この記事のまとめ
軟骨無発生症II型と低軟骨形成症は、COL2A1遺伝子の変化によってII型コラーゲンがうまく作られず、胎児の骨や軟骨の発育に重い影響が及ぶ、まれな単一遺伝子疾患です。多くは両親から受け継いだものではなく、偶然生じた変化(de novo変異)が原因とされています。妊娠中期の超音波検査で四肢の強い短縮などから疑われることがありますが、確定にはCOL2A1遺伝子を調べる専門的な検査が必要です。NIPTは主に13・18・21トリソミーなど染色体の数の異常を調べる検査であり、この病気は一般に対象に含まれません。次の妊娠での再発率は多くの場合1%未満とされ、遺伝カウンセリングで詳しい説明を受けられます。つらい情報でもありますが、正しい知識が気持ちを整理する助けになると考えています。
この記事でわかること
- 軟骨無発生症II型・低軟骨形成症とCOL2A1遺伝子の関係
- 妊娠中の超音波検査でわかることと、確定診断までの流れ
- NIPTの対象範囲と、この病気が一般に対象外である理由
- 遺伝カウンセリングの受け方と、次の妊娠に向けた考え方
軟骨無発生症II型・低軟骨形成症とは|COL2A1遺伝子とII型コラーゲンの異常
軟骨無発生症II型(アコンドロジェネシス2型)と低軟骨形成症は、第12染色体にあるCOL2A1遺伝子の変化が引き起こす、II型コラーゲンの合成異常症です。どちらも骨系統疾患のなかで特に重い経過をたどることが多く、まとめて「II型コラーゲン異常症」と呼ばれる疾患群に含まれます。まずはその土台となる遺伝子とタンパク質の役割から見ていきます。
II型コラーゲンは、硝子軟骨・椎間板の髄核・眼球の硝子体を支える大切なタンパク質です。通常は3本の鎖がらせん状に絡み合い、丈夫な網目構造を作ります。胎児の骨は、まず軟骨のかたちで作られ、その後に骨へと置き換わっていく仕組みです。土台となる軟骨がうまく作られなければ、その先の骨格形成にも影響が及びます。
変化の起こり方と遺伝形式
これらの病気は常染色体顕性(顕性)の遺伝形式をとりますが、実際にはそのほとんどが、卵子や精子が作られる過程などで偶然生じるde novo変異によるものです。つまり、両親のどちらかが同じ変化を持っていて子どもに伝わったわけではないケースが大半を占めます。
- ミスセンス変異: らせん構造の中心部でグリシンが別のアミノ酸に置き換わることが多く、構造全体の安定性を大きく損ないます。
- スプライシング異常: 正常なタンパク質の合成が妨げられ、機能しないコラーゲンが細胞内にたまったり、外へ分泌されにくくなったりします。
軟骨無発生症II型は、このなかでも特に重いタイプの変化によって起こり、低軟骨形成症はそれに次ぐ重症度の表現型と考えられています。両者は明確に切り分けられるものではなく、連続したスペクトラムの一部として理解されています。
臨床的な特徴と画像診断でわかること
軟骨無発生症II型と低軟骨形成症は、四肢の極端な短縮や胸郭の狭さなど共通する特徴を持ちながら、骨の骨化の程度によって重症度が分かれます。ここでは、それぞれの臨床像と、レントゲンなどの画像でわかる所見を整理します。
軟骨無発生症II型(ランガー・サルディノ型)の特徴
- 極度の短肢: 四肢が非常に短く、軟部組織のむくみを伴うことが多く見られます。
- 体幹の短縮: 胸郭が小さく鐘のような形を示し、腹部が突き出て見えます。
- 顔貌の特徴: 鼻の付け根がへこむ、下あごが小さい、口蓋裂を伴うなどの所見が高い頻度で見られます。
- 致死性: 肺の形成不全が主な原因となり、多くは死産、または出生後まもなく呼吸不全に至ります。
