ブルンナー症候群

Brunner syndrome, MAOA

概要

ブルンナー症候群は、脳のなかで気分や行動にかかわる物質(モノアミン)を分解する酵素がはたらかないために、軽い知的発達の遅れと、衝動的な行動や攻撃的な行動が男性に現れる病気です。X連鎖潜性(劣性)遺伝の形式をとり、X染色体(Xp11.3)にある MAOA 遺伝子の変化が原因となります。

この病気は1993年に、オランダの一つの家系で、数世代にわたって男性だけに同じような行動の問題がみられたことから報告されました。その後に報告された家系はごくわずかで、きわめてまれな病気です。体の形の異常はほとんどなく、妊娠中の超音波検査で気づかれることはありません。

なお、MAOA 遺伝子には、多くの人がもっている「はたらきの強さが少し違うだけの、よくある個人差(多型)」もあります。これは病気ではなく、ブルンナー症候群のように酵素のはたらきが完全に失われる変化とは別のものです。また、MAOA を含む X 染色体の広い範囲が欠けると、目の病気(ノリエ病)などを合わせもつ別の重い病気になることがあります。

原因

MAOA 遺伝子は、モノアミン酸化酵素A(MAO-A)という酵素の設計図です。

脳の神経細胞どうしは、セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンといった「モノアミン」と呼ばれる物質をやりとりして情報を伝えています。MAO-A は、使い終わったモノアミンを分解して、量を適切に保つ役割をもっています。この酵素がはたらかないと、モノアミンが分解されずにたまり、気分や衝動の調整、ストレスへの反応がうまくいかなくなると考えられています。

MAOA 遺伝子は X 染色体にあります。男性は X 染色体を1本しかもたないため、変化した遺伝子を受け継ぐと発症します。女性は X 染色体を2本もつため、1本に変化があってももう1本がはたらきを補い、通常は症状のないキャリア(保因者)となります。多くの場合、キャリアのお母さまから息子さんに受け継がれます(X連鎖潜性遺伝)。

症状

症状は主に男性に現れます。報告が少ないため、同じ家系のなかでも程度には幅があります。

  • 軽い知的発達の遅れ:境界域から軽度のことが多く、学習のつまずきとして気づかれます
  • 衝動的・攻撃的な行動:怒りやストレスをきっかけに、感情や行動を抑えにくくなります
  • 報告された家系では、放火や暴力などの問題行動がみられた例があります
  • 睡眠の障害(寝つきの悪さ、夜中に何度も目が覚めるなど)
  • 顔などが急に赤くなる、汗をかくといった発作的な症状
  • 自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症に似た特徴がみられることがあります
  • 体つきや顔つきに目立った特徴はほとんどありません

遺伝子の変化があるからといって、必ず問題行動につながるわけではありません。育つ環境や周囲の支え、早い時期からの支援によって、日々の暮らしは大きく変わります。

検査・診断

幼児期から学童期にかけて、発達の遅れや、かんしゃく・攻撃的な行動が目立つことから医療機関を受診し、疑われることが多い病気です。母方の親族の男性に同じような症状の方がいることが手がかりになります。

尿や血液の検査で、モノアミンが分解されてできる物質が少なく、分解される前の物質が多いという特徴的なパターンがみられ、診断の参考になります。確定診断は遺伝学的検査で行い、MAOA 遺伝子の変化を確認します。お母さまがキャリアかどうかを調べることは、ごきょうだいや次のお子さまの見通しを考えるうえで大きな意味があります。

治療

現時点で、この病気を根本から治す治療はありません。症状に合わせた対症療法と、ご本人とご家族を長く支える体制づくりが中心になります。

  • 発達と学習の支援:療育や特別支援教育など、ご本人に合った学びの場を整えます
  • 行動への支援:怒りやストレスへの対処法を一緒に身につけるなど、心理・行動面の専門的な支援を行います
  • お薬の使い方への注意:一部の抗うつ薬など、モノアミンを増やすはたらきのお薬は、体のなかでモノアミンが多くなりすぎるおそれがあるため、慎重に判断する必要があります。受診の際には診断名を必ず伝えてください
  • 食事の工夫:熟成したチーズなど「チラミン」を多く含む食品を控えることが勧められる場合があります。主治医とご相談ください
  • 睡眠の改善:生活リズムを整え、必要に応じて治療を行います
  • ご家族への支援:ご家族だけで抱え込まず、医療・教育・福祉の窓口と連携することが大切です

