概要
先天性副腎過形成症(11β-水酸化酵素欠損症)は、副腎でホルモンをつくる酵素のひとつがうまくはたらかないために、コルチゾールが不足し、男性ホルモンと血圧を上げるホルモンが過剰になる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、CYP11B1(8q24.3)遺伝子の変化が原因となります。
先天性副腎過形成症にはいくつかの型があり、もっとも多いのは21-水酸化酵素欠損症です。11β-水酸化酵素欠損症は先天性副腎過形成症全体の5〜8%ほどを占める、2番目に多い型とされています。女の子では生まれたときに外性器の男性化が見られること、そして多くの場合に小児期から高血圧があらわれることが、この型の大きな特徴です。
頻度は出生10万〜20万人に1人程度と推定されていますが、モロッコ系ユダヤ人の集団では特定の変化(創始者変異)によりずっと高い頻度で見られます。適切なホルモン補充を続けることで、多くの方が通常の生活を送ることができます。
なお、CYP11B1 遺伝子は、隣にある別の遺伝子(CYP11B2)とつながった「融合遺伝子」ができることで、グルココルチコイド反応性アルドステロン症という別の病気の原因にもなります。こちらは顕性(優性)遺伝で、外性器の男性化は起こらず、高血圧が主な症状です。このページで扱う11β-水酸化酵素欠損症とは、しくみも遺伝形式も異なります。
原因
CYP11B1 遺伝子は、副腎でコルチゾールをつくる最後の段階を担う酵素(11β-水酸化酵素)の設計図です。
この酵素がはたらかないとコルチゾールが十分につくられず、体はそれを補おうとして副腎を刺激するホルモン(ACTH)を多く出します。副腎は刺激を受け続けて大きくなり(過形成)、行き場を失った材料から男性ホルモン(アンドロゲン)が過剰につくられます。さらに、途中でとどまった物質(11-デオキシコルチコステロン)には塩分をため込み血圧を上げる作用があるため、高血圧が起こります。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 女の子の外性器の男性化:胎児期から男性ホルモンが多いため、生まれたときに外性器の形が男女どちらとも判断しにくいことがあります(子宮や卵巣は通常どおりつくられます)
- 男の子の早すぎる思春期のような変化:生まれたときは目立たないことが多く、幼児期に陰茎の増大や陰毛の発生で気づかれることがあります
- 高血圧:この型に特徴的な症状で、およそ3分の2の方に見られます。乳幼児期から見られることもありますが、発症時期や程度には個人差があります
- 低カリウム血症(見られないことも多くあります)
- 急速な身長の伸びと骨の成熟の早まり:幼少期は背が高くても、骨の成長が早く止まるため、治療しないと最終的な身長が低くなります
- にきび、多毛、月経不順(思春期以降の女性)
- 強いストレスや感染症のときのコルチゾール不足による体調悪化
21-水酸化酵素欠損症では塩分が失われて血圧が下がる「塩喪失」が問題になりますが、11β-水酸化酵素欠損症では反対に血圧が上がる傾向があることが大きな違いです。また、症状が軽く、思春期以降に多毛や月経不順で気づかれる軽症型もあります。
検査・診断
女の子では出生時の外性器の所見から疑われることが多く、男の子では幼児期の早すぎる思春期のような変化や、高血圧から見つかることがあります。血液検査で11-デオキシコルチゾールと11-デオキシコルチコステロンの上昇、男性ホルモンの上昇、レニン(血圧に関係するホルモン)の低下が確認されると、この型が強く疑われます。
日本の新生児マススクリーニングでは先天性副腎過形成症を対象に17-OHPという物質を測っていますが、この型では17-OHPの上昇が軽いことがあり、スクリーニングだけでは見つからない場合もあります。
確定診断は遺伝学的検査で行い、CYP11B1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。ほかの型の先天性副腎過形成症と区別し、次のお子さまの見通しを正しくお伝えするために、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
病気そのものを根本から治す治療はまだありませんが、不足しているホルモンを補う治療を生涯続けることで、症状を抑えることができます。治療は小児内分泌の専門医のもとで行います。
- グルココルチコイド(ヒドロコルチゾールなど)の補充:不足しているコルチゾールを補うことで副腎への過剰な刺激が抑えられ、男性ホルモンや血圧を上げる物質の産生も減ります
- 発熱・手術などのときの増量(ストレス時の対応):体調を崩したときに薬を増やす方法を、ご家族があらかじめ知っておくことが大切です
- 血圧の管理:ホルモン補充で血圧が下がらない場合は、降圧薬を併用します
- 成長・思春期の定期的な評価:身長の伸びや骨年齢を見ながら薬の量を調整します。薬が多すぎても少なすぎても成長に影響します
- 外性器についての相談:手術を行うかどうか、行う時期については、専門の医療チームとご家族で十分に話し合って決めます
- ご本人・ご家族への心理的支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる CYP11B1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、CYP11B1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
