概要
ファンコニ・ビッケル症候群は、糖(ブドウ糖やガラクトース)を細胞の内外へ運ぶしくみがうまくはたらかないために、肝臓と腎臓にグリコーゲンがたまり、低血糖や腎臓の尿細管の障害を起こす先天代謝異常症です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、SLC2A2遺伝子の変化が原因となります。
多くは生後3か月〜1歳ごろまでに、おなかのふくらみ(肝臓の腫れ)、体重や身長の伸びの悪さ、くる病などで気づかれます。空腹時には血糖が下がり、食後には逆に血糖やガラクトースが高くなるという、一見矛盾した血糖の動きが特徴です。報告は世界でもまれで、ご両親が血縁関係にある家系での報告が多い病気です。
この病気は「糖原病XI型」と呼ばれることもあります。同じように肝臓が腫れて低血糖を起こす糖原病I型などとは原因遺伝子が異なり、腎臓の尿細管の障害(ファンコニ症候群)がはっきり出ることがこの病気の大きな特徴です。適切な食事療法と補充療法を続けることで、多くの方が成人期まで過ごしています。
原因
SLC2A2遺伝子は、GLUT2(グルットツー)と呼ばれる糖の通り道(輸送体)の設計図です。GLUT2は主に肝臓、腎臓の尿細管、小腸、膵臓のβ細胞ではたらき、ブドウ糖やガラクトースを細胞の内と外へ行き来させています。
GLUT2がはたらかないと、食後に肝臓が血液中の糖を取り込めないため血糖が高くなり、空腹時には肝臓でつくった糖を血液中に出せないため低血糖になります。出口をふさがれた糖はグリコーゲンとして肝臓にたまり、肝臓が腫れます。腎臓では、尿からいったん取り戻した糖が細胞の外へ出られずにたまり、尿細管のはたらきが全体に落ちて、糖・リン・アミノ酸・重炭酸などが尿に大量に失われます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 肝臓の腫れ(肝腫大)とおなかのふくらみ:肝臓にグリコーゲンがたまるためです
- 空腹時の低血糖と食後の高血糖:この病気に特徴的な血糖の動きです
- 腎臓の尿細管の障害(ファンコニ症候群):尿に糖が多く出るほか、リン・アミノ酸・重炭酸なども失われ、のどの渇きや尿量の増加、体が酸性に傾く状態(アシドーシス)を起こします
- くる病・骨のもろさ:尿にリンが失われ続けるため、骨が弱く変形しやすくなります
- 成長の遅れ・低身長:治療を続けても身長が低めにとどまることが多いとされます
- 丸い顔つき、思春期の遅れ
- 下痢など消化の不調、血液中の脂質の上昇がみられることもあります
検査・診断
肝臓の腫れ、成長の遅れ、くる病に加え、血液検査で空腹時の低血糖と食後の高血糖・高ガラクトース血症、尿検査で糖・リン・アミノ酸が大量に出ていることから疑われます。新生児マススクリーニングでガラクトースが高いことをきっかけに見つかる例もあります。
確定診断は遺伝学的検査で行い、ファンコニ・ビッケル症候群では SLC2A2 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。症状が似た糖原病やガラクトース血症などとは治療の内容が異なるため、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。妊娠中の超音波検査で異常が見つかることはほとんどありません。
治療
現時点で、原因そのものを治す治療はありません。治療の中心は、低血糖を防ぐ食事の工夫と、尿に失われるものを補うことです。早くから治療を始め、続けることで、体の成長や骨の状態の改善が期待できます。
- 食事療法:少量ずつ回数を多く食べ、生のコーンスターチなどゆっくり吸収される糖質で空腹時の低血糖を防ぎます。ガラクトース(乳糖)を控えることもあります
- 十分なカロリーと水分の確保:尿に糖や水分が多く失われるため、不足しないようにします
- 補充療法:リン、活性型ビタミンD、重炭酸(アルカリ剤)、電解質などを補い、くる病やアシドーシスを和らげます
- 定期的な検査:血糖、腎機能、骨の状態、成長を継続して確認します
- 栄養士・小児科(代謝・腎臓)・整形外科などによる多職種の支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる SLC2A2 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、SLC2A2 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
