概要
3-メチルグルタコン酸尿症5型は、乳幼児期から始まる心臓の筋肉の病気(拡張型心筋症)と、ふらつき(小脳性運動失調)を中心とする、ミトコンドリアのはたらきに関わる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、DNAJC19(3q26.33)遺伝子の変化が原因となります。
尿に「3-メチルグルタコン酸」という物質が多く出ることからこの名前がついていますが、病気の見通しを左右するのは心臓の状態です。症状の頭文字から「DCMA症候群」(拡張型心筋症と運動失調の症候群)とも呼ばれます。カナダのフッター派と呼ばれる共同体で最初に報告され、その後ほかの地域からも報告されています。
3-メチルグルタコン酸尿症には1型から5型までの番号がついた型があり、型ごとに原因遺伝子も症状もまったく異なります。5型の特徴は、DNAJC19 遺伝子が原因であること、乳幼児期に始まる拡張型心筋症、進行しにくい小脳性の運動失調、成長の遅れ、男の子では性器の形の異常がみられることです。症状が似ている2型(バース症候群)とは、原因遺伝子と遺伝形式が異なります。
原因
DNAJC19 は、細胞のなかでエネルギーをつくるミトコンドリアの内側の膜ではたらくたんぱく質の設計図です。
このたんぱく質は、ミトコンドリアの膜をつくる「カルジオリピン」という特別な脂質を整える仕組みに関わっていると考えられています。カルジオリピンが正しく整わないと、ミトコンドリアのエネルギーづくりがうまくいかなくなります。とくに休みなく動き続ける心臓の筋肉は大量のエネルギーを必要とするため、影響を強く受けます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 拡張型心筋症:心臓の筋肉が薄く伸びて、血液を送り出す力が弱まります。多くは乳幼児期に始まり、この病気の見通しを決める最も重要な症状です
- 不整脈:心電図でQT時間の延長などがみられることがあります
- 小脳性運動失調:歩き始めのころから、ふらつきや手の動きのぎこちなさが目立ちます。多くは進行しにくいとされています
- 成長の遅れ:体重や身長の伸びが小さくなります
- 男の子の性器の形の異常:停留精巣(精巣が陰のうに下りていない状態)や尿道下裂などがみられることがあります
- 軽い発達の遅れ、貧血、肝臓への脂肪の蓄積がみられることがあります
- 重い心不全により、幼いうちに亡くなるお子さまもいます。一方で、成人まで過ごされる方もいて、重さには個人差があります
検査・診断
心臓の超音波検査(心エコー)で拡張型心筋症が見つかり、ふらつきや成長の遅れ、男の子の性器の異常をあわせ持つことから疑われます。尿の有機酸分析で、3-メチルグルタコン酸と3-メチルグルタル酸が多く出ていることが手がかりになります。
ただし、尿に3-メチルグルタコン酸が多く出る病気はほかにもたくさんあるため、尿の検査だけでは型を決められません。確定診断は遺伝学的検査で行い、3-メチルグルタコン酸尿症5型では DNAJC19 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。遺伝形式の異なるバース症候群などと見分け、次のお子さまの見通しを正しくお伝えするために、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、この病気そのものを治す治療は確立していません。治療の中心は、心臓の状態をこまめに確認し、心不全や不整脈を早めに治療することです。小児循環器、神経、泌尿器、リハビリテーションなど、複数の診療科が協力して支えます。
- 心不全の治療:心臓の負担を減らす薬や、体にたまった水分を減らす薬(利尿薬)などを使います。重い場合は心臓移植が検討されることもあります
- 定期的な心臓の検査:心エコーや心電図で、心臓のはたらきや不整脈の有無を確認します
- 運動失調へのリハビリテーション:理学療法や作業療法で、歩くことや日常の動作を支えます
- 栄養と成長の支援:体重の増え方を見ながら、食事や栄養の工夫を行います
- 性器の異常への対応:停留精巣などは泌尿器科で手術を検討します
- 発達の支援とご家族への心理的支援
ミトコンドリアのはたらきを助ける新しい薬の研究も行われていますが、まだ研究の段階であり、効果は確かめられていません。
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる DNAJC19 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、DNAJC19 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
DNAJC19 は J ドメインをもつミトコンドリア内膜タンパク質で、酵母の内膜輸送系コシャペロン Tim14(Pam18)のヒト相同遺伝子として同定された。その後、プロヒビチン(PHB/PHB2)と複合体を形成し、カルジオリピンのアシル鎖リモデリングを調節することが示され、欠損ではカルジオリピンのアシル鎖組成に変化が生じる。カルジオリピン代謝異常という点で、タファジン(TAZ)欠損によるバース症候群と病態が重なる。3-メチルグルタコン酸の上昇はロイシン異化経路の一次的な酵素欠損によるものではなく、ミトコンドリア機能障害に伴う二次的な所見と考えられている。
