概要
先天性副腎過形成症(17α-水酸化酵素欠損症)は、副腎と性腺(卵巣・精巣)でホルモンをつくる酵素がはたらかないために、高血圧と低カリウム血症、性ホルモンの不足が起こる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、CYP17A1(10q24.32)遺伝子の変化が原因となります。
先天性副腎過形成症にはいくつかの型があります。もっとも多い21-水酸化酵素欠損症では、生まれてまもなく塩分が失われることや、女の子の外性器が男性化することが問題になります。17α-水酸化酵素欠損症はそれとは反対に、塩分が体にたまって血圧が上がり、性ホルモンがほとんどつくられないことが特徴です。先天性副腎過形成症全体の1%前後とされる、まれな型です。
赤ちゃんの時期にはほとんど症状が出ず、思春期になっても二次性徴が来ないこと(月経が始まらないなど)や、若いうちからの高血圧で気づかれることが多い病気です。また、染色体が46,XY(男性型)のお子さまでも、外性器が女性型で生まれ、女の子として育てられていることが少なくありません。
CYP17A1 遺伝子がつくる酵素には「17α-水酸化」と「17,20-リアーゼ」という2つのはたらきがあります。この型では両方のはたらきが失われるため、高血圧・低カリウム血症と性ホルモンの不足がそろって起こります。同じ遺伝子の変化でも、17,20-リアーゼのはたらきだけが失われる「17,20-リアーゼ単独欠損症」では、性ホルモンの不足だけが起こり、高血圧や低カリウム血症はみられません。
原因
CYP17A1 は、コレステロールからステロイドホルモンをつくる途中ではたらく酵素です。この酵素は、体をストレスから守るホルモン(コルチゾール)と、性ホルモン(男性ホルモン・女性ホルモン)をつくる道筋の分かれ目に位置しています。
この酵素がはたらかないと、コルチゾールと性ホルモンがほとんどつくられません。コルチゾールが足りないため、脳から副腎を刺激するホルモン(ACTH)がたくさん出て、副腎が大きくなります(過形成)。行き場を失った材料は、残った道筋である塩分を体にためるホルモン(デオキシコルチコステロンなど)の側に大量に流れ込み、その結果、血圧が上がり、血液中のカリウムが下がります。
一方で、同じ道筋でつくられるコルチコステロンというホルモンにはコルチゾールに近いはたらきがあるため、他の型と比べて、急な副腎不全(ショック)を起こすことは少ないとされています。また、性ホルモンがつくられないため、46,XX のお子さまでは思春期が来ず、46,XY のお子さまでは胎児期に外性器が男性型に発達しません。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 高血圧:多くは10代〜若い成人期に見つかります。子どもや若い人の高血圧として指摘されることがきっかけになります
- 低カリウム血症:筋力の低下、だるさ、筋肉のけいれんなどが起こることがあります
- 思春期が来ない(46,XX の場合):乳房が発達せず、月経が始まらない(原発性無月経)ことで気づかれます
- 外性器が女性型〜どちらともいえない形(46,XY の場合):精巣はおなかの中や足の付け根にとどまり、子宮はありません。鼠径ヘルニアの手術で気づかれることもあります
- 陰毛・わき毛が少ない、または生えない
- 骨の成長線が閉じにくく背が伸び続ける、手足が長い体型、骨密度の低下
- 急な副腎不全はまれですが、強いストレスや病気のときには注意が必要です
検査・診断
血液検査で、低カリウム血症、レニン(血圧を調節する酵素)の低下、デオキシコルチコステロンやコルチコステロンの上昇と、コルチゾール・性ホルモンの低下がみられます。副腎を刺激するホルモン(ACTH)を注射して反応をみる検査で、ホルモンの流れがどこで止まっているかを確かめます。あわせて染色体検査や、子宮・性腺の有無をみる画像検査を行います。
日本の新生児マススクリーニングでは、21-水酸化酵素欠損症を見つけるために「17-ヒドロキシプロゲステロン」というホルモンを測ります。この型ではこのホルモンが上がらないため、新生児マススクリーニングでは見つからないことが多い点に注意が必要です。また、出生前に調べた性染色体と、超音波で見える外性器の形が一致しないことをきっかけに、性分化の違いを詳しく調べるなかで見つかることもあります。
確定診断は遺伝学的検査で行い、この病気では CYP17A1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。似た症状を示す別の病気と見分け、次のお子さまの見通しを正しくお伝えするために、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
病気そのものを治す治療はまだありませんが、足りないホルモンを補う治療で、血圧やカリウムを整え、体の発達を助けることができます。治療は生涯にわたって続ける必要があり、内分泌の専門医を中心とした継続的な通院が大切です。
- 副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド)の補充:副腎への過剰な刺激を抑え、塩分をためるホルモンを減らすことで、血圧とカリウムの改善をめざします。量が多すぎると成長や骨に影響するため、定期的に調整します
- 血圧の管理:必要に応じて、塩分をためるホルモンのはたらきを抑える薬などの降圧薬を併用します
- 性ホルモンの補充:思春期の年齢に合わせて少しずつ補い、体の発達と骨の健康を助けます。補うホルモンの種類は、育てられている性別やご本人の意向に応じて決めます
