概要
コーエン症候群は、発達の遅れと知的障害、筋肉の緊張の低さ、特徴的な顔つき、進行する目の病気(網脈絡膜ジストロフィーと強い近視)、白血球の一種である好中球の減少などを特徴とする先天性の病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、VPS13B(8q22.2)遺伝子の変化が原因となります。
この病気は、生まれたときにはっきりした異常が目立たず、乳幼児期の発達の遅れや、成長とともに小さくなっていく頭囲(後天性の小頭症)をきっかけに気づかれることが多いのが特徴です。妊娠中の超音波検査で見つかることはほとんどありません。
症状の出方や重さには個人差が大きく、同じ診断名でも生活の様子はさまざまです。一方で、多くのお子さまが人なつっこく明るい性格であることが知られています。目の症状は年齢とともに進むため、早めに診断して定期的に見守ることが大切です。
原因
VPS13B(以前は COH1 とよばれていました)は、細胞のなかの「ゴルジ体」という、たんぱく質に糖をつけて仕分け・発送する工場のような場所ではたらく、非常に大きなたんぱく質の設計図です。
VPS13B のたんぱく質は、ゴルジ体の形を保ち、たんぱく質への糖の付加(糖鎖修飾)や細胞内の物の輸送を正しく行うために必要と考えられています。このはたらきが失われると、とくに脳の神経細胞や目の網膜、血液の細胞など、細かな物流を必要とする組織に影響が出て、さまざまな症状につながると考えられています。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 発達の遅れと知的障害:程度は軽度から重度までさまざまです。首すわり・歩行・ことばの発達がゆっくりです
- 筋緊張低下:赤ちゃんのころから体がやわらかく、哺乳が弱いこともあります。関節がやわらかく、よく曲がります
- 小頭症:生まれたときは目立たず、成長とともに頭囲が小さめになっていきます
- 特徴的な顔つき:太く豊かな髪・眉・まつ毛、波打つような形のまぶた、短い人中、目立つ上の前歯、口が開きがちなどの特徴があります
- 進行する目の症状:強い近視と網脈絡膜ジストロフィーにより、夜に見えにくい、視野が狭くなるなどの症状が年齢とともに進みます。この病気の生活の質に大きく関わる重要な症状です
- 好中球減少:白血球の一種が少なめになります。多くは軽度で、口内炎や歯肉炎、感染を繰り返すことがあります
- 体つきの特徴:細く長い手足と指、学童期以降に目立つ体幹の肥満、低身長
- 人なつっこく明るい性格が多い一方、自閉的な傾向がみられる方もいます
検査・診断
発達の遅れ、筋緊張低下、後天性の小頭症、特徴的な顔つきから疑われ、眼科での網膜の検査や血液検査での好中球減少が診断の手がかりになります。目や血液の所見は年齢とともにはっきりしてくるため、幼い時期には診断が難しいこともあります。
確定診断は遺伝学的検査で行い、コーエン症候群では VPS13B 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。VPS13B は非常に大きな遺伝子で、一部が欠けたり重複したりする変化もあるため、その種類の変化も調べられる方法を選ぶことが大切です。次のお子さまの見通しを正しくお伝えするために、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。治療は、それぞれの症状に合わせた対症療法と、発達・生活を支える支援が中心です。小児科、眼科、血液、リハビリ、教育など多くの分野が連携して、成長に合わせて見守っていくことが大切です。
- 療育・リハビリテーション:理学療法・作業療法・言語療法などで、運動やことば、日常生活の力を伸ばします
- 定期的な眼科検診:眼鏡などで近視を矯正し、網膜の変化を見守ります。視覚の支援や見えにくさに配慮した環境づくりも行います
- 好中球減少への対応:定期的に血液検査を行います。感染を繰り返す場合などには、白血球を増やす薬を使うことがあります
- 口の中のケア:歯肉炎や歯周病を防ぐため、歯科での定期的な管理が役立ちます
- 体重管理:学童期以降の肥満に備え、食事や運動の習慣を整えます
- 就学・生活の支援とご家族への支援:特別支援教育や福祉制度の活用、ごきょうだいを含むご家族の支えも大切です
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる VPS13B 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、VPS13B 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。ご夫婦がキャリアかどうかを妊娠前に知りたい場合は、キャリアスクリーニングテストもご相談いただけます。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
