この記事のまとめ
漢方薬を服用していても、NIPT検査の精度には影響しません。NIPT(非侵襲的出生前遺伝学的検査)は、母体の血液中に存在する胎児由来のDNAを解析し、染色体異常を高精度で調べる検査です。漢方薬は植物や鉱物などの自然由来成分でできており、このDNA解析プロセスに干渉することはありません。
一方で、血液の凝固に関わる抗凝固薬(ヘパリンやワーファリンなど)は、血液サンプルの状態そのものに影響する可能性があります。服用中の薬はすべて、検査前に医師へ申告してください。
「漢方薬を飲んでいるけれど、NIPT検査を受けても大丈夫だろうか」という不安を抱える妊婦さんは少なくありません。この記事では、影響がない薬と注意が必要な薬を切り分けたうえで、医師への伝え方や検査前の準備まで具体的に解説します。
NIPT検査の基本的な流れ
NIPT検査は、妊娠10週以降に母体から採血するだけで受けられる検査です。手術のような身体的な負担はありません。
採血した血液は、提携する国内の検査機関(東京衛生検査所など)に送られ、専門のスタッフが母体血中に含まれる胎児由来DNA断片を解析します。クリニックが自らDNA解析を行うわけではなく、認証を受けた検査機関で厳密な精度管理のもとに進められます。
服用中の薬について質問されるのは、この採血から解析までの一連の工程のなかで、血液サンプルの状態に影響しうる薬剤がないかを確認するためです。だからこそ、漢方薬なのか抗凝固薬なのかを正しく切り分けて理解しておくことが役立ちます。
漢方薬はNIPT検査に影響を与えるのか
結論から言うと、漢方薬はNIPT検査の結果に影響を与えません。漢方薬は生薬という自然由来の成分を組み合わせた薬剤で、NIPT検査が解析する胎児由来DNAの構造そのものには作用しないからです。
私は日々の診療のなかで、「妊活中から漢方薬を飲んでいますが、検査結果に影響しませんか」というご質問を数多く受けてきました。結論として、通常の服用量であれば心配はいりません。
NIPTは、母体血中に含まれる胎児由来のDNA断片を解析する検査です。漢方薬の生薬成分がこのDNA断片を変質させたり、分解したりすることはありません。日本産科婦人科学会も、NIPTの実施にあたっては妊婦の服薬状況の丁寧な聴取を求めています。詳細は日本産科婦人科学会の情報も参考にしてください。
NIPT検査で注意すべきなのは漢方薬ではなく抗凝固薬
NIPT検査で本当に注意が必要なのは、漢方薬ではなく抗凝固薬です。血液の凝固を防ぐ薬剤は、血液サンプルの状態そのものに影響することがあります。
代表的な抗凝固薬には、以下のようなものがあります。
- ヘパリン:血栓予防のために広く使われる注射薬です。血液サンプルに混入すると、DNA抽出や解析の工程を妨げることがあります。
- ワーファリン:ビタミンKの働きを阻害して血液の凝固を抑える内服薬です。高用量を服用している場合は、検査前に必ず申告してください。
これらの薬剤を服用している方は、NIPT検査の予約時点で医師に伝えることが欠かせません。自己判断で服薬を中断せず、医師の指示を仰いでください。
抗凝固薬が注意される理由は、血液の凝固を抑える働きが、採血後の血漿分離という工程に影響しうるためです。NIPT検査では、血漿中に浮遊するcfDNA(母体と胎児に由来する遊離DNA)を抽出しますが、この抽出効率が下がる可能性が指摘されています。漢方薬にはこうした作用がないため、両者は分けて考える必要があります。
漢方薬の安全性と妊娠中に気をつけたい生薬
漢方薬はNIPT検査への影響はありませんが、妊娠中の服用そのものには注意すべき生薬もあります。ここは意外と見落とされがちなポイントです。
