ブーシェ・ノイハウザー症候群

Boucher-Neuhauser syndrome, PNPLA6

概要

ブーシェ・ノイハウザー症候群は、小脳の失調(ふらつき)、網膜と脈絡膜の変性による視力の低下、性腺のはたらきの低下(思春期が来ない・遅れる)の3つがそろう神経の病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、PNPLA6(19p13.2)遺伝子の変化が原因となります。

この病気は生まれたときには症状がないことがほとんどで、小児期から成人期のはじめにかけて、少しずつ症状が現れてきます。多くは思春期が来ないこと、または視力の低下や歩くときのふらつきをきっかけに気づかれます。妊娠中の超音波検査で見つかることは、まずありません。

PNPLA6 遺伝子は、症状の組み合わせが異なる複数の病気を起こします。ブーシェ・ノイハウザー症候群の特徴は、「失調・網脈絡膜変性・性腺機能低下」の3つがそろうことです。同じ遺伝子の変化でも、網膜の変性がなく失調と性腺機能低下だけの場合はゴードン・ホームズ症候群、足のつっぱりが中心の場合は遺伝性痙性対麻痺39型、より早く重い視力障害と低身長・まつ毛が長いなどの特徴を伴う場合はオリバー・マクファーレン症候群と呼ばれます。

原因

PNPLA6 は、「神経障害標的エステラーゼ(NTE)」という酵素の設計図となる遺伝子です。

この酵素は、細胞を包む膜の材料であるリン脂質(ホスファチジルコリン)の量を調整するはたらきをもっています。神経細胞や網膜の細胞、ホルモンの指令を出す脳の部分(視床下部・下垂体)は、膜の状態を正しく保つことがとくに大切な細胞です。酵素のはたらきが弱まると、これらの細胞が長い年月をかけて少しずつ傷み、ふらつき・視力の低下・性ホルモンの不足が起こると考えられています。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。

症状

  • 小脳性運動失調:歩くときのふらつき、手の動きのぎこちなさ、話し方が不明瞭になるなど。多くは10代〜30代ごろに始まり、ゆっくり進みます
  • 網脈絡膜変性による視力の低下:この病気を他の型と区別する大切な所見です。視力の低下や見える範囲の狭まりが、年齢とともに進むことがあります
  • 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症:性ホルモンを出す指令が弱く、思春期が来ない・遅れる、月経がない、二次性徴が乏しいなど
  • 眼の動きの異常(眼振など)
  • 一部の方で、手足のしびれ(末梢神経障害)や足のつっぱり
  • 症状の出る時期や重さは、同じご家族のなかでも差があります

検査・診断

ふらつき、視力の低下、思春期の遅れの組み合わせから疑われます。頭部MRIで小脳の萎縮、眼底検査で網膜と脈絡膜の変性、血液検査で性腺刺激ホルモン(LH・FSH)と性ホルモンがともに低いことが特徴です。

確定診断は遺伝学的検査で行い、ブーシェ・ノイハウザー症候群では PNPLA6 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。症状が似た病気は多く、原因遺伝子を確定することは、今後の見通しやご家族への影響を正しくお伝えするために大きな意味があります。

治療

現時点で、失調や網膜の変性そのものを治したり、進行を止めたりする治療はありません。一方で、性ホルモンの不足はホルモン補充療法で補うことができ、それぞれの症状に合わせた治療と支援で、生活の質を保つことを目指します。

  • ホルモン補充療法:二次性徴を促し、骨の健康を保つために、性ホルモンを補います。妊娠を希望される場合は、専門医と相談しながら治療を検討します
  • リハビリテーション:理学療法・作業療法・言語療法で、歩く力や日常の動作を保ちます
  • 眼科での定期的な診察とロービジョンケア:拡大鏡などの補助具の活用、生活や学業・仕事の工夫を支援します
  • 転倒の予防と生活環境の調整:杖や手すりなど、必要に応じて取り入れます
  • ご本人・ご家族への心理的支援と福祉制度の活用

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる PNPLA6 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、PNPLA6 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

