バラー・ジェロルド症候群

Baller-Gerold Syndrome, RECQL4

概要

バラー・ジェロルド症候群は、頭の骨のつなぎ目が早く閉じてしまう「頭蓋縫合早期癒合症」と、前腕の親指側の骨(橈骨)や親指が十分に育たない「橈側列形成不全」が組み合わさって起こる、まれな生まれつきの病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、RECQL4(8q24.3)遺伝子の変化が原因となります。

このほか、身長の伸びの遅れや、生後しばらくしてから現れる皮膚の色むら(多形皮膚萎縮)を伴うことがあります。知的発達は多くの場合で保たれます。頭の形や腕・手の形の違いから、妊娠中の超音波検査や生まれた直後に気づかれることがあります。

RECQL4 遺伝子の変化は、症状が一部重なり合う複数の病気を起こします。同じ遺伝子による病気にはロートムンド・トムソン症候群2型と RAPADILINO 症候群があり、そのなかで「頭蓋縫合早期癒合症」と「橈側列形成不全」がそろうことを特徴とするのが、このバラー・ジェロルド症候群です。

原因

RECQL4 は、DNA の二重らせんをほどく酵素(DNA ヘリカーゼ)の設計図となる遺伝子です。

細胞が分かれて増えるときには、DNA をほどいて正確に写し取る必要があります。RECQL4 は、この DNA の複製を始める段階と、傷ついた DNA を直すしくみの両方にかかわっています。このはたらきが弱まると、細胞の増殖がとくに盛んな胎児期の骨や手足、皮膚の発生に影響が出ると考えられています。ただし、なぜ頭の骨や腕・親指に症状が集中するのか、詳しいしくみはまだ十分にわかっていません。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。

症状

  • 頭蓋縫合早期癒合症:とくに額の左右の縫合(冠状縫合)が閉じやすく、額が張り出し、頭が前後に短く高い形になります
  • 橈側列形成不全:橈骨が短い、または欠けているために前腕が短く、手首が親指側へ曲がります。親指が小さい、または無いこともあります。左右で程度が違うことがあります
  • 成長の遅れ:身長が低めになることが多くみられます
  • 多形皮膚萎縮:生後数か月から数年のうちに、手足や顔の皮膚に赤み・色の濃い部分と薄い部分のまだら模様・皮膚が薄くなる変化が現れることがあります
  • ひざのお皿の骨(膝蓋骨)が小さい、または無い
  • 肛門の位置の異常や鎖肛、腎臓の形の異常を伴うことがあります
  • 知的発達は多くの場合で保たれます
  • まれに、骨肉腫やリンパ腫が報告されています

検査・診断

妊娠中の超音波検査で、前腕の骨が短い・無い、親指が見えない、手首の曲がり、頭の形の異常から疑われることがあります。生まれたあとは、X線検査で腕や手の骨を、頭部CT検査で閉じている縫合を確認します。

腕や親指の形成不全は、ほかの多くの病気でもみられます。とくにファンコニ貧血(骨髄のはたらきが落ちる病気)との区別が大切で、必要に応じて血液の検査を行います。また、妊娠中のお母さまが特定の抗てんかん薬(バルプロ酸)を服用していた場合にも、よく似た症状がみられることがあります。

確定診断は遺伝学的検査で行い、バラー・ジェロルド症候群では RECQL4 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。似た病気とは遺伝形式も将来の注意点も違うため、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。

治療

現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。それぞれの症状に合わせた治療と、成長に合わせた継続的な支援を行います。脳神経外科・形成外科・整形外科・皮膚科・小児科など、複数の診療科が連携して診ていくことが大切です。

  • 頭蓋形成手術:主に乳児期に、閉じた縫合を開いて頭の形を整え、脳が育つ空間を確保します。頭の中の圧が高くないか、目への影響がないかも確認します
  • 腕・手の治療:手首の曲がりの矯正や、人さし指を親指として使えるようにする手術(母指化術)などを検討します。作業療法で日常の動作を練習します
  • 皮膚のケア:皮膚の変化がある場合は、日焼け止めの使用など紫外線を避ける工夫をします
  • 成長と栄養の見守り
  • 腫瘍への注意:骨の痛みや腫れ、リンパ節の腫れが続くときは早めに受診し、定期的に診察を受けます
  • ご家族への遺伝カウンセリングと心理的支援

