アルカイシ症候群

Al Kaissi syndrome, CDK10

概要

アルカイシ症候群は、体の成長が強く遅れること、背骨(とくに首の骨)の形の異常、発達の遅れを主な特徴とする、たいへんまれな病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、CDK10(16q24.3)遺伝子の変化が原因となります。

この病気は2017年に原因遺伝子が明らかになった比較的新しい病気で、これまでに報告されている患者さんは世界でもごくわずかです。そのため、症状の幅や長期的な見通しについては、まだ分かっていないことが多い病気です。病名は、この病気を報告した医師の名前に由来します。

CDK10 遺伝子は、「サイクリンM」というたんぱく質と組になってはたらきます。サイクリンMの遺伝子(CCNQ)の変化では「STAR症候群」という別の病気が起こりますが、こちらはX染色体に関係する遺伝形式で、主に女の子に見られ、足の指の癒合や腎臓の異常などが特徴です。同じしくみに関わる遺伝子でも、病気の現れ方と遺伝のしかたは大きく異なります。

原因

CDK10 は、細胞のなかでほかのたんぱく質に目印(リン酸)をつけて、そのはたらきを調節する酵素です。サイクリンMと組になって初めてはたらくことができます。

CDK10 のはたらきのひとつに、細胞の表面にある「一次繊毛(せんもう)」というアンテナのような小さな突起の長さや形成を調節することがあります。一次繊毛は、体が形づくられる時期に周囲からの信号を受け取る大切な役割を持っています。CDK10 がはたらかないと、この繊毛の調節が乱れ、骨や脳を含む体の発育に影響が出ると考えられています。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。

症状

報告例が少ないため、症状の現れ方には個人差があります。これまでに報告されている主な症状は次のとおりです。

  • 強い成長の遅れ:身長・体重が伸びにくく、この病気のもっとも中心となる症状です
  • 背骨の形の異常:とくに首の骨(頸椎)がくっついている、形が不完全であるなどの変化が見られます
  • 発達の遅れ・知的障害:言葉や運動の発達がゆっくりで、程度には幅があります
  • 特徴的な顔立ち
  • 頭が小さめであることがあります
  • 手指など、そのほかの骨格の小さな変化を伴うことがあります

検査・診断

乳幼児期の成長の遅れ、発達の遅れをきっかけに、X線検査で背骨(とくに首の骨)の形の異常が見つかることで疑われます。妊娠中の超音波検査で赤ちゃんの小ささを指摘されることもありますが、それだけでこの病気と見分けることは困難です。

症状だけでは似た病気との区別が難しいため、確定診断は遺伝学的検査で行い、アルカイシ症候群では CDK10 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。次のお子さまの見通しを正しくお伝えするために、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。

治療

現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。治療は、お一人おひとりの症状に合わせた対症療法と、成長・発達を支える支援が中心になります。

  • 成長と栄養の管理:定期的に身長・体重を確認し、必要に応じて栄養の相談を行います
  • 背骨の定期的な評価:首の骨の異常がある場合は、整形外科で経過を見て、必要に応じて対応を検討します
  • 発達の支援:理学療法・作業療法・言語療法などの療育を、早い時期から取り入れます
  • 教育・福祉の支援:お子さまに合った学びの場や、利用できる制度についてご相談いただけます
  • ご家族への心理的支援と遺伝カウンセリング

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる CDK10 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、CDK10 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

アルカイシ症候群は常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

CDK10 はCDC2関連のセリン/スレオニンキナーゼで、サイクリンM(CCNQ 遺伝子産物)と複合体を形成して初めてキナーゼ活性を示す。CDK10/サイクリンMは転写因子 ETS2 をリン酸化してその分解を促すことが示されている。さらに一次繊毛の形成と長さを抑制的に制御しており、その欠損は繊毛形成の異常をもたらす。

2017年、複数の家系で CDK10 の両アレル性機能喪失型変異が同定され、本症候群(OMIM #617694)が確立された。患者由来線維芽細胞では繊毛の延長と繊毛シグナルの異常が認められ、Cdk10 欠損マウスでも重度の成長障害と骨格異常が再現された。中核となる表現型は、重度の成長障害、頸椎を中心とする脊椎の形成異常(椎体癒合など)、発達遅滞・知的障害、顔貌の特徴である。報告例が限られるため、遺伝型と表現型の相関や自然歴は確立していない。

パートナー分子の異常との対比が重要である——CCNQ の機能喪失はSTAR症候群(足趾合指症・内眼角離開・肛門性器奇形・腎奇形)を起こし、X連鎖顕性で主に女性に発症する。表現型は CDK10 欠損と重ならない部分が大きい。鑑別としては、クリッペル・ファイル症候群などの頸椎癒合を伴う疾患、脊椎肋骨異骨症、成長障害と発達遅滞を伴う他の繊毛病・症候群性低身長が挙がる。遺伝形式により次子再発率が大きく異なるため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。成長の遅れや背骨の異常を起こす病気には、遺伝形式の異なるものや偶発的に起こるものもあります。再発率が大きく異なるため、原因遺伝子を確定することが重要です。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. 超音波検査で赤ちゃんが小さめと指摘されることはありますが、それだけでこの病気と診断することは困難です。前のお子さまで原因遺伝子の変化が分かっている場合は、妊娠中の遺伝学的検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. STAR症候群とはどう違うのですか。

A. STAR症候群は、CDK10 と組になってはたらくサイクリンMの遺伝子の変化で起こる別の病気です。X染色体に関係する遺伝形式で主に女の子に見られ、足の指の癒合や腎臓の異常などが特徴です。アルカイシ症候群は男女どちらにも起こり、強い成長の遅れや首の骨の異常が中心です。

Q. 大人になるとどうなりますか。

A. 報告されている患者さんが少なく、多くは子どもの時期の報告のため、大人になってからの見通しはまだはっきり分かっていません。成長と発達の経過、背骨の状態を定期的に確認しながら、お子さまに合った支援を続けていくことが大切です。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Windpassinger C, Piard J, Bonnard C, et al. CDK10 mutations in humans and mice cause severe growth retardation, spine malformations, and developmental delays. Am J Hum Genet. 2017;101(3):391-403.
  • Guen VJ, Gamble C, Flajolet M, et al. CDK10/cyclin M is a protein kinase that controls ETS2 degradation and is deficient in STAR syndrome. Proc Natl Acad Sci U S A. 2013;110(48):19525-19530.
  • OMIM #617694 Al Kaissi syndrome. Online Mendelian Inheritance in Man.
  • Reiter JF, Leroux MR. Genes and molecular pathways underpinning ciliopathies. Nat Rev Mol Cell Biol. 2017;18(9):533-547.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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