概要
3-メチルグルタコン酸尿症8型は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアのはたらきが損なわれ、生まれてまもなくから脳と神経に重い症状があらわれる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、HTRA2(2p13.1)遺伝子の変化が原因となります。
この病気では、新生児期から筋肉の緊張の異常、手足のふるえや異常な動き、けいれん、呼吸や哺乳の障害がみられます。発達がほとんど進まないまま、多くのお子さまが乳児期に亡くなると報告されています。尿の検査で「3-メチルグルタコン酸」という物質が増えていることが、診断の手がかりになります。報告されている患者さんは世界で数十人ほどの、たいへんまれな病気です。
3-メチルグルタコン酸尿症は、尿に同じ物質が増えるという共通点でまとめられた病気のグループです。型ごとに原因となる遺伝子も症状も大きく異なります。8型は HTRA2 遺伝子が原因で、新生児期に始まる重い神経症状と、乳児期の早い時期に亡くなる例が多いことが特徴です。なお、HTRA2 遺伝子の片方だけの変化が成人のパーキンソン病に関係する可能性も議論されています。これは8型とは別の話で、関係があるかどうかはまだはっきりしていません。
原因
HTRA2 は、ミトコンドリアのなかで傷んだたんぱく質を分解して取り除く「品質管理係」の酵素をつくる遺伝子です。
ミトコンドリアは、食べたものからエネルギーをつくり出す、細胞のなかの小さな器官です。HTRA2 のはたらきが失われると、ミトコンドリアのなかに傷んだたんぱく質がたまり、ミトコンドリアの形やはたらきが保てなくなります。とくに多くのエネルギーを必要とする脳の神経細胞が傷つきやすく、その結果として重い神経症状があらわれると考えられています。尿に3-メチルグルタコン酸が増えるのも、ミトコンドリアのはたらきが乱れていることのあらわれです。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 新生児期からの筋緊張の異常:体がやわらかすぎる状態(筋緊張低下)や、反対に体がかたくこわばる状態がみられます
- ふるえや異常な動き:手足のふるえ、びくつき、自分の意思と関係なく体が動くなどの症状が、生後まもなくからみられることが多く、この型の特徴のひとつです
- けいれん(てんかん発作):お薬で抑えにくいことがあります
- 呼吸の障害:呼吸が止まる発作や呼吸の弱さがあり、呼吸の補助が必要になることがあります
- 哺乳や飲み込みの障害:管を使った栄養が必要になることが多いです
- 発達の遅れ:首がすわるなどの発達がほとんど進まないことが多いです
- 白血球(好中球)の減少:一部の患者さんで報告されており、感染症にかかりやすくなります
- 多くは乳児期のうちに、呼吸の障害などにより亡くなると報告されています
検査・診断
新生児期からの筋緊張の異常、ふるえや異常な動き、けいれん、呼吸の障害などから疑われます。尿の有機酸分析で3-メチルグルタコン酸が増えていることが大きな手がかりです。血液中の乳酸が高いこと、白血球の減少、頭部MRIでの脳の萎縮なども参考になります。
ただし、尿に3-メチルグルタコン酸が増える病気はほかにも多数あり、尿の検査だけでは型を決められません。確定診断は遺伝学的検査で行い、3-メチルグルタコン酸尿症8型では HTRA2 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。妊娠中の超音波検査では特徴的な所見が出にくいため、出生前に気づかれることはまれです。次のお子さまの見通しを正しくお伝えするために、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、この病気を治す治療はありません。治療の中心は、それぞれの症状をやわらげ、お子さまができるだけ楽に過ごせるようにするための対症療法と支援です。ご家族と医療チームが十分に話し合い、治療の方針を一緒に決めていくことが大切です。
- けいれんへの治療:抗てんかん薬を使い、発作をできるだけ抑えます
- 呼吸の管理:呼吸の補助をどこまで行うかを含め、ご家族の意向を尊重して決めます
- 栄養の管理:鼻から胃に通す管や胃ろうで栄養をとり、誤嚥(食べ物が気管に入ること)を防ぎます
- 感染症への注意:白血球が少ない場合は、感染症の予防と早めの治療を行います
- 緩和ケア:お子さまの苦痛を最小限にし、ご家族が過ごす時間を大切にする支援
- ご家族への心理的支援:グリーフケアを含め、継続的な支えが必要です
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる HTRA2 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、HTRA2 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患では、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