実際、SNS上でも妊娠・授乳中の漢方薬について注意を呼びかける薬剤師の発信を見かけます。妊娠授乳サポートを専門とする@bell_to_komugiさんは、そのひとりです。ダイオウ・ボタンピ・ブシ・ゴシツ・コウカ・トウニン・ボウショウ。こうした生薬を含む漢方薬は、妊娠中の使用に注意が必要だと発信しています。こうした具体的な生薬名を知っておくと、お薬手帳を見返すときの手がかりになります。
| 生薬名 | 妊娠中に注意される一般的な理由 |
|---|---|
| 大黄(ダイオウ)・芒硝(ボウショウ) | 瀉下作用(便通を促す作用)が強く、子宮への影響が懸念されるため |
| 牡丹皮(ボタンピ)・牛膝(ゴシツ)・紅花(コウカ)・桃仁(トウニン) | 血の巡りを促す「活血」作用があり、伝統的に妊娠中は慎重投与とされているため |
| 附子(ブシ) | 体を温める作用がある一方、用量管理が特に重要な生薬であるため |
この分類は日本東洋医学会の情報などを参考にした一般的な考え方であり、個々の体質や妊娠週数によって判断は変わります。気になる漢方薬があれば、処方医や薬剤師に必ず確認してください。
参考として、比較的よく使われる漢方薬には以下のようなものがあります。
- 葛根湯:風邪の初期症状に用いられることが多く、体を温める作用があるとされています。
- 八味地黄丸:腎機能の維持を目的として処方されることがあります。
- 柴胡加竜骨牡蛎湯:不安やストレスの軽減を目的に用いられることがあります。
これらは通常の使用範囲であれば、NIPT検査への影響はありません。ただし妊娠中の服用可否は生薬の組み合わせによって異なるため、自己判断せず処方医や薬剤師に確認してください。公益社団法人日本東洋医学会や、国立成育医療研究センターの妊娠と薬情報センターでも、妊娠中の薬に関する相談を受け付けています。
妊娠中は、つわりや冷え性、便秘といった不調に悩まされる方が少なくありません。市販薬を避けたい気持ちから、漢方薬を選ぶ方が増えている印象があります。だからこそ、正しい情報をもとに付き合っていくことが大切です。
妊娠中に漢方薬を選ぶときの注意点
妊娠中に新しく漢方薬を試したい場合は、いくつか押さえておきたいポイントがあります。
- 妊婦への処方経験がある産婦人科医や漢方薬局に相談すること
- 体質や妊娠週数に合わせた処方を受けること
- 市販の漢方薬を自己判断で長期間飲み続けないこと
体質や症状は一人ひとり異なるため、「知人にすすめられたから」という理由だけで服用を始めるのは避けてください。迷ったときの相談先を持っておくことが、なによりの安心材料になります。

医師に相談すべきタイミングと伝え方
服用中の薬はNIPT検査の予約時と、採血当日の問診時、この2つのタイミングで必ず医師に伝えてください。
私自身、妊娠中に体調を崩されて漢方薬を処方されるケースを何度も見てきました。産院側が体調に合わせて薬を調整してくれることは珍しくありません。実際、X上にはこんな投稿もあります。「長い妊婦生活で風邪をひき、産院に伝えたら漢方を多めに出してもらった」という@ippai_nerukoさんの声です。妊娠中でも医師の管理下であれば、漢方薬を無理なく使えることがうかがえます。
医師に相談する際は、以下のような対応が考えられます。
- 血液サンプルの採取時期の調整:抗凝固薬の影響を最小限に抑えるため、採血のタイミングを調整することがあります。
- 薬剤の一時中断:必要に応じて、NIPT検査前に一時的な休薬を検討する場合があります。ただし、医師の指示のもとで行ってください。
医師にはこう伝えると要点が伝わりやすくなります。「妊娠◯週です。◯という漢方薬と◯という薬を服用しています。NIPT検査を予定していますが、影響はありますか」というように、薬剤名と服用期間をセットで伝えてください。要点は3つ、妊娠週数・薬剤名・服用期間です。
NIPT検査を安心して受けるための準備
検査当日に慌てないためには、事前の準備が欠かせません。
