BEHR症候群(ベーア症候群)

BEHR syndrome, OPA1

概要

BEHR症候群(ベーア症候群)は、幼いころから視神経がやせて視力が落ちる「視神経萎縮」に、ふらつき(運動失調)や足のつっぱり(痙性)などの神経の症状が加わる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、OPA1(3q29)遺伝子の変化が原因となります。

多くは乳幼児期から小児期のはじめに、見えにくさや目の揺れ(眼振)で気づかれます。その後、歩き方の不安定さ、足のこわばり、手足のしびれなどが少しずつ目立ってきます。生まれた時点では目立った異常がないことが多く、妊娠中の超音波検査で見つかることはほとんどありません。

OPA1 遺伝子は、症状の重さが異なる複数の病気を起こします。片方の遺伝子だけの変化では、主に視力だけが低下する「常染色体顕性視神経萎縮」となり、両方の遺伝子に変化があると、視神経萎縮に神経症状が加わるこのBEHR症候群となります。さらに重い場合には、乳児期に心臓や脳が強く障害される「ミトコンドリアDNA欠乏症候群14型」となることがあります。

原因

OPA1 は、細胞のなかでエネルギーをつくる「ミトコンドリア」の膜の形を整え、ミトコンドリア同士をつなぎ合わせるはたらきをもつたんぱく質です。

視神経や小脳、脊髄の神経細胞は、たくさんのエネルギーを必要とするため、ミトコンドリアのはたらきが落ちる影響を特に受けやすいと考えられています。OPA1 のはたらきが十分でないと、ミトコンドリアがうまくエネルギーをつくれず、神経細胞が少しずつ弱っていきます。その結果、視神経萎縮やふらつきなどの症状があらわれます。

お父さま・お母さまがそれぞれキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。ただしこの遺伝子では、キャリアの方でも、変化の種類によっては軽い視力低下(顕性視神経萎縮)がみられることがあります。気づかれていないこともあるため、ご家族の目の検査が役立つ場合があります。

症状

  • 早い時期からの視神経萎縮:両目の視力が低下し、色の見分けにくさを伴うことがあります。この病気の中心となる症状です
  • 眼振(目の揺れ)、斜視:見えにくさとともに早くから気づかれることがあります
  • 運動失調:小脳のはたらきの低下により、歩き方が不安定になったり、細かい手の動きが苦手になったりします
  • 痙性(足のつっぱり):足がこわばり、つま先で歩く、転びやすいなどの症状がみられます
  • 末梢神経障害:手足のしびれや筋力の低下、足の変形(凹足)がみられることがあります
  • 眼球の動きの制限(外眼筋麻痺)、飲み込みにくさ、消化管の動きの低下がみられることがあります
  • 発達や学習の遅れを伴うことがありますが、症状の組み合わせや重さには個人差が大きい病気です

検査・診断

眼科の検査で、視神経乳頭が白っぽく見える(蒼白)ことや、視力・視野・色覚の低下から疑われます。網膜の神経線維の厚さを測る検査(光干渉断層計)では、神経線維が薄くなっていることがわかります。あわせて神経の診察、脳のMRI、神経伝導検査などで、運動失調や末梢神経障害の程度を調べます。

確定診断は遺伝学的検査で行い、BEHR症候群では OPA1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。似た症状を起こす病気はほかにも多いため、原因遺伝子を確定することは、今後の見通しや次のお子さまへの影響をお伝えするうえで大きな意味があります。

治療

現時点で、この病気を根本から治す治療はありません。治療は、症状をやわらげ、できることを広げて生活の質を保つための対症療法と支援が中心です。眼科、神経内科(小児神経科)、リハビリテーション科などが連携して長く見守ります。

  • 視覚の支援(ロービジョンケア):拡大鏡や拡大読書器、照明の工夫などで、残っている視力を生かします
  • リハビリテーション:理学療法・作業療法で、歩行やバランス、手の動きを保つ訓練を行います
  • 痙性への対応:筋肉のこわばりをやわらげる薬や装具、必要に応じて整形外科的な治療を検討します
  • 就学・生活の支援:視覚や運動の状態に合わせた学習環境、福祉制度の利用をご相談いただけます
  • 定期的な診察:視力や神経症状の変化、飲み込みや消化管の症状を確認します

