概要
D,L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの物質の出し入れがうまくいかず、生まれてまもなくから脳の重いはたらきの障害が起こる先天代謝異常症です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、SLC25A1(22q11.21)遺伝子の変化が原因となります。
この病気では、尿のなかに「D-2-ヒドロキシグルタル酸」と「L-2-ヒドロキシグルタル酸」という2種類の物質が同時にたくさん出ることから、この名前がついています。多くは新生児期から、けいれん、筋肉の力の弱さ、呼吸の弱さ、哺乳の困難で気づかれ、乳児期に亡くなるお子さまも少なくない重い病気です。報告されている患者さんは世界でも数十人程度の、非常にまれな病気です。
「2-ヒドロキシグルタル酸尿症」には、名前の似た別の病気がいくつかあります。D型だけが増えるもの(D2HGDH 遺伝子や IDH2 遺伝子が原因)、L型だけが増えるもの(L2HGDH 遺伝子が原因)は、それぞれ原因遺伝子も経過も異なります。D型とL型の両方が増え、新生児期から重い症状が出るのが、この SLC25A1 による型の特徴です。また、同じ SLC25A1 遺伝子の変化で、神経から筋肉への信号の伝わりが弱くなる、より軽い病気(先天性筋無力症候群)が起こることもあります。
原因
SLC25A1 は、ミトコンドリアの膜にある「クエン酸」を外へ運び出す運び屋(ミトコンドリアクエン酸キャリア)の設計図です。
ミトコンドリアのなかでつくられたクエン酸は、外へ運び出されて、脂肪やコレステロールをつくる材料として使われます。脳の神経を包む「髄鞘(ずいしょう)」は脂肪を多く含むため、この運び出しがうまくいかないと、脳の発達に必要な材料が不足すると考えられています。さらに、行き場を失った物質がミトコンドリアのなかにたまり、その一部が2-ヒドロキシグルタル酸に変わって、尿に大量に出てきます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 新生児期からのけいれん:薬が効きにくいことが多く、この病気の中心となる症状です
- 筋肉の緊張の低さ(体がやわらかく、ぐにゃっとした印象)
- 呼吸の弱さ・無呼吸発作:呼吸の補助が必要になることがあります
- 哺乳の困難、体重が増えにくい
- 発達の重い遅れ
- 脳の形の変化:脳梁(左右の脳をつなぐ部分)の欠損や低形成、脳室の拡大、髄鞘化の遅れなど
- 視神経の低形成(見えにくさ)、特徴的な顔つき
- 血液中の乳酸の上昇、一部で心筋の病気
- 重い例では乳児期に亡くなることがあります。一方で、より長く生存し、比較的軽い経過をとる例も報告されています
検査・診断
新生児期のけいれんや筋肉の緊張の低さから疑われ、尿の有機酸分析を行います。D-2-ヒドロキシグルタル酸とL-2-ヒドロキシグルタル酸が両方とも増え、あわせてエネルギー代謝の途中の物質(2-ケトグルタル酸など)が増える一方で、尿中のクエン酸が少ないことが手がかりとなります。頭部MRI検査では脳梁の異常や脳室の拡大などが見られます。
妊娠中の超音波検査で脳室の拡大や脳梁の異常が指摘されることもありますが、それだけでこの病気と判断することはできません。確定診断は遺伝学的検査で行い、SLC25A1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。名前の似た他の2-ヒドロキシグルタル酸尿症とは遺伝子も遺伝形式も異なるため、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、この病気を治す治療は確立していません。クエン酸を補う治療を試みた報告がありますが、効果はまだ十分に確かめられていません。症状に合わせた治療と、お子さまとご家族の生活を支える支援が中心になります。
- けいれんの治療:抗てんかん薬を組み合わせて発作を減らすことを目指します
- 呼吸の管理:無呼吸や呼吸の弱さに対し、必要に応じて呼吸の補助を行います。どこまで行うかはご家族と医療チームで話し合って決めます
- 栄養の管理:哺乳が難しい場合は、鼻からのチューブや胃ろうによる栄養を検討します
- 定期的な診察:目や心臓の状態を確認します
- リハビリテーションと療育:姿勢の保持や発達を支えます
- 緩和ケアとご家族への心理的支援:お子さまの苦痛をやわらげ、ご家族が過ごす時間を大切にする支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる SLC25A1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、SLC25A1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
