概要
D-2-ヒドロキシグルタル酸尿症1型は、体のなかでできる「D-2-ヒドロキシグルタル酸」という物質を分解できず、尿や血液、脳脊髄液にたまってしまう先天代謝異常症です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、D2HGDH(2q37.3)遺伝子の変化が原因となります。
主に脳のはたらきに影響が出る病気で、乳児期早期からのけいれん(てんかん)、筋肉の緊張の低さ、発達の遅れがみられることがあります。一方で、症状の重さは人によって大きく異なり、ほとんど症状のない方から重い神経症状をもつ方まで幅があります。報告は世界で数十例程度と、非常にまれな病気です。
「D-2-ヒドロキシグルタル酸尿症」には1型と2型があります。1型は D2HGDH 遺伝子の変化による常染色体潜性遺伝の病気で、2型は別の遺伝子(IDH2)の変化による病気です。2型は多くが親から受け継がずに偶然起こる(新生突然変異の)顕性遺伝の病気で、心筋症を伴いやすいなど特徴が異なります。また、名前の似た「L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症」は、原因遺伝子も症状の経過も別の病気です。
原因
D2HGDH は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアではたらく酵素「D-2-ヒドロキシグルタル酸脱水素酵素」の設計図です。
D-2-ヒドロキシグルタル酸は、ふだんから体のなかでわずかにつくられている物質で、この酵素がエネルギーをつくる回路で使われる物質(2-オキソグルタル酸)に戻すことで、たまらないように片づけられています。酵素がはたらかないと、D-2-ヒドロキシグルタル酸が体内に蓄積し、とくに発達中の脳に悪い影響を与えると考えられています。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- けいれん(てんかん発作):重い場合は生後まもなく〜乳児期早期から始まり、薬で抑えにくいこともあります
- 筋緊張低下:体がやわらかく、首のすわりなどが遅れることがあります
- 発達の遅れ・知的障害:程度は人によって大きく異なります
- 哺乳が弱い、嘔吐、元気がないなどの全身の症状
- 頭部MRIの変化:脳室の拡大、脳室のそばの小さな嚢胞、髄鞘化(神経の配線の成熟)の遅れなど
- まれに心臓の筋肉の病気(心筋症)がみられることがありますが、2型に比べると少ないとされています
- 軽症の方やほとんど症状のない方もいます:きょうだいの検査などで偶然見つかることもあります
検査・診断
けいれんや発達の遅れをきっかけに、尿の有機酸分析を行うと、2-ヒドロキシグルタル酸の著しい増加から疑われます。2-ヒドロキシグルタル酸には「D型」と「L型」があり、どちらが増えているかを区別する特別な分析で、D型の増加を確かめることが大切です。頭部MRIの所見も参考になります。
確定診断は遺伝学的検査で行い、D-2-ヒドロキシグルタル酸尿症1型では D2HGDH 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。1型(潜性遺伝)と2型(多くは新生突然変異)では次のお子さまへの影響がまったく異なるため、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、この病気を根本から治す治療法は確立していません。治療は、それぞれの症状に合わせた対症療法と、成長・発達を支える支援が中心となります。
- けいれんの治療:抗てんかん薬を用いて発作をできるだけ抑えます
- 発達の支援:理学療法・作業療法・言語療法などのリハビリテーションや療育
- 栄養と食事の支援:哺乳や飲み込みが難しい場合の工夫
- 定期的な診察:神経の状態や発達の確認、必要に応じた心臓の評価
- ご家族への支援:福祉制度の活用や、遺伝カウンセリングを含む継続的な支え
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる D2HGDH 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、D2HGDH 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
D2HGDH はミトコンドリアに局在するFAD依存性のD-2-ヒドロキシグルタル酸脱水素酵素をコードし、D-2-ヒドロキシグルタル酸(D-2-HG)を2-オキソグルタル酸へ酸化する。両アレルの機能喪失変異によりD-2-HGが尿・血漿・脳脊髄液に蓄積し、2-オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼの阻害やエネルギー代謝の障害を介して神経毒性を示すと考えられている。
D-2-ヒドロキシグルタル酸尿症は遺伝的に異質である——1型(D2HGA1)は D2HGDH の常染色体潜性遺伝、2型(D2HGA2)は IDH2 のR140位などの機能獲得型ヘテロ接合性変異(多くは新生突然変異)による顕性遺伝である。2型は変異IDH2がD-2-HGを過剰産生するもので、一般に尿中D-2-HG濃度が1型より高く、心筋症の合併が目立つ。1型は重症型(乳児早期発症のてんかん性脳症、筋緊張低下、発達遅滞)から軽症・無症候例まで表現型の幅が広い。なお体細胞性のIDH1/IDH2変異は神経膠腫や急性骨髄性白血病でD-2-HGを産生する「オンコメタボライト」として知られる。
鑑別としては、L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症(L2HGDH、常染色体潜性、緩徐進行性で皮質下白質・歯状核・基底核の信号異常が特徴)、D,L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症の合併型(SLC25A1、常染色体潜性、重症の新生児期発症)、およびD-2-ヒドロキシグルタル酸尿症2型(IDH2)が挙がる。キラル分析によるD体・L体の判別と遺伝子診断が必須であり、次子再発率が25%(潜性)とほぼ0%(新生突然変異)で大きく異なるため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. 1型は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。一方、2型の多くは親から受け継がずに偶然起こるもので、その場合の再発率はごくわずかです。型によって再発率が大きく異なるため、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 1型と2型はどう違うのですか。
A. どちらもD-2-ヒドロキシグルタル酸がたまる病気ですが、原因の遺伝子と遺伝のしかたが違います。1型は D2HGDH 遺伝子の変化で、物質を分解する酵素がはたらかないために起こります。2型は IDH2 遺伝子の変化で、物質がつくられすぎるために起こり、心臓の病気を伴いやすいとされています。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. この病気は妊娠中の超音波検査ではっきりした異常として見つかることは少なく、多くは生まれたあとのけいれんや発達の遅れから診断されます。前のお子さまで原因遺伝子の変化が確定している場合は、出生前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. どのくらい重い病気なのですか。
A. 1型は症状の幅がとても広く、乳児期から重いけいれんや発達の遅れがある方もいれば、ほとんど症状のない方もいます。同じ家族のなかでも程度が違うことがあります。お子さまの状態に合わせて、主治医と相談しながら支援を考えていくことが大切です。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Struys EA, Salomons GS, Achouri Y, et al. Mutations in the D-2-hydroxyglutarate dehydrogenase gene cause D-2-hydroxyglutaric aciduria. Am J Hum Genet. 2005;76(2):358-360.
- Kranendijk M, Struys EA, Gibson KM, et al. Evidence for genetic heterogeneity in D-2-hydroxyglutaric aciduria. Hum Mutat. 2010;31(3):279-283.
- Kranendijk M, Struys EA, van Schaftingen E, et al. IDH2 mutations in patients with D-2-hydroxyglutaric aciduria. Science. 2010;330(6002):336.
- Kranendijk M, Struys EA, Salomons GS, Van der Knaap MS, Jakobs C. Progress in understanding 2-hydroxyglutaric acidurias. J Inherit Metab Dis. 2012;35(4):571-587.
- OMIM #600721 D-2-hydroxyglutaric aciduria 1; D2HGA1. Online Mendelian Inheritance in Man.