SLC2A2(3q26.2)は促進拡散型グルコース輸送体GLUT2をコードする。GLUT2は低親和性・高容量の双方向性輸送体で、肝細胞、近位尿細管および小腸上皮の基底膜側、膵β細胞に発現し、ブドウ糖・ガラクトース・果糖を輸送する。機能喪失により、食後は肝臓への糖取り込み低下と膵β細胞の糖感知障害から高血糖・高ガラクトース血症となり、空腹時は肝からの糖放出障害により低血糖をきたす。細胞内に滞留したブドウ糖はグリコーゲン分解を抑制し、肝・腎にグリコーゲンが蓄積する。
近位尿細管では再吸収した糖の基底膜側からの排出が障害され、汎近位尿細管機能障害(腎性糖尿、高リン尿、汎アミノ酸尿、重炭酸喪失)を呈する。とくに腎性糖尿が著明であることが本症の特徴で、低リン血症性くる病と成長障害の主因となる。1949年にFanconiとBickelが記載し、1997年にSanterらがGLUT2遺伝子の変異を同定した。変異はミスセンス、ナンセンス、スプライス、欠失など多様で家系ごとに異なるものが多く、血族婚家系での報告が目立つ。
鑑別としては、糖原病I型(G6PC1、SLC37A4)・III型(AGL)、ガラクトース血症(GALT など)、シスチン症(CTNS)、チロシン血症I型(FAH)、ウィルソン病(ATP7B)、ロウ症候群(OCRL、X連鎖)などが挙がる。糖原病I型と異なり乳酸アシドーシスや高尿酸血症は目立たず、ガラクトース血症と異なり肝不全や白内障は通常みられない。また、本遺伝子の一般的な多型が2型糖尿病の発症リスクなどとの関連で報告されているが、これらは単一遺伝子疾患としての本症とは別の問題である。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。2分の1の確率で症状のないキャリアとなり、4分の1の確率で変化を受け継ぎません。お子さまの性別による違いはありません。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. この病気は妊娠中の超音波検査では見つからないことがほとんどです。ご夫婦のキャリア検査や、前のお子さまで原因となる変化が分かっている場合の出生前の遺伝学的検査で調べることができます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 糖原病とは違う病気ですか。
A. 肝臓にグリコーゲンがたまる点は共通しており、「糖原病XI型」と呼ばれることもあります。ただし、原因はグリコーゲンを分解する酵素ではなく糖を運ぶ輸送体の異常で、腎臓の尿細管の障害がはっきり出る点が大きく異なります。そのため治療の内容も一部異なります。
Q. 治療をすれば普通の生活を送れますか。
A. 食事の工夫と補充療法を続けることで、多くの方が成人期まで過ごしています。一方で、低身長が残ることが多く、治療は生涯にわたって必要です。お子さまの成長に合わせて、医療チームと一緒に治療を調整していきます。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Santer R, Schneppenheim R, Dombrowski A, Götze H, Steinmann B, Schaub J. Mutations in GLUT2, the gene for the liver-type glucose transporter, in patients with Fanconi-Bickel syndrome. Nat Genet. 1997;17(3):324-326.
- Santer R, Groth S, Kinner M, et al. The mutation spectrum of the facilitative glucose transporter gene SLC2A2 (GLUT2) in patients with Fanconi-Bickel syndrome. Hum Genet. 2002;110(1):21-29.
- Santer R, Steinmann B, Schaub J. Fanconi-Bickel syndrome–a congenital defect of facilitative glucose transport. Curr Mol Med. 2002;2(2):213-227.
- OMIM #227810 Fanconi-Bickel syndrome; FBS. Online Mendelian Inheritance in Man.