低軟骨形成症は、軟骨無発生症II型よりやや軽い経過をたどりますが、依然として致死的な経過が一般的です。両者の違いを次の表にまとめました。表だけでも大まかな違いをつかめる内容にしています。
| 比較項目 | 軟骨無発生症II型 | 低軟骨形成症 |
|---|---|---|
| 椎体の骨化 | ほぼ認められない | 頸椎・腰椎の一部に骨化が残ることがある |
| 長管骨の骨端 | 極端に短くダンベル状 | 丸みや不整形を示す |
| 重症度 | 最も重い表現型 | やや軽いが致死的な経過が一般的 |
画像診断では、次の3点が確定診断のよりどころになります。側面のレントゲン像で椎体が写らないように見えること、骨盤の恥骨に骨化が見られないこと、そして長管骨が極端に短くダンベルのような形を示すことです。これらがそろうと、本症を強く疑う根拠になります。
生検や剖検が行われた場合には、軟骨細胞のなかに特徴的な封入体が観察されることも知られています。粗面小胞体に異常なコラーゲンがたまって著しく拡張し、周囲の細胞外マトリックスがまばらになる所見です。こうした病理組織学的な変化も、分子レベルでの異常を裏づける手がかりになります。
NIPTの対象範囲と出生前診断の流れ|超音波・羊水検査・絨毛検査
NIPTは主に13・18・21トリソミーなど染色体の数的異常を調べる非確定的検査であり、COL2A1遺伝子の変化が原因となるこの病気は一般に対象に含まれません。単一の遺伝子の変化によって起こる病気であるため、染色体の本数を調べるNIPTの仕組みとは、そもそも調べている対象が異なります。
NIPTで調べられる病気の解説記事でも触れているとおり、標準的なNIPTはダウン症候群(21トリソミー)など染色体数の変化が対象です。サートル・コッツェン症候群1型のような単一遺伝子疾患も同様に、標準的なNIPTでは一般に対象外とされています。気になる場合はNIPT(新型出生前診断)の総合案内で検査の範囲を確認してください。
妊娠中期(18〜22週ごろ)の超音波検査で、大腿骨の長さが著しく短い(目安として-3.0SD以下)、胸郭が狭い、羊水が多いといった所見が見つかると、精密検査に進むきっかけになります。胎児CTで骨格を立体的に確認し、羊水穿刺や絨毛検査でCOL2A1遺伝子の変化を特定することで、はじめて確定診断に至ります。
検査を受けるかどうかで迷う気持ちは、多くの妊婦さんに共通するものだと感じています。Xでも@chiisunmonさんが、NIPTを受けるべきか確かに迷ったこと、結果が陰性で安心材料になった一方、陽性だったらかなり悩んでいたと思うこと、そして陽性が出たときの対応はあえて事前に決めず、その時にどんな気持ちになるか分かってから考えようと夫婦で話し合ったことをつづっていました。検査の前に結論を急がず、受けてから考える姿勢も一つの選び方です。
遺伝カウンセリングと再発リスクの考え方
軟骨無発生症II型・低軟骨形成症の多くは孤発例で、次の妊娠での再発率は一般に1%未満とされていますが、状況によって遺伝カウンセリングで詳しく確認できます。ほとんどが偶然生じたde novo変異によるものであるため、次の子どもにそのまま伝わる可能性は高くありません。
ただし、まれに親の生殖細胞に同じ変化が一部だけ生じている場合(生殖細胞系列モザイク)があり、その際は再発リスクが数パーセント程度まで上がることがあります。次の妊娠を考えるときは、早期の遺伝学的検査という選択肢があることも、あわせて伝えられます。
私はこれまで妊婦さんの遺伝相談に立ち会うなかで、年齢や家族歴をきっかけに検査を考え始める方が多いと感じています。年齢を機に検査を検討し、遺伝カウンセリングを受けたという声も少なくありません。Xでも@Tamago_1003さんが、年齢のこともあってNIPTを受けるつもりで遺伝カウンセリングを受けたこと、二卵性の双子は遺伝情報がそれぞれ別なので双方が同時に陽性となる可能性は極めて低いと説明を受けたことをつづっていました。カウンセリングでは、こうした一人ひとりの状況に応じた説明を受けられます。