PNPLA6 は神経障害標的エステラーゼ(NTE)をコードし、小胞体膜に局在してホスファチジルコリンをグリセロホスホコリンへ脱アシル化するリゾホスホリパーゼ/ホスホリパーゼB活性をもつ。NTE は有機リン化合物による遅発性神経障害の標的分子として知られてきた。両アレル性の機能低下変異により膜リン脂質恒常性が破綻し、小脳プルキンエ細胞、網膜色素上皮・視細胞、視床下部—下垂体系が選択的に障害される。

本遺伝子は連続的な表現型スペクトラムを形成する——①遺伝性痙性対麻痺39型(上位・下位運動ニューロン障害が主体)、②ゴードン・ホームズ症候群(小脳失調+低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)、③ブーシェ・ノイハウザー症候群(②に網脈絡膜ジストロフィーが加わる三徴)、④オリバー・マクファーレン症候群およびローレンス・ムーン症候群(乳幼児期からの重度網脈絡膜変性、睫毛乱生・長睫毛、低身長、下垂体機能低下)。ブーシェ・ノイハウザー症候群は網脈絡膜ジストロフィーの存在でゴードン・ホームズ症候群と区別され、視機能障害の発症は④より遅く、小児期〜若年成人期に顕在化することが多い。残存酵素活性と表現型の重症度との相関が示唆されている。

鑑別としては、RNF216・OTUD4・STUB1 関連の失調+性腺機能低下症候群、脊髄小脳失調症7型(ATXN7、顕性遺伝で網膜変性を伴う)、フリードライヒ失調症(FXN)、ミトコンドリア病、バルデ・ビードル症候群などが挙がる。これらは遺伝形式が異なり、顕性遺伝の脊髄小脳失調症7型では次子再発率が50%となるため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。キャリアのご両親から生まれたお子さまが、症状のないキャリアとなる確率は2分の1です。症状が似ていても遺伝形式の異なる病気があるため、原因遺伝子を確定することが重要です。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. この病気は生まれたあと、成長とともに症状が現れるため、妊娠中の超音波検査ではまず分かりません。ご家族ですでに原因となる変化が分かっている場合や、ご両親がキャリアと分かっている場合は、遺伝子を調べる出生前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 同じ遺伝子で別の病気もあると聞きました。

A. はい。PNPLA6 遺伝子の変化は、症状の組み合わせや重さが異なるいくつかの病気を起こします。ブーシェ・ノイハウザー症候群は、ふらつき・視力の低下・思春期の遅れの3つがそろう型です。視力の問題がない場合はゴードン・ホームズ症候群、幼いころから重い視力障害が出る場合はオリバー・マクファーレン症候群と呼ばれます。

Q. 大人になってからの生活はどうなりますか。

A. 症状はゆっくり進むことが多く、進み方には個人差があります。ふらつきや視力の低下に対しては、リハビリテーションや補助具、生活環境の工夫で支えます。性ホルモンの不足はホルモン補充療法で補うことができます。定期的に神経内科・眼科・内分泌科で診察を受け、その時々に合った支援を受けることが大切です。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Synofzik M, Gonzalez MA, Lourenco CM, et al. PNPLA6 mutations cause Boucher-Neuhauser and Gordon Holmes syndromes as part of a broad neurodegenerative spectrum. Brain. 2014;137(Pt 1):69-77.
  • Topaloglu AK, Lomniczi A, Kretzschmar D, et al. Loss-of-function mutations in PNPLA6 encoding neuropathy target esterase underlie pubertal failure and neurological deficits in Gordon Holmes syndrome. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99(10):E2067-E2075.
  • Hufnagel RB, Arno G, Hein ND, et al. Neuropathy target esterase impairments cause Oliver-McFarlane and Laurence-Moon syndromes. J Med Genet. 2015;52(2):85-94.
  • Rainier S, Bui M, Mark E, et al. Neuropathy target esterase gene mutations cause motor neuron disease. Am J Hum Genet. 2008;82(3):780-785.
  • OMIM #215470 Boucher-Neuhauser syndrome. Online Mendelian Inheritance in Man.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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