本症はカナダ・アルバータ州のダリウスロイト系フッター派で最初に報告され、同集団ではスプライス部位の創始者変異(c.130-1G>C、IVS3-1G>C)が共有されている。表現型は早期発症の拡張型心筋症(QT延長などの伝導異常を伴うことがある)、非進行性小脳性運動失調、成長障害、男児の精巣形成不全・停留精巣・尿道下裂を中核とし、フィンランドの家系では左室緻密化障害、貧血を伴う例も報告された。心不全による早期死亡が多い一方、成人生存例もあり、同一変異をもつ同胞間でも重症度に幅がある。
3-メチルグルタコン酸尿症は従来1〜5型に番号分類されてきたが、現在は病態に基づく分類が提唱されている。1型(AUH、ロイシン異化の一次的酵素欠損)のみが「一次性」で、2型バース症候群(TAZ、X連鎖潜性)、3型コステフ症候群(OPA3、視神経萎縮と錐体外路症状)、5型(DNAJC19)はミトコンドリア膜の異常による「二次性」に位置づけられる。ほかに SERAC1(MEGD(H)EL症候群)、TMEM70、CLPB なども同様の尿所見を示す。とくにバース症候群とは心筋症・成長障害が共通するが、遺伝形式が異なり女児も発症しうる点、運動失調と男児性器異常を伴う点で区別され、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。男の子でも女の子でも同じ確率です。症状の似ている病気には遺伝形式の異なるものもあるため、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. この病気は、妊娠中の超音波検査ではっきりした異常が見つからないことが多く、生まれたあとに心臓の病気やふらつきから気づかれるのが一般的です。前のお子さまで原因となる遺伝子の変化がわかっている場合は、出生前の遺伝学的検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. バース症候群とはどう違いますか。
A. どちらも心筋症と成長の遅れがみられ、尿に3-メチルグルタコン酸が多く出る点は似ています。しかし、バース症候群(2型)は TAZ 遺伝子によるX連鎖潜性遺伝の病気で、主に男の子が発症します。5型は DNAJC19 遺伝子による常染色体潜性遺伝で、男女どちらも発症し、ふらつきを伴うことが特徴です。
Q. 大人になるまで過ごせますか。
A. 心臓の病気の重さによって大きく異なります。重い心不全のために幼いうちに亡くなるお子さまもいる一方で、成人まで過ごされている方もいます。心臓の状態を定期的に確認し、早めに治療を始めることが大切です。見通しについては、担当の医療チームとよく話し合ってください。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Davey KM, Parboosingh JS, McLeod DR, et al. Mutation of DNAJC19, a human homologue of yeast inner mitochondrial membrane co-chaperones, causes DCMA syndrome, a novel autosomal recessive Barth syndrome-like condition. J Med Genet. 2006;43(5):385-393.
- Ojala T, Polinati P, Manninen T, et al. New mutation of mitochondrial DNAJC19 causing dilated and noncompaction cardiomyopathy, anemia, ataxia, and male genital anomalies. Pediatr Res. 2012;72(4):432-437.
- Richter-Dennerlein R, Korwitz A, Haag M, et al. DNAJC19, a mitochondrial cochaperone associated with cardiomyopathy, forms a complex with prohibitins to regulate cardiolipin remodeling. Cell Metab. 2014;20(1):158-171.
- Wortmann SB, Duran M, Anikster Y, et al. Inborn errors of metabolism with 3-methylglutaconic aciduria as discriminative feature: proper classification and nomenclature. J Inherit Metab Dis. 2013;36(6):923-928.
- OMIM #610198 3-Methylglutaconic aciduria, type V. Online Mendelian Inheritance in Man.
