概要
アルギニン血症は、体のなかでアミノ酸の一種「アルギニン」を分解する酵素(アルギナーゼ1)がうまくはたらかないために、血液中のアルギニンが増えてしまう先天代謝異常症です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ARG1(6q23.2)遺伝子の変化が原因となります。
この病気は、たんぱく質を分解したときに出るアンモニアを無毒な尿素に変える「尿素サイクル」の病気のひとつです。ただし、ほかの尿素サイクル異常症とは異なり、生まれてすぐに重い高アンモニア血症を起こすことは少なく、多くは1〜3歳ごろから、足のつっぱり(痙性まひ)や発達の遅れ・後退として、ゆっくりと症状が現れます。
頻度は数十万人に1人程度とまれな病気です。症状が脳性まひに似ているため、診断までに時間がかかることがあります。一方で、早く見つけて食事療法などを始めることで、症状の進行を抑えられる可能性がある病気です。
原因
ARG1 遺伝子は、主に肝臓と赤血球ではたらくアルギナーゼ1という酵素の設計図です。アルギナーゼ1は、尿素サイクルの最後の段階で、アルギニンを「尿素」と「オルニチン」に分解します。
この酵素がはたらかないと、アルギニンとその関連物質(グアニジノ化合物)が体にたまり、脳や脊髄の神経に少しずつ負担をかけると考えられています。これが、足のつっぱりや発達の後退といった神経の症状につながります。尿素サイクルの別の経路もある程度はたらくため、アンモニアの上昇はほかの尿素サイクル異常症よりも軽いことが多いとされます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 新生児期はほとんど症状がありません:多くは生まれたときは元気で、しばらくは順調に育ちます
- 足のつっぱり(痙性まひ):1〜3歳ごろから、つま先歩きや歩きにくさとして現れ、この病気のもっとも特徴的な症状です
- 発達の停滞・後退:いったんできていた歩行や言葉が失われていくことがあります
- てんかん発作
- 知的障害、体の成長の遅れ、頭囲が小さめになること
- たんぱく質の多い食事のあとの嘔吐、食欲不振、不機嫌、ぼんやりする
- 高アンモニア血症:頻度は低いものの、感染症や絶食をきっかけに起こることがあり、意識障害につながるおそれがあります
検査・診断
足のつっぱりや発達の後退があるお子さまで、血液のアミノ酸分析を行い、アルギニンが高い値を示すことから疑われます。尿中のオロット酸が増えていることもあります。症状が脳性まひや遺伝性痙性対麻痺に似ているため、原因のはっきりしない痙性まひでは、この病気を念頭に置いた検査が大切です。
確定診断は、赤血球などでのアルギナーゼ活性の測定や遺伝学的検査で行い、アルギニン血症では ARG1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。原因遺伝子を確定しておくことで、次のお子さまの出生前検査や、生まれてすぐの検査・治療につなげることができます。
治療
現時点で、病気そのものを根本から治す確立した治療はありませんが、血液中のアルギニンを下げる治療を早く始めて続けることで、症状の進行を抑えたり、発達を保ったりできる可能性があります。すでに起きた神経の障害は元に戻りにくいため、早期の発見と治療が重要です。
- 食事療法:たんぱく質(アルギニン)の摂取を制限し、必要なアミノ酸は特殊なミルクや補充製剤で補います
- 窒素を体の外に出す薬:安息香酸ナトリウムやフェニル酪酸ナトリウムなどを使い、アルギニンやアンモニアを下げます
- アルギニンを分解する酵素製剤:海外では承認された国もあり、新しい治療の選択肢として注目されています
- 肝移植:酵素の不足を補う方法として検討されることがありますが、手術や免疫抑制の負担があり、慎重な判断が必要です
- リハビリテーション・発作の治療:足のつっぱりに対する理学療法や装具、てんかんへの抗てんかん薬など
- 体調をくずしたときの対応:発熱や嘔吐で食べられないときは、早めに医療機関で点滴などを受けることが大切です
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる ARG1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ARG1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
アルギニン血症は常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患で、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
ARG1 がコードするアルギナーゼ1は、主に肝細胞質と赤血球に発現するマンガン依存性の加水分解酵素で、尿素サイクルの最終段階としてアルギニンを尿素とオルニチンに分解する。欠損により血漿アルギニンは基準上限の数倍に上昇し、グアニジノ酢酸、α-ケト-δ-グアニジノ吉草酸、アルギニン酸などのグアニジノ化合物の蓄積が神経毒性に関与すると考えられている。一酸化窒素産生の変化の関与も推定されているが、機序は完全には解明されていない。
尿素サイクル異常症のなかで臨床像が際立って異なる——近位の酵素欠損(CPS1、OTC、ASS1、ASL)が新生児期の重症高アンモニア血症で発症しやすいのに対し、アルギナーゼ1欠損症では新生児期の高アンモニア血症はまれで、幼児期以降に下肢優位の進行性痙性対麻痺、発達退行、てんかん、成長障害で発症するのが典型である。ARG2 による腎などでの代替的なアルギニン分解が、アンモニア上昇を比較的軽くしている一因とされる。ARG1 の変化で知られる病型は本症のみであり、重症度は残存酵素活性や治療開始時期、代謝管理の状態に左右される。
診断は血漿アミノ酸分析での高アルギニン血症、尿中オロット酸の増加、赤血球アルギナーゼ活性の著減、ARG1 両アレルの病的バリアント同定による。鑑別としては、脳性まひ、遺伝性痙性対麻痺、HHH症候群(SLC25A15)、そのほかの尿素サイクル異常症が挙がる。管理の基本はたんぱく制限と必須アミノ酸補充、窒素排泄促進薬による血漿アルギニンの低下で、近年はアルギニン分解酵素製剤(ペグジラルギナーゼ)が治療選択肢として加わりつつある。既存の神経障害は改善しにくいため、発症前診断と早期介入の意義が大きい。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。2分の1の確率で症状のないキャリアとなり、4分の1の確率で変化を受け継ぎません。ご家族の遺伝子の変化がわかっていれば、次のお子さまの出生前検査や、生まれてすぐの検査につなげることができます。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. この病気は妊娠中の超音波検査では見つけることができません。前のお子さまで診断がついていて原因の遺伝子の変化がわかっている場合は、遺伝学的な出生前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 脳性まひと言われていましたが、この病気の可能性はありますか。
A. アルギニン血症は、足のつっぱりが目立つため脳性まひと診断されていることがあります。特に、出生時に問題がなかったのに症状がゆっくり進む場合や、できていたことができなくなる場合には、血液のアミノ酸検査で確認できることがあります。主治医にご相談ください。
Q. 治療をすればふつうに生活できますか。
A. 症状が出る前、またはごく早い段階から治療を始めることで、症状の進行を抑えられる可能性があります。ただし、治療の効果には個人差があり、すでに起きた神経の障害は元に戻りにくいとされています。食事療法は長く続ける必要があるため、医療チームと二人三脚で取り組むことが大切です。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Sun A, Crombez EA, Wong D. Arginase Deficiency. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #207800 Argininemia. Online Mendelian Inheritance in Man.
- Häberle J, Boddaert N, Burlina A, et al. Suggested guidelines for the diagnosis and management of urea cycle disorders. Orphanet J Rare Dis. 2012;7:32.
- Häberle J, Burlina A, Chakrapani A, et al. Suggested guidelines for the diagnosis and management of urea cycle disorders: First revision. J Inherit Metab Dis. 2019;42(6):1192-1230.