SLC25A1 はミトコンドリア内膜のクエン酸/リンゴ酸交換輸送体(CIC)をコードし、ミトコンドリア内のクエン酸を細胞質へ輸送して、脂肪酸・ステロール合成のためのアセチルCoA供給を担う。欠損ではミトコンドリア内に2-ケトグルタル酸が蓄積し、その還元によりD-2-HGとL-2-HGがともに増加すると考えられている。2013年に Nota らが全エクソーム解析で本症の原因遺伝子として同定した。
生化学的には尿中D-2-HGがL-2-HGより優位に上昇し、クエン酸回路中間体(2-ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸)の増加と尿中クエン酸の低値を伴うのが特徴である。臨床的には新生児期発症のてんかん性脳症、筋緊張低下、呼吸不全、脳梁低形成・欠損、視神経低形成が中核となる。残存輸送活性と重症度に一定の相関が示唆され、残存活性のある例では長期生存例もある。同じ遺伝子の両アレル変異で、脳症を伴わない先天性筋無力症候群(シナプス前型)を呈する家系も報告されており、表現型の幅は広い。なお SLC25A1 は22q11.2欠失領域に含まれる。
鑑別としては、D-2-ヒドロキシグルタル酸尿症1型(D2HGDH、潜性)、同2型(IDH2、新生突然変異による顕性の機能獲得変異)、L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症(L2HGDH、潜性、緩徐進行性の白質脳症)、および新生児期発症のミトコンドリア病が挙がる。D型・L型の同時上昇と尿中クエン酸低値が本症を示唆するが、IDH2 型では次子再発率がほぼ0%と大きく異なるため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。名前の似た2-ヒドロキシグルタル酸尿症のなかには、偶発的に起こる(新生突然変異による)ものもあり、その場合の再発率はごくわずかです。再発率が大きく異なるため、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 超音波検査で脳室の拡大や脳梁の異常が見つかることはありますが、それだけで診断することはできません。前のお子さまで原因となる遺伝子の変化がわかっている場合は、妊娠中の遺伝学的検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 名前の似た「2-ヒドロキシグルタル酸尿症」とは違う病気ですか。
A. はい。D型だけ、L型だけが増える病気は、それぞれ原因遺伝子も経過も異なります。この病気は D型とL型の両方が増え、新生児期から重い症状が出ることが特徴です。また、同じ SLC25A1 遺伝子の変化で、筋力の低下が中心の軽い病気になる方もいます。
Q. 生まれたあと、どのような経過になりますか。
A. 多くは新生児期からけいれんや呼吸の弱さがあり、重い発達の遅れを伴います。乳児期に亡くなるお子さまもいます。一方で、より長く生存している方の報告もあり、経過には幅があります。主治医とよく話し合いながら、お子さまに合った支援を考えていきましょう。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Nota B, Struys EA, Pop A, et al. Deficiency in SLC25A1, encoding the mitochondrial citrate carrier, causes combined D-2- and L-2-hydroxyglutaric aciduria. Am J Hum Genet. 2013;92(4):627-631.
- Edvardson S, Porcelli V, Jalas C, et al. Agenesis of corpus callosum and optic nerve hypoplasia due to mutations in SLC25A1 encoding the mitochondrial citrate transporter. J Med Genet. 2013;50(4):240-245.
- Pop A, Williams M, Struys EA, et al. An overview of combined D-2- and L-2-hydroxyglutaric aciduria: functional analysis of CIC variants. J Inherit Metab Dis. 2018;41(2):169-180.
- Kranendijk M, Struys EA, Salomons GS, Van der Knaap MS, Jakobs C. Progress in understanding 2-hydroxyglutaric acidurias. J Inherit Metab Dis. 2012;35(4):571-587.
- OMIM #615182 Combined D-2- and L-2-hydroxyglutaric aciduria. Online Mendelian Inheritance in Man.