HTRA2(別名 Omi)はミトコンドリア膜間腔に局在するセリンプロテアーゼで、ミトコンドリアたんぱく質の品質管理を担う。アポトーシスの際には細胞質へ放出され、アポトーシス阻害たんぱく質に結合してカスパーゼの活性化を促す機能も知られる。プロテアーゼ活性を失った mnd2 マウスは線条体を中心とする神経変性を示して若齢で死亡し、ヒトの8型の表現型とよく対応する。
8型は両アレル性の機能喪失型変異による新生児期発症の神経変性症で、筋緊張低下から筋強剛への移行、振戦・ジスキネジアなどの運動異常、難治性けいれん、呼吸不全、好中球減少、高乳酸血症を呈し、多くは乳児期に死亡する。Wortmann らの分類では、3-メチルグルタコン酸尿を識別的所見とする先天代謝異常のひとつに位置づけられる。一方、ヘテロ接合性変異と成人発症パーキンソン病(PARK13)との関連が報告されたが、その後の解析では再現性が乏しく、関連は確立していない。保因者の発症リスクについては慎重な説明が求められる。
鑑別としては、3-メチルグルタコン酸尿症7型(CLPB、好中球減少・白内障・神経症状)、MEGDEL症候群(SERAC1)、3-メチルグルタコン酸尿症9型(TIMM50)、バース症候群(TAZ、X連鎖)、Sengers 症候群(AGK)などが挙がる。とくに7型とは、新生児期発症・好中球減少・神経症状という点で臨床像が重なるため、遺伝子診断による確定が欠かせない。また、X連鎖のバース症候群とは次子再発率の考え方が異なる。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。男の子でも女の子でも同じ確率です。3-メチルグルタコン酸尿症には遺伝形式の異なる型もあるため、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. この病気は超音波検査ではっきりした所見が出にくく、妊娠中の健診で気づかれることはまれです。前のお子さまで原因となる遺伝子の変化がわかっている場合は、出生前検査や着床前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. ほかの型の3-メチルグルタコン酸尿症とは何が違いますか。
A. 型ごとに原因となる遺伝子が異なり、症状や経過も大きく違います。8型は HTRA2 遺伝子が原因で、生まれてまもなくから重い神経症状があらわれ、乳児期の早い時期に亡くなることが多い点が特徴です。尿の検査だけでは型を区別できないため、遺伝子検査で確かめます。
Q. キャリアの親もパーキンソン病になりやすいのですか。
A. HTRA2 遺伝子の片方の変化がパーキンソン病に関係するという報告はあります。しかし、その後の研究では関係がはっきり確かめられておらず、現時点で確かなことはいえません。ご心配な点は遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- OMIM #617248 3-Methylglutaconic aciduria, type VIII; MGCA8. Online Mendelian Inheritance in Man.
- Mandel H, Saita S, Edvardson S, et al. Deficiency of HTRA2/Omi is associated with infantile neurodegeneration and 3-methylglutaconic aciduria. J Med Genet. 2016;53(10):690-696.
- Oláhová M, Thompson K, Hardy SA, et al. Pathogenic variants in HTRA2 cause an early-onset mitochondrial syndrome associated with 3-methylglutaconic aciduria. J Inherit Metab Dis. 2017;40(1):121-130.
- Wortmann SB, Duran M, Anikster Y, et al. Inborn errors of metabolism with 3-methylglutaconic aciduria as discriminative feature: proper classification and nomenclature. J Inherit Metab Dis. 2013;36(6):923-928.
- Strauss KM, Martins LM, Plun-Favreau H, et al. Loss of function mutations in the gene encoding Omi/HtrA2 in Parkinson’s disease. Hum Mol Genet. 2005;14(15):2099-2111.
