概要
COACH症候群2型は、小脳の発達不全による運動・発達の遅れに、生まれつきの肝臓の線維化(先天性肝線維症)が加わる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、4番染色体にある CC2D2A 遺伝子の変化が原因となります。
「COACH」は、この病気の主な特徴の英語の頭文字です。小脳虫部の低形成、知的発達の遅れ、生まれつきの運動失調(ふらつき)、眼のコロボーマ(眼の組織の一部の欠け)、肝線維症を表します。脳の特徴は「ジュベール症候群」と同じで、COACH症候群は、ジュベール症候群のうち肝臓の病気をともなうタイプと考えられています。
CC2D2A 遺伝子は、症状の重さが大きく異なる複数の病気を起こします。もっとも重いのは胎児期・新生児期に命にかかわるメッケル症候群6型で、より軽い場合にはジュベール症候群9型となります。この2型は、ジュベール症候群の特徴に肝線維症が加わる点が特徴です。なお、COACH症候群には原因遺伝子の異なる型があり、1型は TMEM67、3型は RPGRIP1L 遺伝子の変化によるものです。
原因
CC2D2A は、細胞の表面に1本だけ生えている「一次繊毛(せんもう)」という小さなアンテナの根元ではたらくたんぱく質です。
一次繊毛は、細胞が周りからの信号を受け取るための大切な器官で、脳・眼・肝臓・腎臓などの発達に欠かせません。CC2D2A は繊毛の根元で「関所」のような役割を担い、繊毛に出入りするたんぱく質を選り分けています。このはたらきが弱まると、小脳や脳幹の形づくり、肝臓の胆管の発達がうまく進まず、この病気の症状が現れます。このように繊毛の異常で起こる病気をまとめて「繊毛病(シリオパチー)」と呼びます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 新生児期・乳児期の筋緊張低下:体がやわらかく、首のすわりなどが遅れます
- 呼吸のリズムの乱れ:赤ちゃんの時期に、速い呼吸と呼吸が止まる時間をくり返すことがあります。成長とともに目立たなくなることが多いです
- 眼の動きの異常:眼が揺れる(眼振)、見たい方向へ眼をうまく動かせないなど
- 発達の遅れと運動失調:歩き始めが遅く、ふらつきが続きます。知的発達の遅れの程度は人によって幅があります
- 眼のコロボーマ:網膜や視神経の一部が欠け、見え方に影響することがあります
- 先天性肝線維症:この病気の見通しを左右する重要な症状です。肝臓が硬くなり、門脈圧亢進症(肝臓へ向かう血管の圧が高くなる状態)、脾臓の腫れ、食道静脈瘤からの出血を起こすことがあります
- 腎臓の病気(ネフロン癆など)をともなうことがあります
- CC2D2A が原因のジュベール症候群では、脳室の拡大やけいれん発作が比較的多いと報告されています
検査・診断
診断の手がかりは頭部MRI検査です。小脳虫部が小さく、脳幹の形が変化するため、断面が奥歯のように見える「臼歯徴候(モラー・トゥース・サイン)」が見られます。これに加えて、血液検査での肝機能の異常、腹部超音波検査での肝臓・脾臓の腫れなどから肝線維症が見つかると、COACH症候群と診断されます。眼科の診察でコロボーマの有無を、腎臓の検査で腎臓の病気の有無を確認します。
妊娠中の超音波検査や胎児MRIで、脳室の拡大や後頭部の脳の形の変化から疑われることもありますが、妊娠中には気づかれず、生まれたあとに診断されることも少なくありません。また肝線維症は、乳幼児期にははっきりせず、成長してから明らかになることがあります。
確定診断は遺伝学的検査で行い、COACH症候群2型では CC2D2A 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。原因遺伝子を確定することで、肝臓・腎臓の見通しや次のお子さまへの影響をより正しくお伝えできます。
治療
現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。症状に合わせた治療と、成長・発達を支える支援を組み合わせ、小児科・神経科・眼科・消化器科(肝臓)・腎臓内科などが連携して継続的に診ていくことが大切です。
- 呼吸の見守り:乳児期の呼吸の乱れに対し、必要に応じて呼吸の監視や補助を行います
- 発達支援:理学療法・作業療法・言語療法などのリハビリテーション、療育や学校での支援
- 肝臓の定期的な検査と治療:食道静脈瘤に対する内視鏡治療、門脈圧亢進症への治療を行い、肝臓のはたらきが大きく低下した場合は肝移植が検討されることがあります
- 眼科での定期的な診察:視力の評価と、見え方に合わせた支援
- 腎臓の定期的な検査:腎臓の病気が見つかった場合はその治療
- けいれん発作がある場合の抗てんかん薬による治療
- ご家族への遺伝カウンセリングと心理的支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる CC2D2A 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、CC2D2A 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