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる OPA1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、OPA1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

OPA1 はミトコンドリア内膜に局在するダイナミン関連GTPアーゼで、内膜の融合、クリステ構造の維持、ミトコンドリアDNAの安定化、酸化的リン酸化の効率維持を担う。網膜神経節細胞は無髄部分が長くエネルギー要求が高いため、OPA1 機能低下の影響を最も受けやすく、視神経萎縮が全表現型に共通する中核所見となる。

本遺伝子では遺伝子量に依存した表現型の連続性がみられる——①ヘテロ接合の機能喪失型変異:常染色体顕性視神経萎縮(不完全浸透)、②ヘテロ接合のミスセンス変異(特にGTPアーゼ領域):顕性視神経萎縮プラス(難聴・外眼筋麻痺・ミオパチー・ニューロパチーを伴う)、③両アレル変異:BEHR症候群(小児期発症の視神経萎縮+小脳失調・錐体路徴候・末梢神経障害)、④より重度の両アレル変異:ミトコンドリアDNA欠乏症候群14型(乳児期の脳心筋症)となる。BEHR症候群では、単独ではほとんど症状を示さない低機能アレル(c.1146A>G、p.Ile382Met)と機能喪失型アレルの複合ヘテロ接合が多く報告されている。このため、機能喪失型アレルをもつ親が軽度の視神経萎縮を呈し得る点が、一般的な潜性疾患の保因者と異なる。

鑑別としては、3-メチルグルタコン酸尿症3型(OPA3、いわゆるCosteff症候群)、Leber遺伝性視神経症(ミトコンドリアDNA変異、母系遺伝)、Wolfram症候群(WFS1)、フリードライヒ運動失調症(FXN)、遺伝性痙性対麻痺の一部(SPG7 など)が挙がる。これらは遺伝形式が潜性・顕性・母系遺伝と異なり、次子再発率も大きく違うため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。また、この遺伝子では、片方の遺伝子の変化だけで軽い視力低下が起こることもあります。ご両親それぞれの変化の種類によって見通しが変わるため、遺伝カウンセリングで詳しくご相談ください。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. 症状は生まれたあとに少しずつあらわれるため、妊娠中の超音波検査で気づかれることはほとんどありません。ご両親の遺伝子の変化がわかっている場合は、出生前の遺伝学的検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 同じ遺伝子で目だけの病気もあると聞きました。

A. はい。OPA1 遺伝子の片方だけに変化がある場合は、主に視力が低下する「顕性視神経萎縮」となることが多く、両方に変化があるBEHR症候群では、視力低下に加えてふらつきや足のつっぱりなどの神経症状が出ることが特徴です。同じ遺伝子でも、変化の組み合わせによって症状の範囲が変わります。

Q. 症状は進みますか。

A. 視力の低下や神経症状は、小児期から思春期にかけてゆっくり進むことが多いとされますが、進み方には個人差が大きい病気です。早めにロービジョンケアやリハビリテーションを始めることで、学校生活や日常生活を支えることができます。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Delettre C, Lenaers G, Griffoin JM, et al. Nuclear gene OPA1, encoding a mitochondrial dynamin-related protein, is mutated in dominant optic atrophy. Nat Genet. 2000;26(2):207-210.
  • Bonneau D, Colin E, Oca F, et al. Early-onset Behr syndrome due to compound heterozygous mutations in OPA1. Brain. 2014;137(Pt 10):e301.
  • Carelli V, Sabatelli M, Carrozzo R, et al. ‘Behr syndrome’ with OPA1 compound heterozygote mutations. Brain. 2015;138(Pt 1):e321.
  • OMIM #210000 Behr syndrome. Online Mendelian Inheritance in Man.
  • OMIM #165500 Optic atrophy 1. Online Mendelian Inheritance in Man.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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