概要
ドネー・バロー症候群は、目・耳・顔つき・腎臓に特徴的な症状があり、横隔膜ヘルニアや臍帯ヘルニア、脳梁(左右の脳をつなぐ部分)の欠損をともなうことがある、まれな先天性の病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、LRP2(2q31.1)遺伝子の変化が原因となります。
この病気のお子さまには、両目の間が広い顔つき、強い近視、生まれつきの重い難聴、尿にたんぱく質が出る(低分子たんぱく尿)という特徴がよくみられます。横隔膜ヘルニアや臍帯ヘルニアがあると、生まれた直後の治療が必要になり、とくに横隔膜ヘルニアは新生児期の見通しを大きく左右します。これらは妊娠中の超音波検査で気づかれることがあります。
以前は、横隔膜ヘルニアや臍帯ヘルニアのない場合を「顔・眼・耳・腎症候群(FOAR症候群)」と呼んで別の病気として扱っていました。現在は、どちらも同じ LRP2 遺伝子の変化で起こる一続きの病気(ドネー・バロー/FOAR症候群)と考えられています。同じご家族のなかでも、ヘルニアの有無など症状の出方には差があります。
原因
LRP2 遺伝子は、「メガリン」という大きな受け取り役のたんぱく質(受容体)の設計図です。メガリンは細胞の表面にあって、さまざまな物質をつかまえて細胞のなかへ取り込むはたらきをしています。
メガリンは、腎臓では尿にもれた小さなたんぱく質を回収して体に戻し、内耳や目の組織、そして胎児期の脳や顔のもとになる組織でもはたらいています。とくに胎児期には、脳や顔の正中(まんなか)の形づくりを導く信号の受け渡しにかかわると考えられています。メガリンがはたらかないと、尿にたんぱくがもれる、目や耳が正しく育たない、顔や脳の形づくりに影響が出るといった症状につながります。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 特徴的な顔つき:両目の間が広い(眼間開離)、目が大きく見える・出ている、鼻が短く低い、大泉門(頭のやわらかい部分)が大きい
- 強い近視:乳児期から目立ち、網膜剥離を起こしやすいため、定期的な眼科の診察が大切です。虹彩の欠損(コロボーマ)や白内障をともなうこともあります
- 生まれつきの感音難聴:多くは重度で、両耳にみられます
- 低分子たんぱく尿:尿に小さなたんぱく質が出る状態で、この病気のほぼすべての方にみられる重要な手がかりです
- 先天性横隔膜ヘルニア:お腹の臓器が胸に入り込み、肺の発育が妨げられます。新生児期の呼吸の状態を左右します
- 臍帯ヘルニア:おへその部分から腸などが外に出た状態です
- 脳梁の欠損・低形成:MRI などで見つかります
- 発達の遅れ:程度には個人差が大きく、軽いものから中等度のものまでさまざまです
検査・診断
妊娠中の超音波検査で、横隔膜ヘルニア、臍帯ヘルニア、脳梁の欠損、両目の間が広いことなどから疑われることがあります。出生後は、特徴的な顔つき、強い近視、重い難聴に、尿検査での低分子たんぱく尿が組み合わさることが診断の大きな手がかりになります。新生児の聴力検査、眼科の診察、頭部 MRI、腎臓の検査をあわせて行います。
確定診断は遺伝学的検査で行い、ドネー・バロー症候群では LRP2 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。横隔膜ヘルニアや難聴は多くの別の病気でも起こるため、原因遺伝子を確定することは、お子さまの今後の見通しと次のお子さまへの影響を正しくお伝えするうえで大きな意味があります。
治療
現時点で、遺伝子の変化そのものを治す治療はありません。治療は、それぞれの症状に合わせた治療(対症療法)と、成長・発達を支える支援が中心になります。複数の診療科が協力して見守ることが大切です。
- 横隔膜ヘルニア・臍帯ヘルニアの治療:出生前に分かっている場合は、新生児集中治療と小児外科の手術ができる施設での出産を計画します
- きこえの支援:早い時期からの補聴器、必要に応じて人工内耳を検討します。言葉の発達のために、早く見つけて早く支援を始めることが大切です
- 目の管理:眼鏡などでの近視の矯正と、網膜剥離を早く見つけるための定期的な眼科診察
- 腎臓の経過観察:たんぱく尿や腎臓のはたらきを定期的に確認します
- 発達の支援:療育、言語訓練、教育面での支援
- ご家族への遺伝カウンセリングと心理的支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる LRP2 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、LRP2 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
