概要
シャルコー・マリー・トゥース病3型は、手足の神経(末梢神経)を包む「髄鞘(ずいしょう)」がうまく保たれないために、乳幼児期から手足の筋力低下や感覚の低下が起こる、遺伝性の神経の病気です。デジェリン・ソッタス病とも呼ばれます。このページで扱う型は常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、PRX(19q13.2)遺伝子の変化が原因となります。
シャルコー・マリー・トゥース病は遺伝性の末梢神経の病気の総称で、多くは思春期から成人期にかけて足の筋力低下で気づかれます。そのなかで3型は、発症が乳児期〜幼児期早期と早く、神経の信号を伝える速さが極端に遅くなる重い型です。歩き始めが遅れる、転びやすい、足もとがふらつくといったことで気づかれることが多い病気です。
PRX 遺伝子の変化は、重さの異なる2つの病気を起こします。より早く・より重く発症するのがこの3型(デジェリン・ソッタス病)で、同じ遺伝子の変化で症状が比較的ゆるやかな場合は、シャルコー・マリー・トゥース病4F型と呼ばれます。また、3型そのものは PRX 以外の遺伝子(PMP22、MPZ、EGR2 など)でも起こり、その場合は遺伝の仕方が異なることがあります。
原因
PRX 遺伝子は、ペリアキシンというたんぱく質の設計図です。ペリアキシンは、末梢神経の髄鞘をつくる「シュワン細胞」のなかではたらきます。
髄鞘は、電線を包むビニールのように神経の線維を何重にも巻いて、電気の信号をすばやく伝えるはたらきをしています。ペリアキシンは、髄鞘をシュワン細胞の外側の膜につなぎとめ、髄鞘の形を長く安定して保つ役目を担っています。ペリアキシンがはたらかないと、いったんできた髄鞘が崩れたり、こぶのように折れ曲がったりして、信号の伝わり方が大きく遅れます。その結果、筋肉に指令が届きにくくなり、皮膚からの感覚も脳に伝わりにくくなります。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 運動発達の遅れ:首すわり・おすわり・ひとり歩きが遅れることで気づかれます
- 手足の筋力低下と筋肉のやせ:足先やすねから始まり、手指にも広がります
- 感覚の低下とふらつき:PRX が原因の場合は、足の位置や振動を感じる感覚が強く低下し、目を閉じるとふらつきやすいことが特徴です
- 腱反射(膝などをたたいたときの反射)の消失
- 足の変形:土踏まずが高くなる凹足(おうそく)、つま先が下がる下垂足
- 背骨の側弯(そくわん):成長とともに目立ってくることがあります
- 手足のしびれや痛みを感じることがあります
- 知的発達は通常は保たれます。症状はゆっくり進むことが多く、歩く力が長く保たれる方もいれば、杖や車いすが必要になる方もいます
検査・診断
乳幼児期の運動発達の遅れや歩き方の異常から疑われます。神経伝導検査(皮膚の上から神経に小さな電気刺激を与え、信号の伝わる速さを測る検査)で、伝わる速さが極端に遅いことが3型の大きな特徴です。神経の生検(一部を取って顕微鏡で調べる検査)では、髄鞘が薄く、壊れては作り直された跡が見られます。
確定診断は遺伝学的検査で行い、PRX が原因の3型では PRX 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。3型は原因遺伝子によって遺伝の仕方が異なるため、次のお子さまの見通しを正しくお伝えするには、原因遺伝子を確定することが欠かせません。
なお、この病気は妊娠中の超音波検査で気づかれることはほとんどありません。
治療
現時点で、この病気を根本から治す治療はありません。治療の中心は、体の機能をできるだけ保ち、日常生活を送りやすくするためのリハビリテーションと支援です。小児神経科、整形外科、リハビリテーション科などが連携して長く見守ります。
- リハビリテーション:理学療法・作業療法で筋力や関節の動きを保ち、手先の動作を助けます
- 装具:足首を支える短下肢装具などで、歩きやすさと転倒予防を図ります
- 整形外科的な治療:足の変形や側弯が強い場合に、手術を検討することがあります
- 痛みへの対応:神経の痛みがある場合は、お薬で和らげます
- 神経に負担をかけるお薬への注意:一部の抗がん剤(ビンクリスチンなど)は症状を悪化させるおそれがあるため、受診の際は病名を伝えてください
- 園・学校生活や就労の支援、ご家族への心理的支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる PRX 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、PRX 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
