概要
ディグベ・メルヒオール・クラウセン病は、背骨と胸郭を中心に骨の成長が妨げられ、体幹の短い低身長となる骨系統疾患です。多くの場合、知的発達の遅れを伴います。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、DYM(18q21.1)遺伝子の変化が原因となります。
この病気の特徴は、生まれたときには目立った異常がなく、乳児期から幼児期にかけて少しずつ症状が明らかになることです。そのため、妊娠中の超音波検査で気づかれることはほとんどありません。成長とともに、胸が樽のようにふくらむ、背が伸びにくい、歩き方がよちよちする、といった変化が目立ってきます。
同じ DYM 遺伝子の変化によって、骨の変化はほぼ同じでも知的発達の遅れを伴わない「スミス・マッコート骨異形成症(1型)」が起こることがあります。ディグベ・メルヒオール・クラウセン病は、骨の症状に加えて知的発達の遅れや小頭症を伴う点で区別されます。
原因
DYM 遺伝子は、「ダイメクリン」というたんぱく質の設計図です。ダイメクリンは、細胞のなかで物を仕分けて送り出す「ゴルジ体」という場所のはたらきに関わると考えられています。
骨が伸びるためには、軟骨の細胞が軟骨の材料となる物質をつくって細胞の外へ送り出す必要があります。ダイメクリンがはたらかないと、この送り出しがうまくいかず、背骨や骨盤、手足の付け根の骨の成長が妨げられます。また、ダイメクリンは脳でもはたらいており、知的発達の遅れや頭の小ささにも関係すると考えられています。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 体幹の短い低身長:生まれたときの身長は普通でも、成長とともに差が目立ってきます
- 樽状の胸郭、鳩胸:胸が前後に厚くふくらんで見えます
- 知的発達の遅れ、小頭症:程度には個人差があります
- 首の骨(第1・第2頸椎)の不安定さ:脊髄が圧迫されるおそれがあり、注意が必要な合併症です
- 股関節の形成不全や脱臼、よちよちとした歩き方
- 関節の動きの制限、X脚・O脚、背骨の弯曲
- X線での特徴:骨盤(腸骨)の縁がレース飾りのようにギザギザに写る、背骨が平たい
検査・診断
乳幼児期に、背の伸びの悪さ、胸の形の変化、発達の遅れなどから疑われます。全身の骨のX線検査が診断の手がかりとなり、骨盤の縁がレース状に見える所見や、平たい背骨の形が特徴です。
見た目やX線の所見がムコ多糖症(モルキオ症候群)に似ることがありますが、この病気では尿中のムコ多糖の量は正常で、これが区別の手がかりになります。確定診断は遺伝学的検査で行い、DYM 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。次のお子さまの見通しを正しくお伝えするためにも、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。治療は、一つひとつの症状や合併症に対する治療(対症療法)と、成長・発達の支援が中心になります。整形外科、小児科、リハビリテーションなど多くの診療科が協力して、長く見守っていくことが大切です。
- 首の骨の定期的な確認:不安定さが強い場合は、脊髄を守るための固定手術を検討します。麻酔や手術の際にも特別な配慮が必要です
- 股関節・脚・背骨の整形外科的治療:変形や痛みの程度に応じて、装具や手術を検討します
- リハビリテーション:関節の動きを保ち、日常生活の動作を支えます
- 発達支援・療育:お子さまの発達の状態に合わせた教育や支援を行います
- ご家族への支援:福祉制度の利用や、ごきょうだいへの説明も含めて相談に応じます
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる DYM 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、DYM 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
DYM がコードするダイメクリンは、ゴルジ装置に局在し、ゴルジ体の構造維持と小胞輸送に関与すると考えられているたんぱく質である。2003年に2つの研究グループによって、本症の原因遺伝子として独立に同定された。患者の多くで機能喪失型(ナンセンス、フレームシフト、スプライス異常)の変異が報告されている。軟骨細胞では細胞外基質成分の分泌障害が想定され、病理学的には軟骨細胞内の拡張した粗面小胞体や空胞が記載されている。
同一遺伝子による対立遺伝子疾患として、スミス・マッコート骨異形成症1型がある。骨格表現型は本症とほぼ同一(短体幹型低身長、扁平椎、腸骨稜のレース状変化、環軸椎不安定性)だが、知的障害と小頭症を欠く点で区別される。スミス・マッコート骨異形成症1型ではミスセンス変異など残存機能を示唆する変異が報告されており、脳でのダイメクリン機能がどの程度保たれるかが神経学的表現型を左右すると考えられている。なお、スミス・マッコート骨異形成症2型は RAB33B を原因とする別の疾患である。
臨床的には出生時は正常で、乳児期〜幼児期に進行性に顕在化するため、胎児期の超音波で検出されることは稀である。鑑別としてはムコ多糖症IVA型(モルキオA症候群、GALNS)や脊椎骨端異形成症の各型が挙がる。本症は当初ムコ多糖症との関連が疑われたが、尿中グリコサミノグリカンは正常で、蓄積症ではない。最も重要な管理上の課題は歯突起低形成に伴う環軸椎不安定性で、脊髄症の予防のため定期的な頸椎評価が推奨される。報告は近親婚の多い集団からのものが多い。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。発症していないごきょうだいは、3分の2の確率でキャリアとなります。正確な見通しのために、原因遺伝子を確定しておくことが大切です。
Q. 妊娠中の超音波検査で分かりますか。
A. この病気は生まれたあとに少しずつ症状が現れるため、妊娠中の超音波検査で見つかることはほとんどありません。前のお子さまで原因となる遺伝子の変化が分かっている場合は、遺伝学的検査による出生前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 同じ遺伝子で知的な遅れのない病気もあると聞きました。
A. はい。同じ DYM 遺伝子の変化でも、骨の症状だけで知的発達の遅れを伴わない「スミス・マッコート骨異形成症」となる場合があります。遺伝子の変化の種類によって、脳でのはたらきがどの程度残るかが違うためと考えられています。
Q. 大人になるまで生活できますか。
A. 多くの方が成人期まで成長されます。ただし、首の骨の不安定さによる脊髄の圧迫は重い後遺症につながることがあるため、定期的な診察で早めに気づくことが大切です。関節や背骨の変形に対する治療や、発達に合わせた支援を続けることで、その方らしい生活を目指します。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Cohn DH, Ehtesham N, Krakow D, et al. Mental retardation and abnormal skeletal development (Dyggve-Melchior-Clausen dysplasia) due to mutations in a novel, evolutionarily conserved gene. Am J Hum Genet. 2003;72(2):419-428.
- El Ghouzzi V, Dagoneau N, Kinning E, et al. Mutations in a novel gene Dymeclin (FLJ20071) are responsible for Dyggve-Melchior-Clausen syndrome. Hum Mol Genet. 2003;12(3):357-364.
- Bonafé L, Cormier-Daire V, Hall C, et al. Nosology and classification of genetic skeletal disorders: 2015 revision. Am J Med Genet A. 2015;167A(12):2869-2892.
- OMIM #223800 Dyggve-Melchior-Clausen Dysplasia; DMC. Online Mendelian Inheritance in Man.
- OMIM #607326 Smith-McCort Dysplasia 1; SMC1. Online Mendelian Inheritance in Man.