LRP2 は LDL 受容体ファミリーに属する約600 kDa の巨大な単回膜貫通型エンドサイトーシス受容体メガリンをコードする。メガリンは腎近位尿細管の刷子縁に豊富に発現し、レチノール結合タンパク、ビタミンD結合タンパクなど糸球体を通過した低分子タンパクの再吸収を担う。このため本症では尿中低分子タンパク(レチノール結合タンパク、ビタミンD結合タンパクなど)の増加がほぼ全例にみられ、診断上の有用なマーカーとなる。
胎生期には神経上皮に発現し、ソニックヘッジホッグ(SHH)シグナルの共受容体として前脳腹側正中部の形成にかかわる。Lrp2 欠損マウスでは全前脳胞症様の前脳形成異常と顔面正中の異常が生じ、本症の眼間開離・脳梁欠損との関連が示唆される。眼では毛様体上皮などでの発現が眼球の大きさの調節に関与し、高度近視・眼軸延長の背景と考えられている。Donnai と Barrow が1993年に報告した症候群と、横隔膜ヘルニア・臍帯ヘルニアを欠く FOAR 症候群は、2007年に Kantarci らにより同一遺伝子の両アレル性機能喪失変異によることが示され、現在は単一の疾患スペクトラム(DB/FOAR)として扱われる。同胞間でもヘルニアの有無は一致しないことがあり、表現型の幅は広い。
鑑別としては、先天性横隔膜ヘルニアを伴う Fryns 症候群、Pallister-Killian 症候群(12p モザイクテトラソミー)、眼間開離を示す頭蓋前頭鼻症候群(EFNB1、X連鎖)、高度近視と難聴を示す Stickler 症候群(多くは顕性)、低分子タンパク尿を示す Dent 病(CLCN5、X連鎖)が挙がる。これらは遺伝形式が異なり、次子再発率が大きく違うため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。横隔膜ヘルニアや難聴には、遺伝しない原因や別の遺伝形式のものも多くあります。再発率が大きく異なるため、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 横隔膜ヘルニアや臍帯ヘルニア、脳梁の欠損があれば、妊娠中の超音波検査で気づかれることがあります。ただし、ヘルニアのない場合は妊娠中には分かりにくく、近視や難聴は出生後に分かります。前のお子さまで診断がついている場合は、妊娠早期からの検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 「FOAR症候群」と言われました。同じ病気ですか。
A. はい。FOAR症候群は、横隔膜ヘルニアや臍帯ヘルニアをともなわない場合に使われてきた名前で、現在はドネー・バロー症候群と同じ LRP2 遺伝子の病気と考えられています。目・耳・腎臓の症状への対応や、次のお子さまへの影響の考え方は同じです。
Q. 成長するとどうなりますか。
A. 生まれたあとの経過は、横隔膜ヘルニアの有無と重さによって大きく変わります。新生児期を乗り越えたあとは、難聴と近視への早めの対応、網膜剥離の見張り、発達の支援を続けることで、それぞれのお子さまに合った成長を支えていきます。発達の程度には個人差があり、一律には言えません。医療チームとよく話し合ってください。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Kantarci S, Donnai D, Noonan KM, Pober BR. Donnai-Barrow Syndrome. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #222448 Donnai-Barrow syndrome. Online Mendelian Inheritance in Man.
- Kantarci S, Al-Gazali L, Hill RS, et al. Mutations in LRP2, which encodes the multiligand receptor megalin, cause Donnai-Barrow and facio-oculo-acoustico-renal syndromes. Nat Genet. 2007;39(8):957-959.
- Donnai D, Barrow M. Diaphragmatic hernia, exomphalos, absent corpus callosum, hypertelorism, myopia, and sensorineural deafness: a newly recognized autosomal recessive disorder? Am J Med Genet. 1993;47(5):679-682.
- Pober BR, Longoni M, Noonan KM. A review of Donnai-Barrow and facio-oculo-acoustico-renal (DB/FOAR) syndrome: clinical features and differential diagnosis. Birth Defects Res A Clin Mol Teratol. 2009;85(1):76-81.
