、乳幼児期の発達の遅れから気づかれることが多い病気です。

KDM5C 遺伝子の変化による病気は、知的障害だけが目立つ軽い形から、体の症状を多くともなう形まで幅広く現れます。クレース・イェンセン型は、知的障害に足の痙性・低身長・小頭症などをともなう家系の報告をもとに名付けられた型で、この遺伝子は「知的障害に体の症状をともなう」ことが中心になります。また、この遺伝子はX連鎖の病気のなかでも、キャリアの女性や、新しく変化が起きた女の子にも症状が出ることがある点が知られています。

原因

KDM5C(JARID1C、SMCX)は、遺伝子のスイッチの入り方を調整するたんぱく質(酵素)の設計図です。

細胞のなかの遺伝情報(DNA)は「ヒストン」というたんぱく質に巻きついており、ヒストンについた小さな「目印」によって、どの遺伝子をはたらかせるかが決まります。KDM5C の酵素は、この目印の一部を取りはずす役割を担っています。とくに脳の神経細胞が育ち、つながりをつくるときに、この調整が大切です。KDM5C がうまくはたらかないと、脳で必要な遺伝子のオン・オフの調整が乱れ、知的障害などの症状が起こると考えられています。

多くの場合、お母さまが症状のない(またはごく軽い)キャリア(保因者)で、変化した遺伝子をもつX染色体を男の子が受け継いだときに発症します(X連鎖潜性遺伝)。お父さまからは男の子にX染色体が受け継がれないため、お父さまから息子さんに伝わることはありません。ご両親のどちらにも変化がなく、お子さまで新しく起きる(新生突然変異の)場合もあります。

症状

  • 知的障害・発達の遅れ:軽度から重度まで幅があり、とくにことばの遅れが目立ちます
  • 低身長:同年代のお子さまより背が低めになることが多くみられます
  • 小頭症:頭囲が小さめになることがあります
  • 足のつっぱり(痙性)・腱反射の亢進:歩き方がぎこちなくなることがあり、この型の特徴的な症状のひとつです
  • てんかん発作:一部の方にみられます
  • 行動面の特徴:かんしゃくや攻撃的な行動、落ち着きのなさ、自閉的な傾向がみられることがあります
  • 顔立ちの特徴:上あごの発達が小さめなど、軽い特徴がみられることがあります
  • キャリアの女性:多くは症状がありませんが、学習のしづらさなど軽い症状がみられることがあります

検査・診断

妊娠中の超音波検査では、ふつう特徴的な所見はみられません。多くは、乳幼児期のことばや運動の発達の遅れ、低身長、小頭症、足のつっぱりなどから疑われます。お母さま側の親族の男性に、同じような発達の遅れのある方がいることが手がかりになる場合もあります。

症状だけでは他の知的障害の病気と見分けることが難しいため、確定診断は遺伝学的検査で行い、KDM5C 遺伝子の変化が見つかります。お母さまがキャリアかどうかを確認することで、次のお子さまの見通しを正しくお伝えできるため、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。

治療

現時点で、この病気を根本から治す治療はありません。症状に合わせた治療と、お子さまの成長と生活を支える療育・支援が中心になります。早くから支援を始めることで、お子さまの力を伸ばすことにつながります。

  • 早期療育・特別支援教育:発達段階に合わせて、生活や学習の力を育てます
  • 言語療法:ことばやコミュニケーションの力を支えます
  • リハビリテーション:足のつっぱりに対する理学療法や、必要に応じた装具の利用
  • てんかんの治療:発作がある場合は抗てんかん薬で調整します
  • 行動面の支援:専門家と相談しながら、環境の工夫や必要に応じたお薬で対応します
  • ご家族への支援:福祉制度の利用や、遺伝カウンセリングによる継続的な支え

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる KDM5C 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、KDM5C 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

X連鎖潜性(劣性)遺伝の疾患は、お母さまが症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、男の子の2分の1の確率で発症します(女の子の2分の1はお母さまと同じキャリアになります)。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

KDM5C(JARID1C、SMCX)は、JmjC ドメインをもつヒストンH3の4番目のリシンのジ・トリメチル化を外す脱メチル化酵素をコードする。REST 複合体と協調して神経系遺伝子の転写を抑制する役割が示されており、病的変異の多くは酵素活性やクロマチンへの結合を低下させる。

本遺伝子はX染色体不活化を受けない(エスケープする)遺伝子であり、Y染色体上に相同遺伝子 KDM5D をもつ。このため、ヘテロ接合の女性でも遺伝子量の影響が出やすく、キャリア女性の軽度の学習困難や、新生突然変異による女性の知的障害例が報告されている点が、典型的なX連鎖潜性疾患と異なる。男性患者の表現型は、知的障害を主とするものから、低身長・小頭症・下肢痙性・腱反射亢進・てんかん・攻撃的行動をともなう症候性(クレース・イェンセン型)まで連続的である。なお、腎細胞がんなどでみられる KDM5C の体細胞変異は、生殖細胞系列の本症とは別の現象である。

鑑別としては、脆弱X症候群(FMR1)、ATRX 症候群(ATRX)、レンペニング症候群(PQBP1)、ARX 関連疾患、同じヒストン脱メチル化酵素の異常によるシデリウス型X連鎖知的障害(PHF8)、MECP2 重複症候群が挙がる。母親が保因者であれば男児の再発率は50%、新生突然変異であれば再発率は低い(ただし性腺モザイクの可能性は残る)ため、母親の保因者診断が遺伝カウンセリングに直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気はX連鎖潜性遺伝のため、お母さまがキャリアの場合、男の子はお子さまごとに2分の1の確率で発症し、女の子は2分の1の確率でキャリアになります。お母さまに変化がなく、お子さまで新しく起きた場合の再発率は低くなります。再発率が大きく異なるため、お母さまがキャリアかどうかを確認することが重要です。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. 妊娠中の超音波検査で見つかることはほとんどありません。ご家族で原因となる遺伝子の変化がすでにわかっている場合は、出生前検査や着床前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 女の子にも症状が出ることはありますか。

A. キャリアの女性の多くは症状がありませんが、この遺伝子では、学習のしづらさなど軽い症状がみられることがあります。また、まれに女の子で新しく変化が起き、知的障害がみられることも報告されています。症状の出方には個人差があります。

Q. 大人になってからはどうなりますか。

A. 報告されている多くの方は成人期まで生活されていますが、生活や仕事の場面で継続的な支援が必要になることが多い病気です。症状の程度には幅があるため、お子さまに合った療育・教育・福祉の支援を早めに整えていくことが大切です。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • OMIM #300534 Intellectual developmental disorder, X-linked syndromic, Claes-Jensen type. Online Mendelian Inheritance in Man.
  • Claes S, Devriendt K, Van Goethem G, et al. Novel syndromic form of X-linked complicated spastic paraplegia. Am J Med Genet. 2000;94(1):1-4.
  • Jensen LR, Amende M, Gurok U, et al. Mutations in the JARID1C gene, which is involved in transcriptional regulation and chromatin remodeling, cause X-linked mental retardation. Am J Hum Genet. 2005;76(2):227-236.
  • Iwase S, Lan F, Bayliss P, et al. The X-linked mental retardation gene SMCX/JARID1C defines a family of histone H3 lysine 4 demethylases. Cell. 2007;128(6):1077-1088.
  • Tahiliani M, Mei P, Fang R, et al. The histone H3K4 demethylase SMCX links REST target genes to X-linked mental retardation. Nature. 2007;447(7144):601-605.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

AIチャットで相談する AIチャット