お薬手帳を持参し、服用中の薬をすべてリスト化しておくと、医師への申告がスムーズです。NIPT検査でわかること・わからないことを事前に理解しておくと、当日の不安も軽くなります。
また、日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会が認証する施設を選ぶことも、安心材料のひとつです。厚生労働省も、妊娠中の医薬品使用については医師への相談を呼びかけています(参考:厚生労働省)。
準備のポイントは次の通りです。
- 服用中の薬(漢方薬・抗凝固薬・市販薬を含む)をすべてリスト化する
- お薬手帳を検査当日に持参する
- 気になる症状や体調の変化は事前にメモしておく
複数の医療機関にかかっている場合は、お薬手帳を一冊にまとめておくと情報の行き違いを防げます。産婦人科と漢方薬局、それぞれで処方を受けている方は特に意識してください。
大切なのは、体調管理と情報整理の2点。迷ったときこそ、早めの相談が安心への近道です。
よくある質問
漢方薬とNIPT検査に関して、外来でよく寄せられる質問をまとめました。
Q1. 漢方薬を服用していますが、NIPT検査は問題なく受けられますか?
A. 通常の服用量であれば、漢方薬がNIPT検査の精度に影響することはありません。ただし服用中の薬はすべて医師に伝えてください。
Q2. 抗凝固薬(ワーファリンなど)を服用中でもNIPT検査は受けられますか?
A. 抗凝固薬は血液サンプルの状態に影響する可能性があるため、採血前に必ず医師と服薬状況を確認してください。
Q3. 妊娠中に漢方薬を服用しても胎児への影響はありませんか?
A. 漢方薬の種類によっては、妊娠中の使用に注意が必要な生薬(ダイオウ・ボタンピ・ブシなど)が含まれます。自己判断せず、処方医または薬剤師に確認してください。
Q4. NIPT検査前に服用を中止すべき薬はありますか?
A. 抗凝固薬など一部の薬剤は、医師の指示のもとで一時的な休薬を検討する場合があります。自己判断で中止せず、必ず主治医の指示に従ってください。
Q5. 漢方薬を飲んでいることを医師にいつ伝えればいいですか?
A. NIPT検査の予約時、または採血当日の問診時に必ず申告してください。お薬手帳を持参すると申告がスムーズです。
Q6. NIPT検査はどの施設で受けても同じですか?
A. 施設によって検査精度や遺伝カウンセリングの体制が異なります。日本医学会が認証する施設を選ぶと安心です。
Q7. 産婦人科で処方された薬とNIPT検査前の飲み合わせが心配です。
A. 産婦人科で処方された薬であれば、処方の時点で妊娠経過を踏まえた判断がされています。とはいえ自己判断は禁物です。NIPT検査を受ける旨を伝え、念のため服薬状況を確認しておくと安心です。
まとめ
漢方薬はNIPT検査の結果に影響を与えません。注意すべきは抗凝固薬であり、服用中の方は必ず医師に申告してください。
妊娠中の漢方薬の使用については、大黄(ダイオウ)や附子(ブシ)など含まれる生薬によって注意が必要な場合があります。自己判断は避け、処方医または薬剤師に確認してください。
不安なことがあれば、一人で抱え込まず医師に相談してください。適切な情報共有が、安全なNIPT検査につながります。カギを握るのは、早めの申告。服用中の薬をリスト化し、お薬手帳とともに持参する習慣をつけておきましょう。
【監修】岡博史(おか ひろし)
医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒、日米医師国家試験合格。日本に20人ほどしかいないラボディレクター資格を保有し、NIPTの精度管理に携わる。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

