概要
アダムス・オリバー症候群2型は、生まれつき頭皮の一部が欠けている「先天性皮膚欠損」と、手足の指先や手足の先端が短い・欠けている「四肢末端の欠損」を特徴とする先天性の病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、DOCK6(19p13.2)遺伝子の変化が原因となります。
アダムス・オリバー症候群には原因遺伝子の違いによって1型から6型まであり、頭皮と手足の症状はどの型にも共通しています。そのなかで2型は、脳や目の異常をともなうことが多く、発達の遅れやけいれんがみられやすいという点が大きな特徴です。
症状の現れ方や重さは、同じ2型のなかでも個人差があります。頭皮と手足の症状は生まれたときから目に見える形で現れ、脳の症状は乳児期以降の発達の経過のなかで明らかになることが多い病気です。
原因
DOCK6 は、細胞の形や動きを支える「アクチン」という骨組みを組み立て直すスイッチ役のたんぱく質です。
細胞は骨組みを組み替えながら形を変えたり移動したりして、皮膚・手足・血管などの組織をつくっていきます。DOCK6 がはたらかないと、この骨組みの組み替えがうまくいかず、胎児期の皮膚や手足の先端、血管の発達が妨げられると考えられています。脳や目の異常には、発達途中の血管の問題が関わっている可能性が指摘されていますが、詳しいしくみはまだ十分にはわかっていません。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 頭皮の先天性皮膚欠損:多くは頭のてっぺん付近に、皮膚が欠けた部分があります。小さなものから、下の骨まで欠けている大きなものまでさまざまです
- 四肢末端の欠損:指が短い、指の先が欠けている、指どうしがくっついているなど。手よりも足に強く出ることが多く、左右で程度が異なることもあります
- 脳の異常:2型で特に目立つ症状です。脳の石灰化、脳室の拡大、脳のしわの形成異常、小頭症などがみられることがあります
- 発達の遅れ・知的障害、てんかん(けいれん)
- 目の異常:網膜の異常などがみられることがあり、視力に影響することがあります
- 皮膚の網目状の模様(先天性血管拡張性大理石様皮斑)
- まれに心臓の異常をともなうことがあります
検査・診断
多くは生まれたときの頭皮の皮膚欠損と手足の先端の形から疑われます。妊娠中の超音波検査で、手足の先端の異常や脳室の拡大などが見つかることもありますが、頭皮の欠損や指先の小さな変化は、妊娠中には見つけにくいことが少なくありません。
診断がついたあとは、頭部のMRI・CT、眼科の診察、心臓の超音波検査などで、脳・目・心臓に合併する異常がないかを確認します。特に2型では、脳の石灰化や形成異常の有無を調べることが大切です。
確定診断は遺伝学的検査で行い、アダムス・オリバー症候群2型では DOCK6 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。アダムス・オリバー症候群は型によって遺伝形式が異なるため、次のお子さまの見通しを正しくお伝えするうえで、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、遺伝子の変化そのものを治す治療はありません。それぞれの症状に合わせた治療と、成長・発達を支える支援を組み合わせて行います。
- 頭皮の欠損部の処置:感染や乾燥を防ぐ傷のケアを行います。欠損が大きい場合は出血や感染の危険が高くなるため、形成外科・脳神経外科による手術(皮膚や骨の再建)を検討します
- 手足の症状への対応:整形外科による評価、必要に応じた手術、装具やリハビリテーション
- てんかんの治療:抗てんかん薬などでけいれんを抑えます
- 発達の支援:理学療法・作業療法・言語療法、療育や教育面での支援
- 目と心臓の定期的な診察:眼科・循環器科で経過をみます
- ご家族への遺伝カウンセリングと心理的支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる DOCK6 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、DOCK6 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
DOCK6 は DOCK ファミリーに属する非典型的なグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)で、低分子量GTPアーゼ Cdc42 と Rac1 を活性化し、アクチン細胞骨格の再構成を制御する。Shaheen らは2011年、常染色体潜性のアダムス・オリバー症候群の家系で DOCK6 の両アレル性機能喪失変異を同定し、患者由来細胞でアクチン骨格の構築異常を示した。
アダムス・オリバー症候群は遺伝的異質性が高く、現在6つの原因遺伝子が知られる——顕性(優性)遺伝の ARHGAP31(1型)、RBPJ(3型)、NOTCH1(5型)、DLL4(6型)と、潜性遺伝の DOCK6(2型)、EOGT(4型)である。ARHGAP31 と DOCK6 はいずれも Cdc42/Rac1 の制御に、残る4遺伝子は Notch シグナル経路に関わる。DOCK6 関連型の特徴は、脳室周囲石灰化、脳室拡大、多小脳回などの中枢神経異常と知的障害・てんかん、さらに網膜異常などの眼合併症の頻度が高いことであり、Sukalo らはこれを脳・眼の異常をともなう独立した潜性型として報告している。一方、心血管奇形は NOTCH1 関連型でより多いとされる。
鑑別としては、他の型のアダムス・オリバー症候群のほか、孤発性の先天性皮膚欠損、羊膜索症候群(非遺伝性で再発率は低い)、先天性血管拡張性大理石様皮斑が挙がる。顕性型では浸透率が不完全で症状の軽い親が見逃されることがあり、潜性型(次子再発率25%)と顕性型(罹患親からは50%、新生変異ならごく低率)で再発率が大きく異なるため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。アダムス・オリバー症候群には顕性遺伝の型もあり、型によって次のお子さまへの影響の考え方が異なります。原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 他の型のアダムス・オリバー症候群とはどう違いますか。
A. 頭皮の皮膚欠損と手足の先端の症状はどの型にも共通します。2型は DOCK6 遺伝子が原因の潜性遺伝の型で、脳や目の異常、発達の遅れ、てんかんをともなうことが多い点が特徴です。ただし症状には個人差があり、型だけで将来の見通しが決まるわけではありません。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 手足の先端の異常や脳室の拡大などが超音波検査で見つかることはありますが、頭皮の欠損などは妊娠中には分かりにくいことが多い病気です。前のお子さまで原因遺伝子が確定している場合は、遺伝子による出生前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 頭皮の欠損は治りますか。
A. 小さな欠損は、適切な傷のケアによって、傷あとを残しながら自然にふさがることが多いとされています。大きな欠損や骨の欠損をともなう場合は、出血や感染を防ぐために手術が必要になることがあります。治り方には個人差があるため、主治医とよく相談してください。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Lehman A, Wuyts W, Patel MS. Adams-Oliver Syndrome. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #614219 Adams-Oliver syndrome 2; AOS2. Online Mendelian Inheritance in Man.
- Shaheen R, Faqeih E, Sunker A, et al. Recessive mutations in DOCK6, encoding the guanidine nucleotide exchange factor DOCK6, lead to abnormal actin cytoskeleton organization and Adams-Oliver syndrome. Am J Hum Genet. 2011;89(2):328-333.
- Sukalo M, Tilsen F, Kayserili H, et al. DOCK6 mutations are responsible for a distinct autosomal-recessive variant of Adams-Oliver syndrome associated with brain and eye anomalies. Hum Mutat. 2015;36(6):593-598.
- Hassed S, Li S, Mulvihill J, et al. Adams-Oliver syndrome review of the literature: Refining the diagnostic phenotype. Am J Med Genet A. 2017;173(3):790-800.
