概要
2-メチル酪酸グリシン尿症は、食べ物のたんぱく質に含まれるアミノ酸「イソロイシン」をうまく分解できないために、分解の途中でできる物質が尿に多く出る先天代謝異常症です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ACADSB(10q26.13)遺伝子の変化が原因となります。「短鎖・分枝鎖アシルCoA脱水素酵素(SBCAD)欠損症」とも呼ばれます。
この病気は、新生児マススクリーニング(生まれてすぐの血液検査)で偶然見つかることがほとんどです。見つかったお子さまの多くは、症状がないまま成長することが報告されています。一方で、発達の遅れやけいれんなどがみられた例も報告されていますが、それがこの病気によるものかどうかは、まだはっきりわかっていません。
ACADSB 遺伝子の変化で起こる病気として知られているのは、現在のところこの2-メチル酪酸グリシン尿症だけで、型の区別はありません。名前の似た「短鎖アシルCoA脱水素酵素(SCAD)欠損症」は、別の遺伝子(ACADS)による別の病気です。また、新生児マススクリーニングでは、重い病気である「イソ吉草酸血症」と同じ指標が高くなるため、両者をきちんと見分けることが大切です。
原因
ACADSB 遺伝子は、イソロイシンを分解する途中の一段階をうけもつ酵素(SBCAD)の設計図です。
イソロイシンは体のなかで何段階もかけて分解され、最後はエネルギーのもとになります。SBCAD がはたらかないと、途中の物質(2-メチルブチリルCoA)が先へ進めずにたまり、グリシンと結びついた「2-メチルブチリルグリシン」として尿に出てきます。この物質が尿に多く出ることが病名の由来です。ただし、たまる量は多くの場合わずかで、体に大きな害を与えるかどうかははっきりしていません。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 多くは無症状:新生児マススクリーニングで見つかったお子さまの大半は、症状のないまま成長しています
- 発達の遅れ・筋肉の緊張の低さ:一部の報告でみられますが、この病気との関係ははっきりしていません
- けいれん:まれに報告があります
- 低血糖、体調をくずしたときの元気のなさ:ごく一部の報告にとどまります
- 重い代謝の発作(急な意識障害など)を繰り返すことは、ほとんど知られていません
症状のある方の報告は、もともと何らかの症状があって検査を受けた方に偏っている可能性があります。そのため、この病気があっても必ず症状が出るわけではなく、多くは心配の少ない病気と考えられています。ただし長い経過についての情報はまだ限られており、定期的な見守りがすすめられます。
検査・診断
新生児マススクリーニング(タンデムマス法)で、血液中の「C5アシルカルニチン」という値が高いことをきっかけに疑われます。この値はイソ吉草酸血症でも高くなるため、尿の有機酸分析で2-メチルブチリルグリシンが多く、イソ吉草酸血症に特徴的な物質が増えていないことを確かめて区別します。
また、ある種の抗菌薬(ピボキシル基を含む薬)を飲んでいると、同じ値が見かけ上高くなることがあり、これも見分ける必要があります。
確定診断は遺伝学的検査で行い、ACADSB 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。重い病気であるイソ吉草酸血症ではないことを確かめ、ご家族の不安を減らすためにも、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、効果が確かめられた決まった治療法はありません。症状のないお子さまでは、特別な治療をせずに経過をみることが多いのが現状です。必要に応じて、次のような対応が検討されます。
- 長時間の空腹を避ける:とくに乳幼児期や、熱・嘔吐などで食事がとれないときは早めに受診します
- 体調をくずしたときの対応を決めておく:かかりつけ医と相談し、必要に応じて点滴でブドウ糖を補います
- カルニチンの補充:血液中のカルニチンが低い場合などに使われることがありますが、効果の根拠は限られています
- 発達の定期的な確認:発達の遅れがみられたときは、療育やリハビリテーションなどの支援につなげます
- 自己判断で食事を制限しない:厳しいたんぱく質制限は通常必要ないと考えられています。主治医とご相談ください
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる ACADSB 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ACADSB 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
ACADSB は短鎖・分枝鎖アシルCoA脱水素酵素(SBCAD)をコードし、ミトコンドリア内でL-イソロイシン異化経路における2-メチルブチリルCoAからチグリルCoAへの脱水素反応を担う。欠損により2-メチルブチリルCoAが蓄積し、血中2-メチルブチリルカルニチン(C5)と尿中2-メチルブチリルグリシンが増加する。本症は2000年に独立した疾患単位として報告され、同時にバリン異化には別のアシルCoA脱水素酵素が関与することが示された。
モン族(Hmong)集団では創始者変異(c.1165A>G、エクソン10のスキッピングを起こす)により頻度が高く、同集団の新生児スクリーニングで多数が同定されている。スクリーニングで同定された例の大多数は無症状で経過しており、初期の症例報告にみられた発達遅滞・てんかん・筋緊張低下については、症状を契機に診断された例に偏った確認バイアスの影響が指摘されている。現時点では臨床的意義の乏しい生化学的表現型とみなす立場が有力だが、長期予後のデータは十分ではない。
C5アシルカルニチン高値の鑑別としては、イソ吉草酸血症(IVD、急性代謝クリーゼを起こしうる)と、ピボキシル基含有抗菌薬投与によるピバロイルカルニチンの混入が重要である。尿有機酸分析(イソバレリルグリシンと2-メチルブチリルグリシンの区別)やアシルカルニチン異性体の分離分析で鑑別する。イソ吉草酸血症とは管理方針が大きく異なるため、生化学的・遺伝学的な確定診断は、過剰な治療やご家族の不必要な不安を避けることに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。ただし、発症しても多くは症状がないまま成長することが報告されています。ご家族の状況に合わせた見通しは、遺伝カウンセリングでご説明します。
Q. 新生児マススクリーニングで再検査と言われました。重い病気なのでしょうか。
A. スクリーニングで高くなる値(C5アシルカルニチン)は、この病気のほかに、イソ吉草酸血症や一部の抗菌薬の影響でも高くなります。まずは精密検査で原因を確かめることが大切です。この病気と診断された場合、多くは症状がないまま経過しています。
Q. 食事の制限は必要ですか。
A. 通常、厳しい食事制限は必要ないと考えられています。長時間の空腹を避けること、体調をくずして食事がとれないときに早めに受診することが基本です。具体的な対応は主治医とご相談ください。
Q. 大人になってから症状が出ることはありますか。
A. 大人になってから検査で見つかった方の多くも、症状なく過ごしていると報告されています。ただし長い経過についての情報はまだ十分ではないため、気になる症状があるときは主治医にご相談ください。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Andresen BS, Christensen E, Corydon TJ, et al. Isolated 2-methylbutyrylglycinuria caused by short/branched-chain acyl-CoA dehydrogenase deficiency: identification of a new enzyme defect, resolution of its molecular basis, and evidence for distinct acyl-CoA dehydrogenases in isoleucine and valine metabolism. Am J Hum Genet. 2000;67(5):1095-1103.
- Gibson KM, Burlingame TG, Hogema B, et al. 2-Methylbutyryl-coenzyme A dehydrogenase deficiency: a new inborn error of L-isoleucine metabolism. Pediatr Res. 2000;47(6):830-833.
- Alfardan J, Mohsen AW, Copeland S, et al. Characterization of new ACADSB gene sequence mutations and clinical implications in patients with 2-methylbutyrylglycinuria identified by newborn screening. Mol Genet Metab. 2010;100(4):333-338.
- OMIM #610006 2-Methylbutyrylglycinuria. Online Mendelian Inheritance in Man.