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる MAOA 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、MAOA 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

X連鎖潜性(劣性)遺伝の疾患は、お母さまが症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、男の子では2分の1の確率で発症し、女の子では2分の1の確率でお母さまと同じキャリアとなります。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

MAOA(Xp11.3)はミトコンドリア外膜に局在するモノアミン酸化酵素Aをコードし、セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミンの酸化的脱アミノ化を担う。Brunner らは1993年、オランダの大家系で境界域の知的障害と衝動的攻撃性を示す罹患男性に、エクソン8のナンセンス変異(p.Gln296Ter)による MAO-A 完全欠損を同定した。

生化学的には、尿中ノルメタネフリン・セロトニンなど基質側代謝物の上昇と、5-HIAA・VMA・HVA など脱アミノ化産物の低下が特徴で、血中セロトニン高値も報告されている。その後、2014年以降にミスセンス変異による複数家系が報告され、自閉的特徴、睡眠障害、発作性の紅潮などの表現型の広がりが示された。セロトニン症候群様の病態が想定されることから、低チラミン食や、セロトニン作動薬・MAO阻害薬の回避が提案されているが、エビデンスは症例報告レベルにとどまる。保因女性は一般に無症状である。

本症は、プロモーター領域の反復配列多型(MAOA-uVNTR)による活性の個人差とは明確に区別される。uVNTR は集団内でありふれた多型で、環境要因との相互作用が研究されているが、単独で疾患を引き起こすものではない。また、MAOA・MAOB・NDP を含む Xp11.3 の欠失は、ノリエ病に重度知的障害を伴う隣接遺伝子症候群となり、本症とは臨床像が異なる。鑑別としては、他の X 連鎖知的障害や、モノアミン代謝異常症(芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素欠損症など)が挙がり、尿中モノアミン代謝物の測定と遺伝子解析が診断に有用である。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は X 連鎖潜性遺伝のため、お母さまがキャリアの場合、男の子では2分の1の確率で発症し、女の子では2分の1の確率でキャリアとなります。まれに、お母さまはキャリアではなく、お子さまに新たに遺伝子の変化が起きていることもあります。お母さまがキャリアかどうかで見通しが大きく異なるため、遺伝学的検査で確認することが重要です。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. この病気は体の形の異常をともなわないため、妊娠中の超音波検査で気づかれることはありません。ご家族に診断がついている場合や、お母さまがキャリアであることが分かっている場合は、遺伝学的検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 「攻撃性の遺伝子」と聞いて心配です。

A. MAOA 遺伝子には、多くの人がもつよくある個人差があり、話題として取り上げられることがあります。ブルンナー症候群は、酵素のはたらきが完全に失われるきわめてまれな病気で、こうした個人差とは別のものです。また、この病気であっても行動は環境や支援によって大きく変わり、遺伝子だけで人の行動が決まるわけではありません。

Q. キャリアの女性に症状は出ますか。

A. これまでの報告では、キャリアの女性は通常は症状がありません。もう1本の X 染色体にある遺伝子がはたらきを補うためです。ただし報告数が少ないため、気になることがあれば遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Brunner HG, Nelen M, Breakefield XO, Ropers HH, van Oost BA. Abnormal behavior associated with a point mutation in the structural gene for monoamine oxidase A. Science. 1993;262(5133):578-580.
  • Brunner HG, Nelen MR, van Zandvoort P, et al. X-linked borderline mental retardation with prominent behavioral disturbance: phenotype, genetic localization, and evidence for disturbed monoamine metabolism. Am J Hum Genet. 1993;52(6):1032-1039.
  • Piton A, Poquet H, Redin C, et al. 20 ans après: a second mutation in MAOA identified by targeted high-throughput sequencing in a family with altered behavior and cognition. Eur J Hum Genet. 2014;22(6):776-783.
  • Palmer EE, Leffler M, Rogers C, et al. New insights into Brunner syndrome and potential for targeted therapy. Clin Genet. 2016;89(1):120-127.
  • OMIM #300615 Brunner syndrome. Online Mendelian Inheritance in Man.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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