遺伝性の病気全般についての公的な情報は、難病情報センターや小児慢性特定疾病情報センターでも確認できます。専門的な内容ほど、複数の情報源を照らし合わせて理解を深めてください。
周産期管理と家族への配慮|致死性という現実にどう向き合うか
軟骨無発生症II型は肺の形成不全などにより、多くが死産または出生後まもなくの経過をたどる重い病気ですが、ご家族への説明と支援のあり方は診療の欠かせない一部です。低軟骨形成症も同様に、依然として厳しい経過が一般的とされています。
現時点で根本的な治療法は確立されていません。だからこそ、予後を伝える場面では、事実を丁寧に、そして共感的な言葉で共有することが大切です。断定的な言い切りや過度に不安をあおる説明ではなく、一つずつ状況を整理しながら伝える姿勢が求められます。

私は相談を受けるなかで、「これからどう向き合えばよいか分からない」という言葉を数多く聞いてきました。正しい情報を一つずつ確認していくことが、気持ちを整理する助けになると感じています。似た経過をたどる骨系統疾患としてベントボーン骨異形成症の解説記事もあわせて参考にしてください。
産科診療全般の考え方は、日本産科婦人科学会の情報も参考になります。気持ちの整理には時間がかかって当然です。ひとりで抱え込まず、担当医や遺伝カウンセラーに率直な疑問をぶつけてください。
よくある質問
Q. 軟骨無発生症II型・低軟骨形成症とはどのような病気ですか?
COL2A1遺伝子の変化によってII型コラーゲンがうまく作られず、胎児の骨格形成に重い影響が及ぶ病気です。軟骨無発生症II型は最も重いタイプで、低軟骨形成症はそれに次ぐ重症度の表現型とされています。多くは肺の形成不全などにより、周産期に厳しい経過をたどります。
Q. NIPTでこの病気はわかりますか?
標準的なNIPTは主に13・18・21トリソミーなど染色体の数的異常を対象とする非確定的検査であり、単一遺伝子の変化が原因となるこの病気は一般に対象に含まれません。詳しくはNIPT(新型出生前診断)の総合案内を確認してください。
Q. 妊娠中の超音波検査でわかることはありますか?
妊娠中期の超音波検査で、大腿骨の長さが著しく短い、胸郭が狭い、羊水が多いといった所見が見つかると、精密検査のきっかけになります。ただし超音波はあくまで疑いを持つための検査であり、確定診断ではありません。
Q. 確定診断にはどんな検査が必要ですか?
羊水穿刺や絨毛検査によってCOL2A1遺伝子の変化を特定する、専門的な遺伝学的検査が必要です。超音波検査やCTで骨格の所見を確認したうえで、これらの検査に進むのが一般的な流れです。
Q. 次の妊娠でまた同じ病気になる可能性はありますか?
多くは孤発例(偶然生じたde novo変異)であるため、次の妊娠での再発率は一般に1%未満とされています。ただしまれに生殖細胞系列モザイクが関係する場合があり、そのときはリスクが数パーセント程度まで上がることがあります。詳しくは遺伝カウンセリングで確認してください。
Q. 遺伝カウンセリングはどのように受けられますか?
産婦人科や遺伝診療の専門部門で受けられます。これまでの経過や検査結果を踏まえ、再発リスクや次の妊娠での選択肢について、担当の医師や認定遺伝カウンセラーから個別に説明を受けられます。気になる点は遠慮せず質問してください。
著者・監修
岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