CC2D2A はC2ドメインとコイルドコイル構造をもつたんぱく質で、一次繊毛の移行帯(transition zone)に局在し、MKS複合体の構成要素として繊毛への膜たんぱく質の出入りを制御する。CEP290 との相互作用も報告されている。移行帯の機能不全により、小脳・脳幹の発生、胆管板の形成、腎尿細管の維持が障害される。
本遺伝子は明確な遺伝子型・表現型相関を示す——両アレルとも機能喪失型(ナンセンス・フレームシフト・スプライス変異)の場合はメッケル症候群6型(後頭部脳瘤、嚢胞腎、多指症、胆管板形成異常を特徴とする周産期致死)となり、少なくとも一方がミスセンスなど残存機能を保つ変異の場合はジュベール症候群9型またはCOACH症候群2型となる。COACH症候群の原因としては TMEM67 がもっとも多く、CC2D2A と RPGRIP1L はそれに次ぐ。CC2D2A 関連のジュベール症候群では脳室拡大とけいれんの頻度が高いことが報告されている。
肝病変は先天性肝線維症(胆管板形成異常)であり、肝細胞機能は比較的保たれる一方で門脈圧亢進症が前景に立つ。肝線維症は小児期以降に顕在化することがあるため、ジュベール症候群と診断された全例で肝機能と腹部超音波の定期評価が推奨される。鑑別には他の COACH 症候群(TMEM67、RPGRIP1L)、肝病変のないジュベール症候群、メッケル症候群、ほかの繊毛病(ネフロン癆関連疾患など)が挙がり、いずれも潜性遺伝が中心だが、表現型の重さと臓器合併症の見通しが異なるため、遺伝子診断はフォローアップ計画と遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。男の子・女の子で確率に差はありません。症状のないキャリアとなる確率は2分の1、変化を受け継がない確率は4分の1です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 超音波検査や胎児MRIで脳の変化から疑われることもありますが、妊娠中には分からず、生まれたあとに気づかれることも多い病気です。前のお子さまで原因となる遺伝子の変化が確定している場合は、出生前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 同じ遺伝子で別の病気もあると聞きました。
A. はい。CC2D2A 遺伝子の変化は、残っているはたらきの程度によって症状の重さが変わります。はたらきがほとんど残らない場合は胎児期・新生児期に命にかかわるメッケル症候群6型に、はたらきが一部残る場合はジュベール症候群9型やこのCOACH症候群2型になります。2型では肝臓の病気をともなう点が特徴です。
Q. 肝臓の病気はいつごろ出てきますか。
A. 肝線維症は生まれつきありますが、症状として現れる時期は人によって異なり、乳幼児期には目立たず、学童期以降に分かることもあります。そのため、症状がなくても定期的に血液検査や腹部超音波検査を受けることが大切です。早めに気づくことで、食道静脈瘤からの出血などに備えることができます。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Doherty D, Parisi MA, Finn LS, et al. Mutations in 3 genes (MKS3, CC2D2A and RPGRIP1L) cause COACH syndrome (Joubert syndrome with congenital hepatic fibrosis). J Med Genet. 2010;47(1):8-21.
- Gorden NT, Arts HH, Parisi MA, et al. CC2D2A is mutated in Joubert syndrome and interacts with the ciliopathy-associated basal body protein CEP290. Am J Hum Genet. 2008;83(5):559-571.
- Tallila J, Jakkula E, Peltonen L, Salonen R, Kestilä M. Identification of CC2D2A as a Meckel syndrome gene adds an important piece to the ciliopathy puzzle. Am J Hum Genet. 2008;82(6):1361-1367.
- Bachmann-Gagescu R, Ishak GE, Dempsey JC, et al. Genotype-phenotype correlation in CC2D2A-related Joubert syndrome reveals an association with ventriculomegaly and seizures. J Med Genet. 2012;49(2):126-137.
- Romani M, Micalizzi A, Valente EM. Joubert syndrome: congenital cerebellar ataxia with the molar tooth. Lancet Neurol. 2013;12(9):894-905.