CYP11B1 はミトコンドリア内膜に局在するシトクロムP450酵素(P450c11β)をコードし、副腎束状層で11-デオキシコルチゾールをコルチゾールへ、11-デオキシコルチコステロン(DOC)をコルチコステロンへ変換する。欠損によりコルチゾール産生が低下し、ACTH過剰分泌を介して前駆体の蓄積と副腎アンドロゲンの過剰産生が生じる。DOCは鉱質コルチコイド作用をもつため、ナトリウム貯留・体液量増加・レニン抑制を経て低レニン性高血圧をきたす。アルドステロン合成は CYP11B2 が担うため保たれうるが、体液量増加によるレニン抑制のため低値となることが多い。
CYP11B1 と CYP11B2 は8q24.3に縦列に並ぶ相同性の高い遺伝子で、不等交叉による CYP11B1/CYP11B2 キメラ遺伝子はグルココルチコイド反応性アルドステロン症(家族性高アルドステロン症I型、常染色体顕性)を起こす。本症の病的変異は全域に分布するが、モロッコ系ユダヤ人では創始者変異 p.Arg448His が高頻度に認められる。高血圧の有無・重症度と DOC 値、変異の残存活性との相関は必ずしも一致せず、遺伝型から表現型を正確に予測することは難しい。
鑑別としては、21-水酸化酵素欠損症(CYP21A2、塩喪失・低血圧傾向)、17α-水酸化酵素欠損症(CYP17A1、高血圧を伴うが性ステロイド低下のため外性器男性化は起こらない)、3β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素欠損症(HSD3B2)、P450酸化還元酵素欠損症(POR)が挙がる。出生前デキサメタゾン投与による女児外性器男性化の予防は、胎児・母体への長期的な安全性が確立しておらず、臨床研究の枠組みでのみ検討されるべきとされている。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。男の子・女の子のどちらにも同じ確率で起こりますが、女の子では生まれたときの外性器の変化として気づかれやすく、男の子では幼児期まで気づかれにくい傾向があります。
Q. 21-水酸化酵素欠損症とはどう違いますか。
A. どちらも先天性副腎過形成症の仲間ですが、原因の遺伝子が異なります。21-水酸化酵素欠損症では塩分が失われて血圧が下がりやすいのに対し、11β-水酸化酵素欠損症では血圧が上がりやすいことが大きな違いです。治療の基本はどちらもホルモン補充ですが、注意する点が異なるため、正確な診断が大切です。
Q. 同じ遺伝子で別の病気もあると聞きました。
A. はい。CYP11B1 遺伝子が隣の遺伝子とつながった形になると、グルココルチコイド反応性アルドステロン症という、高血圧を主な症状とする別の病気になります。こちらは顕性遺伝で、外性器の変化は起こりません。遺伝のしかたも次のお子さまへの確率も異なるため、遺伝子検査の結果は専門家と一緒に確認してください。
Q. 治療をすれば普通の生活ができますか。
A. 早く診断され、ホルモン補充を適切に続けることで、多くの方が通学・就労など通常の生活を送っています。ただし、薬は生涯にわたって必要で、体調を崩したときの増量や、血圧・成長の定期的な確認が欠かせません。経過には個人差があるため、主治医とよく相談しながら治療を続けていきます。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- OMIM #202010 Adrenal hyperplasia, congenital, due to 11-beta-hydroxylase deficiency. Online Mendelian Inheritance in Man.
- White PC, Curnow KM, Pascoe L. Disorders of steroid 11β-hydroxylase isozymes. Endocr Rev. 1994;15(4):421-438.
- White PC, Dupont J, New MI, Leiberman E, Hochberg Z, Rösler A. A mutation in CYP11B1 (Arg-448→His) associated with steroid 11β-hydroxylase deficiency in Jews of Moroccan origin. J Clin Invest. 1991;87(5):1664-1667.
- Khattab A, Haider S, Kumar A, et al. Clinical, genetic, and structural basis of congenital adrenal hyperplasia due to 11β-hydroxylase deficiency. Proc Natl Acad Sci U S A. 2017;114(10):E1933-E1940.
- Lifton RP, Dluhy RG, Powers M, et al. A chimaeric 11β-hydroxylase/aldosterone synthase gene causes glucocorticoid-remediable aldosteronism and human hypertension. Nature. 1992;355(6357):262-265.
