概要
シャルコー・マリー・トゥース病4D型は、手足の末梢神経がうまくはたらかなくなり、足先・手先から筋力の低下や筋肉のやせ、感覚の低下がゆっくり進む遺伝性の神経の病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、NDRG1(8q24.22)遺伝子の変化が原因となります。
シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は遺伝性の末梢神経の病気の総称で、原因遺伝子によって多くの型に分かれます。そのなかで4D型は、10歳ごろまでの早い時期に歩き方の異常で気づかれ、多くの場合、思春期以降に「聞こえにくさ(難聴)」が加わることが大きな特徴です。最初に報告された地域の名前から、「遺伝性運動感覚性ニューロパチー・ロム型(HMSN-Lom)」とも呼ばれます。
同じ「4型」には、GDAP1 遺伝子による4A型、SH3TC2 遺伝子による4C型など、原因遺伝子の異なる型がいくつもあります。4D型は NDRG1 遺伝子が原因であること、難聴をともないやすいこと、ヨーロッパのロマの人々に共通する変化(創始者変異)が多く見つかっていることで、ほかの型と区別されます。知的な発達や寿命には大きな影響がないことが多い病気です。
原因
NDRG1 は、末梢神経を包んで保護している「シュワン細胞」で多くつくられるたんぱく質の設計図です。
末梢神経は、電線の被覆のような「髄鞘(ずいしょう)」に包まれることで、信号を速く正確に伝えます。髄鞘はシュワン細胞がつくり、保っています。NDRG1 がはたらかないと、シュワン細胞が髄鞘を正しく保てなくなり、神経の信号の伝わり方が大きく遅くなります。時間がたつと神経の芯(軸索)も傷み、筋力の低下や感覚の低下が少しずつ進みます。聴神経も同じように影響を受けるため、難聴が起こると考えられています。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 歩き方の異常:多くは10歳ごろまでに、つまずきやすい、走るのが遅いといった形で気づかれます
- 足先・下腿の筋力低下と筋肉のやせ:足首を持ち上げにくくなり、つま先が垂れる歩き方になります
- 足の変形:土踏まずが高くなる(凹足)、指が曲がるなどの変形が起こります
- 手の筋力低下:10代ごろから手先にも広がり、細かい作業が難しくなることがあります
- 手足の感覚の低下、腱反射の消失
- 難聴:この型に特徴的な症状です。多くは思春期から成人期にかけて現れ、言葉の聞き取りにくさとして気づかれます
- 症状はゆっくり進みます。成人期以降に杖や車いすが必要になる方もいますが、進み方には個人差があります
検査・診断
幼少期からの歩き方の異常や足の変形をきっかけに、神経伝導検査を行います。4D型では神経の信号の伝わる速さが著しく遅く、成人では信号がほとんど記録できないこともあります。聴力検査で難聴の有無と程度も調べます。妊娠中の超音波検査で見つかる病気ではありません。
確定診断は遺伝学的検査で行い、シャルコー・マリー・トゥース病4D型では NDRG1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。CMTは原因遺伝子が非常に多く、遺伝の仕方も型によって異なるため、原因遺伝子を確定することはご本人の見通しと次のお子さまへの影響を知るうえで大きな意味があります。
治療
現時点で、この病気を根本から治す治療はありません。治療の中心は、できるだけ長く自立した生活を続けられるようにするためのリハビリテーションや補助具、そして難聴への対応です。
- リハビリテーション:筋力の維持、関節が硬くなるのを防ぐストレッチ、歩行の練習
- 装具:足首を支える短下肢装具などで、歩きやすさと転倒予防をはかります
- 整形外科的な治療:足の変形が強い場合は、手術を検討することがあります
- 難聴への対応:定期的な聴力検査、補聴器の使用、学校や職場での聞こえの配慮。状態によっては人工内耳を検討することもあります
- 神経を傷める薬への注意:一部の抗がん剤など、末梢神経に影響する薬は症状を悪化させるおそれがあるため、治療を受ける際は病名を医師に伝えてください
- 生活と心理面の支援:就学・就労の相談、福祉制度の活用、ご本人とご家族への継続的な支え
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる NDRG1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、NDRG1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。ご夫婦がキャリアかどうかを調べる検査もあります。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
NDRG1(N-myc downstream regulated 1)は8q24.22に位置し、末梢神経ではシュワン細胞に強く発現する細胞質たんぱく質をコードする。機能の全容は明らかでないが、髄鞘の維持、細胞内の膜輸送や脂質代謝への関与が示唆されており、欠損により脱髄とそれに続く軸索変性が生じる。
本症はブルガリアのロム地方のロマの家系で連鎖解析により8q24に座位が同定され、のちに NDRG1 の機能喪失変異が原因と判明した。ロマ集団には創始者変異 p.Arg148Ter(c.442C>T)が広く分布し、一部の集団では保因者頻度が高い。臨床的には10歳ごろまでに発症する重症の脱髄型ニューロパチーで、運動神経伝導速度は小児期から著明に低下し、成人では誘発不能となることが多い。感音難聴(聴神経障害)は10〜20歳代に出現することが多く、本型を他の4型から区別する重要な手がかりとなる。神経生検ではタマネギ様構造をともなう脱髄所見と、シュワン細胞内の特徴的な封入体が報告されている。
鑑別としては、ほかの常染色体潜性脱髄型CMT(4A型 GDAP1、4C型 SH3TC2、4F型 PRX など)、およびもっとも頻度の高い1A型(PMP22 重複、常染色体顕性)が挙がる。CMTは常染色体顕性・潜性・X連鎖のいずれもとりうるため、次子再発率が型によって大きく異なり、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。ロマの出自をもつ若年発症の脱髄型ニューロパチーでは、本症を優先的に考慮する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。シャルコー・マリー・トゥース病には親から子へ顕性遺伝する型も多く、その場合の確率は大きく異なります。再発率が型によって違うため、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. この病気は生まれたあとに症状が出るため、妊娠中の超音波検査では分かりません。ご家族で原因となる遺伝子の変化が分かっている場合や、ご夫婦がキャリアと分かっている場合には、出生前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 耳が聞こえなくなるのですか。
A. この型では、思春期から成人期にかけて難聴が現れることが多いとされています。程度には個人差があり、補聴器などで対応する方もいます。早めに気づいて対応できるよう、定期的な聴力検査が勧められます。
Q. 将来、歩けなくなりますか。
A. 症状はゆっくり進み、成人期以降に杖や車いすが必要になる方もいます。ただし進み方には個人差があり、リハビリテーションや装具によって、できるだけ長く自分で歩けるよう支えていきます。知的な発達には通常影響しません。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Kalaydjieva L, Gresham D, Gooding R, et al. N-myc downstream-regulated gene 1 is mutated in hereditary motor and sensory neuropathy-Lom. Am J Hum Genet. 2000;67(1):47-58.
- Kalaydjieva L, Hallmayer J, Chandler D, et al. Gene mapping in Gypsies identifies a novel demyelinating neuropathy on chromosome 8q24. Nat Genet. 1996;14(2):214-217.
- Pareyson D, Marchesi C. Diagnosis, natural history, and management of Charcot-Marie-Tooth disease. Lancet Neurol. 2009;8(7):654-667.
- Bird TD. Charcot-Marie-Tooth Hereditary Neuropathy Overview. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #601455 Charcot-Marie-Tooth disease, type 4D. Online Mendelian Inheritance in Man.
