概要
シャルコー・マリー・トゥース病4B1型は、手足の神経(末梢神経)を包む「髄鞘(ずいしょう)」が正しく保たれないために、手足の筋力低下や感覚の低下が少しずつ進む遺伝性の神経の病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、MTMR2(11q21)遺伝子の変化が原因となります。
シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は遺伝性の末梢神経の病気の総称で、原因遺伝子によって多くの型に分けられます。そのなかで4型は常染色体潜性遺伝で髄鞘が傷む型をまとめたもので、4B1型は乳幼児期に発症し、症状が比較的重い型です。顔の筋肉や飲み込み、呼吸にかかわる神経にまで影響が及ぶことがあるのが、この型の大きな特徴です。
名前の似た型に4B2型(SBF2 遺伝子)と4B3型(SBF1 遺伝子)があります。いずれも顕微鏡で見ると髄鞘が折れ曲がって重なる特徴的な変化が共通していますが、原因遺伝子が異なります。4B1型は MTMR2 遺伝子が原因で、4B2型に比べて発症後の進み方が速く、顔や呼吸の筋肉にまで症状が出やすい傾向があります。
原因
MTMR2 遺伝子は、細胞膜の成分(リン脂質)の一部を切り取って調整する酵素の設計図です。この酵素は、細胞のなかで物を運んだり、膜を作り直したりするしくみの調整役としてはたらいています。
末梢神経では、シュワン細胞という細胞が神経の線維に何重にも巻きついて髄鞘をつくり、電線の被覆のように信号を速く伝えるはたらきをしています。MTMR2 がはたらかないと、膜の調整がうまくいかず、髄鞘が余分にできて折れ曲がったり、外側にはみ出したりするようになります。その結果、神経の信号が伝わりにくくなり、やがて神経の線維そのものも傷んで、筋力や感覚が低下していきます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 乳幼児期からの発症:多くは歩き始めのころから幼児期に、歩き方の不安定さや転びやすさで気づかれます
- 手足の先から始まる筋力低下と筋肉のやせ:足首が上がりにくくなり(下垂足)、つまずきやすくなります。進むと手の細かい動作も難しくなります
- 感覚の低下:手足の先の触った感じや振動の感じ方が鈍くなります
- 足の変形(凹足)や背骨の曲がり(側弯)
- 顔の筋肉や飲み込みにかかわる神経の障害:表情がつくりにくい、むせやすいなどの症状が出ることがあり、この型の特徴です
- 呼吸の筋肉(横隔膜)や声帯の動きの低下:病気が進むと呼吸の力が弱くなることがあり、注意深い経過観察が必要です
- 症状は少しずつ進み、成人期には車いすが必要になる方も少なくありません。知的な発達は通常保たれます
検査・診断
幼少期からの手足の筋力低下や歩き方の異常から疑われます。神経伝導検査で、神経の信号が伝わる速さが著しく遅くなっていることが確認され、髄鞘が傷むタイプの神経障害であることがわかります。
以前は神経の一部を採って顕微鏡で調べる神経生検で、髄鞘が折れ曲がって重なる特徴的な所見を確認することが診断の手がかりでした。現在は、確定診断は遺伝学的検査で行い、シャルコー・マリー・トゥース病4B1型では MTMR2 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。シャルコー・マリー・トゥース病は型によって遺伝形式や見通しが異なるため、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、この病気を根本から治す治療はありません。治療の中心は、症状に合わせたリハビリテーションと装具、合併症への対応で、できるだけ長く自立した生活を保つことを目指します。
- リハビリテーション:筋力や関節の動く範囲を保つための理学療法・作業療法
- 装具・補助具:下垂足に対する短下肢装具、杖や車いすなどで移動を助けます
- 整形外科的な治療:足の変形や側弯が強い場合に手術を検討することがあります
- 呼吸と飲み込みの定期的な評価:呼吸の力が弱くなった場合は、夜間の呼吸補助などを検討します
- 神経に負担をかける薬への注意:一部の抗がん剤など末梢神経を傷めやすい薬は、主治医と相談のうえで慎重に使います
- 学校生活・就労・福祉制度の支援とご家族への心理的支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる MTMR2 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、MTMR2 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