PRX はシュワン細胞に発現するペリアキシンをコードし、選択的スプライシングによりL型・S型の2つのアイソフォームを生じる。L型ペリアキシンは DRP2 およびジストログリカンと複合体を形成し、髄鞘の最外層の膜を基底膜側の細胞外基質につなぎとめ、カハール帯の形成と髄鞘の長期的な安定化を担う。欠損マウスでは髄鞘形成自体は進むが、加齢とともに脱髄・髄鞘の局所的な折れ込みと神経障害性疼痛様の行動が現れる。
ヒトの PRX 病的変異の多くはナンセンス変異やフレームシフト変異で、L型ペリアキシンの C 末端側を欠く。臨床像は連続的で、乳幼児期発症で運動神経伝導速度が著明に低下(しばしば 10 m/s 未満)するデジェリン・ソッタス病(3型)から、より遅発で緩徐進行の4F型までの幅をもつ。PRX 関連ニューロパチーの特徴は、早期発症にもかかわらず進行が比較的緩徐であること、深部感覚障害と感覚性運動失調が目立つことで、神経肥厚や脳脊髄液蛋白の上昇を伴うことがある。腓腹神経生検では著明な髄鞘の菲薄化・脱落、タマネギ様構造、髄鞘の局所的な折れ込みを認める。
3型は遺伝的に不均一であり、PMP22、MPZ、EGR2 の顕性変異(多くは新生突然変異)でも同様の表現型を呈する。そのほか鑑別としては、他の常染色体潜性の脱髄型である4型(GDAP1、MTMR2、SH3TC2、FGD4 など)、先天性髄鞘形成不全ニューロパチー、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーが挙がる。次子再発率は潜性型で25%、顕性の新生突然変異ではごく低率と大きく異なるため、原因遺伝子の同定は遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. PRX が原因の場合は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。一方、3型は別の遺伝子の新生突然変異で起こることもあり、その場合の再発率はごくわずかです。再発率が大きく異なるため、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. この病気は、妊娠中の超音波検査で見つかることはほとんどありません。ご家族で PRX の変化がすでに分かっている場合は、遺伝学的検査で妊娠中に調べることを検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 同じ遺伝子で軽い病気もあると聞きました。
A. はい。PRX 遺伝子の変化では、乳幼児期から症状が出る3型のほかに、発症がより遅く、症状の進み方がゆるやかなシャルコー・マリー・トゥース病4F型があります。同じご家族のなかでも症状の出方に幅があることがあります。
Q. 歩けるようになりますか。
A. 歩き始めは遅れることが多いものの、PRX が原因の場合は症状の進み方が比較的ゆっくりで、装具などを使いながら長く歩ける方も少なくありません。一方で、成長とともに杖や車いすが必要になる方もおり、見通しには個人差があります。リハビリテーションを続けながら、医療チームとよく相談してください。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Boerkoel CF, Takashima H, Stankiewicz P, et al. Periaxin mutations cause recessive Dejerine-Sottas neuropathy. Am J Hum Genet. 2001;68(2):325-333.
- Guilbot A, Williams A, Ravisé N, et al. A mutation in periaxin is responsible for CMT4F, an autosomal recessive form of Charcot-Marie-Tooth disease. Hum Mol Genet. 2001;10(4):415-421.
- Takashima H, Boerkoel CF, De Jonghe P, et al. Periaxin mutations cause a broad spectrum of demyelinating neuropathies. Ann Neurol. 2002;51(6):709-715.
- Bird TD. Charcot-Marie-Tooth Hereditary Neuropathy Overview. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #145900 Dejerine-Sottas Disease. Online Mendelian Inheritance in Man.
- OMIM #614895 Charcot-Marie-Tooth Disease, Type 4F. Online Mendelian Inheritance in Man.
