2,4-ジエノイルCoA還元酵素欠損症

2,4-Dienoyl-CoA Reductase Deficiency, NADK2

概要

2,4-ジエノイルCoA還元酵素欠損症は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアのなかで、脂肪の一部やアミノ酸の一つ(リジン)をうまく分解できなくなる、まれな先天代謝異常症です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、NADK2 遺伝子の変化が原因となります。

多くは生まれてまもない時期から乳児期に、筋肉の張りの弱さ(筋緊張低下)、哺乳不良、発達の遅れなどで気づかれます。血液検査でリジンというアミノ酸が高い値を示すことと、脂肪の分解の途中でできる特殊な物質(C10:2アシルカルニチン)が増えることが大きな手がかりになります。世界でも報告はごくわずかで、重い経過をたどる例から、比較的軽い経過の例まで幅があることがわかってきています。

病名に出てくる「2,4-ジエノイルCoA還元酵素」そのものの遺伝子(DECR1)ではなく、その酵素がはたらくために必要な補酵素をつくる NADK2 遺伝子の変化で起こることが、この病気の大きな特徴です。そのため、NADK2欠損症(ミトコンドリアNADキナーゼ欠損症)と呼ばれることもあります。

原因

NADK2 は、ミトコンドリアのなかで「NADP(エヌエーディーピー)」という補酵素をつくる酵素です。補酵素とは、酵素がはたらくときに欠かせない「助手」のような物質です。

ミトコンドリアでは、2,4-ジエノイルCoA還元酵素(不飽和脂肪酸を分解する酵素)や、リジンを分解する酵素が、このNADPの助けを借りてはたらいています。NADK2 のはたらきが失われると、ミトコンドリアのなかのNADPが足りなくなり、これらの酵素が十分にはたらけません。その結果、不飽和脂肪酸の分解が途中で止まり、リジンが体にたまり、エネルギーをたくさん必要とする脳や筋肉に影響が出ると考えられています。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。

症状

  • 筋緊張低下:新生児期から乳児期に、体がやわらかく力が入りにくい状態として気づかれます
  • 哺乳不良・体重の増えにくさ
  • 発達の遅れ:首のすわりやおすわりなどの運動発達、ことばの発達が遅れることがあります
  • 小頭症(頭囲が小さい)
  • 脳の障害(脳症):けいれんや意識の低下などがみられ、頭部MRIで異常が見つかることがあります
  • 歩くときのふらつき(運動失調)などの神経症状:比較的軽い経過の方で報告されています
  • 血液中のリジンの上昇、乳酸の上昇:症状というより検査で見つかる所見です
  • 最初に報告されたお子さまは乳児期に亡くなっており、重い経過をたどることがあります

検査・診断

筋緊張低下や発達の遅れがあるお子さまで、血液のアミノ酸分析(リジンの上昇)やアシルカルニチン分析(C10:2アシルカルニチンの上昇)を行うことで疑われます。この2つがそろうことは、この病気を考えるうえでの重要な手がかりです。日本の新生児マススクリーニングの通常の対象疾患には含まれていません。

確定診断は遺伝学的検査で行い、NADK2 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。妊娠中の超音波検査で特徴的な所見が出ることはほとんどないため、出生前に気づかれることはまれです。ご家族に診断がついている場合は、遺伝子検査で次のお子さまの見通しを確かめることができます。

治療

現時点で、この病気を根本的に治す治療法は確立していません。患者さんの数がとても少ないため、治療の効果もまだ十分にはわかっていません。症状に合わせた治療と、成長・発達を支える支援が中心になります。

  • 食事療法:リジンを控える食事などが試みられた報告があります。必ず専門医と栄養士の指導のもとで行います
  • 長い空腹を避ける:体調の悪いときは早めに受診し、点滴などでエネルギーを補います
  • けいれんなどへの対症療法
  • リハビリテーション・療育:理学療法、作業療法、言語療法などで発達を支えます
  • 栄養の支援:哺乳や食事が難しい場合は、経管栄養などを検討します
  • ご家族への支援:遺伝カウンセリング、福祉制度の利用、心理的な支えを含めて継続的に支援します

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる NADK2 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、NADK2 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

NADK2 はミトコンドリア局在のNADキナーゼで、NADのリン酸化によりミトコンドリア内NADP(H)を供給する。欠損するとミトコンドリア内のNADPHが枯渇し、NADPH依存性の2,4-ジエノイルCoA還元酵素(DECR1)による不飽和脂肪酸β酸化の補助経路が障害されるとともに、リジン分解の初段を担うAASS(α-アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素)の還元反応も低下する。このため、C10:2アシルカルニチン上昇と高リジン血症が併存するという特徴的な生化学所見を呈する。

本症は1990年に、C10:2アシルカルニチンの上昇を示した乳児例として脂肪酸酸化異常症の候補として初めて報告されたが、DECR1 遺伝子には病的変異が見つからず、2014年に NADK2 の変異が原因であることが明らかにされた。すなわち、酵素そのものではなく補酵素供給の障害による「二次的な」DECR活性低下であり、病名と原因遺伝子が一致しない点に注意を要する。その後、開始コドン消失変異による比較的軽症の同胞例も報告され、臨床像には幅がある。症例数がきわめて少なく、遺伝型と表現型の関係はまだ確立していない。

鑑別としては、AASS 遺伝子による高リジン血症(多くは無症状とされる)、ミトコンドリア病(Leigh症候群など)、その他の脂肪酸酸化異常症、有機酸代謝異常症が挙がる。高リジン血症とC10:2アシルカルニチン上昇の組み合わせは本症を強く示唆し、NADK2 の遺伝学的検査が確定診断と遺伝カウンセリングに直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。男の子・女の子の差はありません。4分の2の確率で症状のないキャリアに、4分の1の確率で変化を受け継がないお子さまになります。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. この病気は妊娠中の超音波検査で特徴的な所見が出にくく、通常の妊婦健診で気づかれることはほとんどありません。前のお子さまやご家族で原因の遺伝子変化がわかっている場合は、出生前の遺伝子検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 病名の酵素と原因の遺伝子の名前が違うのはなぜですか。

A. 最初は2,4-ジエノイルCoA還元酵素そのものの病気と考えられていましたが、その後の研究で、酵素がはたらくための補酵素をつくる NADK2 遺伝子の変化が原因とわかりました。病名は最初に見つかった検査所見にちなんで名づけられたため、このような違いが生じています。

Q. 食事で症状をよくすることはできますか。

A. リジンを控える食事などが試みられた報告はありますが、効果はまだはっきりしていません。自己判断で食事を制限すると成長に影響することがあるため、必ず代謝の専門医と栄養士の指導のもとで行ってください。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Roe CR, Millington DS, Norwood DL, et al. 2,4-Dienoyl-coenzyme A reductase deficiency: a possible new disorder of fatty acid oxidation. J Clin Invest. 1990;85(5):1703-1707.
  • Houten SM, Denis S, te Brinke H, et al. Mitochondrial NADP(H) deficiency due to a mutation in NADK2 causes dienoyl-CoA reductase deficiency with hyperlysinemia. Hum Mol Genet. 2014;23(18):5009-5016.
  • Pomerantz DJ, Ferdinandusse S, Cogan J, et al. Clinical heterogeneity of mitochondrial NAD kinase deficiency caused by a NADK2 start loss variant. Am J Med Genet A. 2018;176(3):692-698.
  • OMIM #616034 2,4-Dienoyl-CoA reductase deficiency; DECRD. Online Mendelian Inheritance in Man.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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