- 性腺についての相談(46,XY の場合):おなかの中にとどまった精巣は将来腫瘍ができる可能性が指摘されており、摘出の要否や時期を専門チームと相談します
- 病気やけがのときの対応:強いストレスがかかるときの薬の調整について、あらかじめ主治医と決めておきます
- ご本人・ご家族への心理的支援:性分化に関わる説明を、年齢に合わせて丁寧に行うことが大切です
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる CYP17A1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、CYP17A1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
CYP17A1 がコードする P450c17 は小胞体に局在するシトクロムP450酵素で、17α-水酸化活性と17,20-リアーゼ活性の2つを単一のたんぱく質で担う。電子供与体として P450 オキシドレダクターゼ(POR)を必要とし、17,20-リアーゼ活性はシトクロム b5 の存在とセリン残基のリン酸化で増強される。副腎束状層・網状層と性腺で発現し、球状層では発現しない。
両活性を欠く本症では、コルチゾールと副腎・性腺アンドロゲン(およびそれに由来するエストロゲン)の産生が障害され、ACTH 過剰刺激により11-デオキシコルチコステロン(DOC)とコルチコステロンが著増する。DOC の鉱質コルチコイド作用により低レニン性高血圧と低カリウム血症をきたし、レニン抑制のためアルドステロンは低値となることが多い。コルチコステロンが糖質コルチコイド作用を代償するため、副腎クリーゼはまれである。17-ヒドロキシプロゲステロンが上昇しないため、17-OHP を指標とする新生児マススクリーニングでは原則として検出されない。
表現型は残存酵素活性に依存する。完全欠損では 46,XY は女性型外性器(性分化疾患)、46,XX は性腺機能低下による原発性無月経を呈する。46,XY でも抗ミュラー管ホルモンは正常に作用するため子宮・卵管は形成されない。部分欠損では 46,XY の外性器はあいまい型となりうる。一方、酸化還元パートナーとの結合部位の変異などで17,20-リアーゼ活性のみが選択的に低下する「17,20-リアーゼ単独欠損症」では、鉱質コルチコイド過剰を伴わず性ステロイド欠乏のみを示す。複数の集団で創始者変異が報告されている。
鑑別としては、POR欠損症(POR、骨格異常を伴いうる、21-水酸化酵素・17α-水酸化酵素の部分的複合欠損)、11β-水酸化酵素欠損症(CYP11B1、高血圧を呈するがアンドロゲン過剰による男性化を伴う)、原発性アルドステロン症、リドル症候群、および 46,XY 性分化疾患としてアンドロゲン不応症(AR)、17β-水酸化ステロイド脱水素酵素3欠損症(HSD17B3)、先天性リポイド副腎過形成症(STAR)などが挙がる。高血圧・低カリウム血症と性腺機能低下の組み合わせは本症を強く示唆し、遺伝子診断により確定と次子再発率の評価が可能となる。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。お子さまの染色体が 46,XX でも 46,XY でも発症し得ますが、現れ方は異なります。症状のないごきょうだいがキャリアかどうかは、遺伝学的検査で調べることができます。
Q. 新生児マススクリーニングで見つかりますか。
A. この型は、新生児マススクリーニングでは見つからないことが多いとされています。スクリーニングで測るホルモンが、この型では上がらないためです。ご家族にこの病気の方がいる場合は、遺伝学的検査や専門医による診察についてご相談ください。
Q. よく聞く21-水酸化酵素欠損症とは何が違いますか。
A. どちらも先天性副腎過形成症ですが、原因の遺伝子と症状が異なります。21-水酸化酵素欠損症は塩分が失われやすく、男性ホルモンが多くなるのに対し、17α-水酸化酵素欠損症は塩分がたまって血圧が上がり、性ホルモンが足りなくなります。そのため、気づかれる時期や治療の内容も異なります。
Q. 将来、子どもをもつことはできますか。
A. この病気では性ホルモンをつくる力が弱いため、自然な妊娠は難しいことが多いとされています。46,XX の方では、生殖補助医療によって妊娠・出産に至った報告もあります。状況は一人ひとり異なるため、内分泌や生殖医療の専門医とご相談ください。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
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- Miller WL, Auchus RJ. The molecular biology, biochemistry, and physiology of human steroidogenesis and its disorders. Endocr Rev. 2011;32(1):81-151.
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- Speiser PW, Arlt W, Auchus RJ, et al. Congenital adrenal hyperplasia due to steroid 21-hydroxylase deficiency: an Endocrine Society clinical practice guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(11):4043-4088.