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる RECQL4 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、RECQL4 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

RECQL4 は RecQ ヘリカーゼファミリー(WRN、BLM と同じ系統)に属し、N 末端側の酵母 Sld2 類似領域が DNA 複製開始に必須であり、C 末端側のヘリカーゼ領域は DNA 修復やゲノム安定性の維持にかかわる。両アレルの機能喪失により、増殖の盛んな間葉系組織の発生が障害されると考えられている。

本遺伝子は3つのアレル性疾患を起こす——①ロートムンド・トムソン症候群2型(乳児期発症の多形皮膚萎縮、骨格異常、骨肉腫のリスクが高い)、②RAPADILINO 症候群(橈側列形成不全・膝蓋骨低形成・口蓋裂・細い鼻を特徴とし、多形皮膚萎縮を欠く。フィンランドに多い)、③バラー・ジェロルド症候群(頭蓋縫合早期癒合症+橈側列形成不全)。バラー・ジェロルド症候群の患者で経過中に多形皮膚萎縮が出現する例があり、3疾患は連続した表現型スペクトラムと捉えられている。ロートムンド・トムソン症候群では骨肉腫の発症が RECQL4 の短縮型変異と関連すると報告されており、本症でも腫瘍への長期的な注意が勧められる。

鑑別としては、ファンコニ貧血(染色体脆弱性試験で鑑別)、セトレ・ヒョッツェン症候群(TWIST1、顕性)、胎児バルプロ酸症候群、ロバーツ症候群(ESCO2)、ホルト・オーラム症候群(TBX5、顕性)、TAR 症候群が挙がる。かつて臨床的に本症とされた例の一部はこれらの疾患であったことが判明しており、遺伝形式・再発率・腫瘍や骨髄不全のリスクが大きく異なるため、遺伝子診断は管理方針と遺伝カウンセリングに直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。腕や親指の形成不全、頭蓋縫合早期癒合症は、顕性遺伝の病気や妊娠中のお薬の影響でも起こり、その場合の再発率はまったく異なります。原因遺伝子を確定することが重要です。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. 前腕の骨や親指の形成不全は、妊娠中期の超音波検査で気づかれることがあります。一方、頭の骨のつなぎ目の異常は妊娠中にはわかりにくいこともあります。前のお子さまで診断がついている場合は、妊娠早期からの検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 同じ遺伝子でほかの病気もあると聞きました。

A. はい。RECQL4 遺伝子の変化は、ロートムンド・トムソン症候群2型や RAPADILINO 症候群も起こします。バラー・ジェロルド症候群は、頭蓋縫合早期癒合症と腕・親指の形成不全がそろう点が特徴です。ただし症状は重なり合っており、成長とともに皮膚の変化など別の病気の特徴が現れることもあります。

Q. 将来、がんになりやすいのですか。

A. この病気では、まれに骨肉腫やリンパ腫が報告されています。同じ遺伝子によるロートムンド・トムソン症候群2型では骨肉腫が起こりやすいことが知られているため、定期的な診察を続け、骨の痛みや腫れが続くときは早めに受診することが勧められます。どの程度リスクがあるかは、主治医とよくご相談ください。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Van Maldergem L. Baller-Gerold Syndrome. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
  • OMIM #218600 Baller-Gerold Syndrome; BGS. Online Mendelian Inheritance in Man.
  • Van Maldergem L, Siitonen HA, Jalkh N, et al. Revisiting the craniosynostosis-radial ray hypoplasia association: Baller-Gerold syndrome caused by mutations in the RECQL4 gene. J Med Genet. 2006;43(2):148-152.
  • Kitao S, Shimamoto A, Goto M, et al. Mutations in RECQL4 cause a subset of cases of Rothmund-Thomson syndrome. Nat Genet. 1999;22(1):82-84.
  • Siitonen HA, Kopra O, Kääriäinen H, et al. Molecular defect of RAPADILINO syndrome expands the phenotype spectrum of RECQL diseases. Hum Mol Genet. 2003;12(21):2837-2844.
  • Wang LL, Gannavarapu A, Kozinetz CA, et al. Association between osteosarcoma and deleterious mutations in the RECQL4 gene in Rothmund-Thomson syndrome. J Natl Cancer Inst. 2003;95(9):669-674.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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