概要
BH4欠乏性高フェニルアラニン血症C型は、体のなかで「テトラヒドロビオプテリン(BH4)」という補酵素をくり返し使えるように戻すしくみがはたらかないために、血液中のフェニルアラニンが高くなり、脳ではたらく神経伝達物質が足りなくなる先天代謝異常症です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、QDPR(4p15.32)遺伝子の変化が原因となります。「ジヒドロプテリジン還元酵素(DHPR)欠損症」とも呼ばれます。
生まれたときは目立った症状がないことが多いものの、治療しないと生後数か月から発達の遅れ、筋緊張の異常、けいれんなどが現れ、重い神経障害につながる病気です。日本では新生児マススクリーニングで血液中のフェニルアラニンが高いことから見つかるのが一般的で、早く診断して治療を始めることが何より大切です。
BH4欠乏症には原因遺伝子の異なるいくつかの型があります。A型(PTS)・B型(GCH1)・D型(PCBD1)がBH4をつくる段階の異常であるのに対し、このC型は、使い終わったBH4を元に戻す(再生する)段階の異常です。C型では脳の葉酸が不足しやすいという特徴があり、治療でも葉酸の補充が欠かせない点が他の型と大きく異なります。
原因
QDPR 遺伝子は、ジヒドロプテリジン還元酵素(DHPR)という酵素の設計図です。
BH4は、食事に含まれるフェニルアラニンを分解する酵素や、ドーパミン・セロトニンといった脳の神経伝達物質をつくる酵素を助ける補酵素です。BH4は一度はたらくと形が変わり、DHPRによって元のBH4に戻されて、くり返し使われます。DHPRがはたらかないとBH4が足りなくなり、フェニルアラニンがたまるとともに、神経伝達物質が十分につくられなくなります。さらに、DHPRは脳の葉酸を保つことにもかかわっており、この型では脳内の葉酸が不足しやすくなります。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 新生児期は症状が目立たないことが多い:新生児マススクリーニングで見つかるのが一般的です
- 発達の遅れ:治療しないと、生後数か月ごろから首すわりなどの遅れが現れます
- 筋緊張の異常:体幹がやわらかく、手足が硬くなる、体が反り返るなど
- けいれん、目が上を向いたまま固まる発作(眼球上転発作)
- 飲み込みにくさ、よだれが多い、体温が不安定、不機嫌が続く
- 小頭症
- 脳の石灰化:脳の葉酸不足と関係し、この型に特徴的な所見です
- 治療が遅れると重い知的障害が残り、命にかかわることもあります
検査・診断
新生児マススクリーニングで血液中のフェニルアラニンが高いことから疑われます。フェニルアラニンが高い赤ちゃんの多くはフェニルケトン尿症ですが、BH4欠乏症を見逃さないために、尿や血液のプテリン(ビオプテリン・ネオプテリン)の分析と、ろ紙血を用いたDHPR酵素活性の測定が行われます。C型ではDHPR活性が著しく低いことが診断の決め手になります。
あわせて、髄液中の神経伝達物質の代謝産物や葉酸(5-メチルテトラヒドロ葉酸)を調べ、治療方針を決めます。確定診断は遺伝学的検査で行い、QDPR 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。次のお子さまの見通しを正しくお伝えするために、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、病気そのものを根本から治す治療はありませんが、早期から治療を続けることで、症状を抑え発達を支えられることがあります。治療の効果には個人差があり、開始時期が大きく影響します。治療は生涯にわたって続ける必要があり、専門の医療機関で定期的に調整します。
- フェニルアラニン制限食:血液中のフェニルアラニンを下げます。この型では、BH4の内服だけでは十分に下がらないことが多く、食事療法が中心になります
- 神経伝達物質の補充:L-ドーパ(カルビドパとの合剤)や5-ヒドロキシトリプトファンを内服し、不足するドーパミン・セロトニンを補います
- フォリン酸(活性型の葉酸)の補充:この型で特に重要な治療です。脳の葉酸不足を防ぎます。通常の葉酸(葉酸製剤)は避けるべきとされています
- けいれんや発達へのリハビリテーション・療育
- ご家族への支援:食事療法や服薬を続けるための栄養指導や相談体制
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる QDPR 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、QDPR 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
QDPR はジヒドロプテリジン還元酵素(DHPR)をコードし、芳香族アミノ酸水酸化酵素(フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン水酸化酵素)の反応で生じるキノノイド型ジヒドロビオプテリン(qBH2)をNADH依存性にBH4へ還元する再生経路を担う。欠損するとBH4が枯渇し、高フェニルアラニン血症に加え、ドーパミン・セロトニン合成障害による中枢神経症状を来す。BH4の新規合成は保たれるため、尿中ビオプテリンは正常〜高値で、BH2の比率が上昇する。
DHPR欠損症に特徴的なのは脳内葉酸欠乏である——髄液5-メチルテトラヒドロ葉酸の低下を伴い、大脳基底核などの石灰化や白質病変の一因と考えられている。治療はフォリン酸の補充が必須で、葉酸の投与は髄液葉酸をさらに低下させうるため避ける。また、BH4(サプロプテリン)投与は蓄積したBH2を増やす懸念があり、血中フェニルアラニンの管理は低フェニルアラニン食が中心となる。BH4欠乏症のなかではPTPS欠損症(A型)に次いで多い病型とされる。
鑑別としては、フェニルケトン尿症(PAH)、BH4欠乏症A型(PTS)・B型(GCH1、潜性)・D型(PCBD1、多くは一過性で軽症)、セピアプテリン還元酵素欠損症(SPR、高フェニルアラニン血症を伴わない)、顕性遺伝のGCH1変異による瀬川病が挙がる。ろ紙血DHPR活性とプテリン分析で病型を鑑別でき、病型により治療(特にフォリン酸の要否)が異なるため、早期の確定診断が予後に直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。前のお子さまで原因遺伝子の変化が確定していれば、次の妊娠での出生前検査や、出生直後からの検査・治療の準備を検討できます。
Q. 新生児マススクリーニングで見つかりますか。
A. 血液中のフェニルアラニンが高くなるため、多くは新生児マススクリーニングをきっかけに見つかります。ただし、フェニルアラニンの上がり方が軽い場合もあるため、気になる症状があるときは主治医にご相談ください。
Q. フェニルケトン尿症とは違う病気ですか。
A. はい。どちらもフェニルアラニンが高くなりますが、この病気では脳の神経伝達物質も不足するため、食事療法だけでは足りず、薬による補充が必要です。見分けるための検査が新生児期に行われます。
Q. 治療を続ければ、ふつうに成長できますか。
A. 早く治療を始めるほど、良い経過が期待できるとされています。ただし、治療を始めても発達の遅れなどが残ることがあり、経過には個人差があります。医療チームと相談しながら、食事療法と服薬を続けていくことが大切です。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
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- Ponzone A, Spada M, Ferraris S, Dianzani I, de Sanctis L. Dihydropteridine reductase deficiency in man: from biology to treatment. Med Res Rev. 2004;24(2):127-150.
- OMIM #261630 Hyperphenylalaninemia, BH4-deficient, C. Online Mendelian Inheritance in Man.