MTMR2(myotubularin-related protein 2)はミオチューブラリンファミリーに属する活性型のホスホイノシチドホスファターゼで、PI(3)P および PI(3,5)P2 の3位リン酸を脱リン酸化する。シュワン細胞ではエンドソーム・リソソーム系の膜輸送と膜の恒常性を調節しており、機能喪失により髄鞘の局所的な過剰形成(myelin outfolding/focally folded myelin)が生じる。Mtmr2 欠損マウスでも同様の髄鞘の折り返しが再現され、あわせて精子形成障害がみられる。
MTMR2 は触媒活性をもたない MTMR13(SBF2)および MTMR5(SBF1)と複合体を形成する——このため、それぞれの欠損が同じ病理像をもつ4B1型(MTMR2)、4B2型(SBF2)、4B3型(SBF1)を生じる。臨床的には、4B1型は乳幼児期発症で進行が速く、顔面・球麻痺、声帯麻痺、横隔膜麻痺など脳神経・呼吸筋の障害を伴いやすい点が特徴で、運動神経伝導速度は概ね 15〜20 m/s 以下と高度に低下する。4B2型は進行がやや緩やかで、一部に早期発症緑内障を合併することが知られる。
鑑別としては、ほかの常染色体潜性脱髄型(CMT4A:GDAP1、CMT4C:SH3TC2、CMT4F:PRX など)、乳児期発症の重症脱髄型であるデジェリン・ソッタス病(PMP22、MPZ、EGR2 など、顕性の新生変異を含む)、CMT1A(PMP22 重複)が挙がる。これらは遺伝形式が異なり、次子再発率が25%(潜性)、50%(顕性)、ほぼ0%(新生変異)と大きく違うため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。シャルコー・マリー・トゥース病には顕性遺伝の型も多く、型によって再発率は大きく異なります。正しい見通しをお伝えするために、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中の超音波検査で分かりますか。
A. この病気は生まれたあとに症状が現れるため、妊娠中の超音波検査で見つけることは通常できません。ご家族に診断のついた方がいる場合やご両親がキャリアと分かっている場合は、遺伝学的検査による出生前診断を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 4B2型や4B3型とはどう違うのですか。
A. いずれも髄鞘が折れ曲がる同じような変化を起こしますが、原因遺伝子が異なります。4B1型は MTMR2 遺伝子が原因で、幼いころから症状が出て、顔や飲み込み、呼吸の筋肉にも影響が出やすいことが特徴です。どの型かは遺伝学的検査で確定します。
Q. 将来、歩けなくなりますか。
A. 症状は少しずつ進み、成人期に車いすが必要になる方も少なくありません。ただし進み方には個人差があります。装具やリハビリテーション、呼吸や飲み込みの定期的な確認によって、生活の質を保つための支援を続けることが大切です。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Bolino A, Muglia M, Conforti FL, et al. Charcot-Marie-Tooth type 4B is caused by mutations in the gene encoding myotubularin-related protein-2. Nat Genet. 2000;25(1):17-19.
- Quattrone A, Gambardella A, Bono F, et al. Autosomal recessive hereditary motor and sensory neuropathy with focally folded myelin sheaths: clinical, electrophysiologic, and genetic aspects of a large family. Neurology. 1996;46(5):1318-1324.
- Bolino A, Bolis A, Previtali SC, et al. Disruption of Mtmr2 produces CMT4B1-like neuropathy with myelin outfolding and impaired spermatogenesis. J Cell Biol. 2004;167(4):711-721.
- Bird TD. Charcot-Marie-Tooth Hereditary Neuropathy Overview. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #601382 Charcot-Marie-Tooth disease, type 4B1. Online Mendelian Inheritance in Man.