VPS13B(旧称 COH1)は約4,000アミノ酸からなる巨大な末梢膜たんぱく質で、ゴルジ体に局在し、その構造維持と糖鎖修飾に関与する。近年は VPS13 ファミリー共通の細胞小器官間の脂質輸送を担う橋渡し型たんぱく質としての機能も注目されている。機能欠失により、神経突起の伸長障害や網膜の変性、好中球の減少が生じると考えられている。
病的変化の多くはナンセンス変異・フレームシフト変異などの機能喪失型で、遺伝子全体に散在し、エクソン単位の欠失・重複も少なくない。このため、配列解析に加えてコピー数解析を併用することが診断率の向上に重要である。フィンランドでは創始者変異(c.3348_3349delCT)が多く、比較的均一な臨床像(後天性小頭症、網脈絡膜ジストロフィー、好中球減少)を示すのに対し、他の集団では臨床像のばらつきが大きい。アーミッシュやアイルランド系移動生活者などにも集積が報告されている。
VPS13B は本症候群以外の明確な別疾患をほとんど起こさない点で、同ファミリーの他の遺伝子と異なる。同じ VPS13 ファミリーでも、VPS13A は有棘赤血球舞踏病、VPS13C は若年発症パーキンソン病、VPS13D は運動失調・痙性麻痺を起こし、それぞれ別の遺伝子・別の病気である。鑑別としては、プラダー・ウィリー症候群(筋緊張低下と肥満、多くは新生の染色体異常で再発率は低い)、バルデー・ビードル症候群(肥満と網膜変性、多指、腎症状)、アンジェルマン症候群、脆弱X症候群などが挙がる。これらは遺伝形式や次子再発率が大きく異なるため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。2分の1の確率で症状のないキャリアとなり、4分の1の確率で変化を受け継ぎません。似た症状を示す別の病気とは再発率が大きく異なるため、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. この病気は妊娠中の超音波検査ではほとんど異常が見つからず、出生後の発達の様子から気づかれることが一般的です。前のお子さまで原因となる遺伝子の変化が確定している場合は、出生前検査や着床前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 目の症状はどのように進みますか。
A. 幼児期から強い近視がみられることが多く、網膜の変化は学童期ごろから少しずつ進みます。暗いところで見えにくい、視野が狭くなるといった症状が出ることがあり、成人期に視力が大きく低下する方もいます。進み方には個人差があるため、定期的な眼科検診で見守り、見えにくさに合わせた支援を早めに整えることが大切です。
Q. 大人になってからの生活はどうなりますか。
A. この病気が寿命を大きく縮めることは一般的ではないと考えられています。知的障害や視覚障害の程度によって必要な支援は異なりますが、療育や教育、福祉の支援を受けながら、それぞれのペースで成長し、穏やかに暮らしている方も多くいらっしゃいます。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Wang H, Falk MJ, Wensel C, Traboulsi EI. Cohen Syndrome. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #216550 Cohen Syndrome; COH1. Online Mendelian Inheritance in Man.
- Kolehmainen J, Black GC, Saarinen A, et al. Cohen syndrome is caused by mutations in a novel gene, COH1, encoding a transmembrane protein with a presumed role in vesicle-mediated sorting and intracellular protein transport. Am J Hum Genet. 2003;72(6):1359-1369.
- Kivitie-Kallio S, Norio R. Cohen syndrome: essential features, natural history, and heterogeneity. Am J Med Genet. 2001;102(2):125-135.
- Chandler KE, Kidd A, Al-Gazali L, et al. Diagnostic criteria, clinical characteristics, and natural history of Cohen syndrome. J Med Genet. 2003;40(4):233-241.
